都市を木でつくる動きが加速している。炎に耐え、環境負荷も開示する。そんな“次の当たり前”に近づくニュースだ。山形発の建設テック企業・シェルターが、木質耐火部材「COOL WOOD」の柱(1時間・2時間耐火仕様)でEPD(環境製品宣言)を取得。耐火とサステナビリティ、両輪で攻める木造の現在地とは?

「燃えにくい木」に環境ラベルという第三の軸。
木は燃える。その常識を、技術でねじ伏せるのが木質耐火部材だ。COOL WOODは、荷重を受け持つ木部を石こうボード層などで賢く守り、1~3時間(2・3時間は国内初)の耐火を国交大臣認定でクリアしてきた。
今回加わったのは環境情報の透明性。製品のライフサイクルで発生するCO₂などを定量化し、国際規格(ISO 14025)で開示するEPDを取得した。対象は柱部材で、公開値は次のとおり。
■1時間耐火・柱:2.82×10² kgCO₂e(登録番号 HUB-3377)
■2時間耐火・柱:2.88×10² kgCO₂e(登録番号 HUB-3440)
“燃えない”だけでない。“どれだけ出すか”を見せる。建材の選定はここまで来た。


なぜいまEPDか?“運用”だけでは減らない時代。木で高層・大規模へ、耐火×環境の両輪が条件。
建物の省エネで排出を減らすのは当然だが、つくる・運ぶ・建てる・壊すまでに埋め込まれた排出(エンボディドカーボン)も無視できない。設計初期での材料比較が勝負どころになり、発注側からは「LCAの数値を出してくれ」が当たり前になりつつある。
EPDはその共通言語。気候変動(GWP)だけでなく、オゾン層破壊、酸性化、富栄養化などの環境影響領域、再生可能・非再生可能エネルギーや水消費といった資源利用指標まで、第三者レビューを経てテーブルに載る。サプライチェーンの“どこを絞れるか”が見える。
都市で木を上に積むには、耐火が絶対条件。COOL WOODは1~3時間のラインナップをそろえ、中心材にはスギ以上の比重をもつ樹種を選び、製材・集成・LVL・CLTまで幅広く対応する。
さらに今回のEPDで“環境で比べられる土俵”にも乗った。グリーンビルディングの評価では、EPD取得製品の採用が加点要素になるケースもある。国内案件だけでなく、ヨーロッパや北米の木造ビル市場を見据えるうえでも、国際フォーマットの開示は効く。
ローカル発、グローバル規格へ。技術供与で広がる設計自由度。“数値がある木”は強い。
シェルターはここ数年、スイスや米国の企業と技術供与を進めている。接合金物工法「KES」、木質耐火「COOL WOOD」、曲線・ひねりの「FREE WOOD」。耐火の裏付けに加えてEPDの開示が整うと、海外設計者は早い段階で意思決定できる。材料の“見える化”は国境を越え、設計の自由度に直結する。結果、木を使える場面が増える。都市に木を戻すスピードが上がる。
強く、燃えにくく、数値で語れる木。市場が求めるのはそこだ。EPDは魔法の杖ではないが、材料選びの議論を感覚からデータへ引き上げる。次の勝負は、プロジェクト単位での全体最適化だろう。構造・内装・設備・解体まで通したLCA、再利用・モジュール化の設計、地域材のロジスティクス。COOL WOODのような“見える”部材が増えるほど、設計の引き算は速くなる。都市に木造建築物を増やしていく近道かもしれない。
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