手のひら大の小型モジュールを浴槽内に装着することで、入浴者の心拍をモニタリング。この技術は、「CEATEC AWARD 2025」において、イノベーション部門賞を受賞した
★ここが重要!

★要点
キッチン・給湯・空調という“生活の心臓部”をIoTで束ね、見守り・ヘルスケア・省エネ・防災を横断。ガス×電気×データを統合し、家族の安心とエネルギー効率を同時に引き上げるアプローチ。
★背景
高齢化と共働き化、災害多発、電力料金の変動——家庭は“ミニ社会インフラ”。バラバラの家電連携では限界が見え、生活起点でのプラットフォーム化が競争条件に変わる。

家庭のDXは、生活導線を知るプレイヤーが握る。リンナイは、給湯・キッチン・空調という生活のコア機器をIoTで接続し、見守り・ヘルスケア・防災・省エネを横断する“暮らし起点のスマートホーム”を提示した。機器が勝手に賢く動き、人の安心を底上げする仕組みである。

見守りは“湯気”から始まる——日々の使用ログが家族の安心に変わる。

ガス給湯器やコンロ、換気機器の稼働ログは、生活のリズムそのものだ。朝の給湯、昼の調理、夜の入浴。これらをアプリで可視化し、異常な長時間稼働や“いつもと違う”を検知すれば、遠方の家族にも即通知。押しつけがましい見守りではなく、生活の延長で安否を察知できる。
重要なのは、人が新たな習慣を覚えなくても回ること。湯を沸かす、火を使う——その行為自体がデータになる。操作を強いないUIは、高齢者にもやさしい。

省エネは“ながら最適化”へ——給湯・換気・空調の同調制御。

家庭エネルギーの大本は給湯。そこで、給湯の待機・沸き上げ・追い焚きの最適化に、調理・入浴・在宅状況のデータを重ねる。例えば入浴予測に合わせて“必要な分だけ先回り加熱”、調理中の換気と空調を連携させて過剰排気を抑える。
ポイントは機器の足し算ではなく“同調制御”。台所と浴室が別々に賢くなるのではなく、家単位で効率を引き上げる。電力ピークの回避や料金メニュー対応も、家庭版DR(デマンドレスポンス)として効いてくる。


心拍の異常値を検知するだけでなく、心拍データをもとに「疲労回復に効果的な入浴方法は…」といったヘルスケア提案にも活用できる

防災は“ふだん”の延長線——非常時モードは自動で立ち上がる。

地震・停電・水害が常態化する日本で、ふだん使い⇄非常時の切り替えは自動がいい。ガス遮断や機器停止の安全動作、復電時の段階復帰、貯湯の生活用水転用、ガスと電気の使い分け——家庭のBCPがUIの奥に組み込まれる。
ハードの信頼性に、クラウドの通知や家族チャットを重ねれば“共助”は強くなる。避難判断や安否確認をワンタップ以下へ。

キッチンはウェルビーイングのスイッチ——栄養と調理ログで健康を回す。

火加減の自動化やレシピ連携は当たり前になった。そこに、栄養・温度・摂取タイミングのログが入ると、食事は家族のヘルスグラフに直結する。体調・活動量と連動した“今日の最適メニュー”提案、塩分の取り過ぎアラート、子の自炊ナビ——キッチンが家庭のウェルネスハブへ進化する。
“うちの味”を残す配慮も忘れない。アナログの所作に寄り添うガス火UI、木製什器や紙レシピの取り込みなど、テック臭を抑えた設計が日常に馴染む。


参考出品された、水素を使って食材を調理するBBQグリラー。CO2を排出しない上、食材がジューシーに焼き上がる

プラットフォーム化の勝負——“生活の信号”を握る者が勝つ。

スマートホーム市場は、規格・アプリ・サブスクの乱立でユーザーが疲れ気味だ。リンナイの強みは「毎日触る必需機器」から始められること。毎日必ず発生する給湯・調理の信号は、在宅推定・行動予測・安全監視の基礎データとして価値が高い。
家電横断の相互運用、自治体や見守りサービス、電力会社のDRとつながれば、家庭は小さな社会インフラに化ける。メーカーの役割は製造業から“生活運用業”へ。リンナイはその地平を見据えている。

Maintainable®︎NEWS EYE
“ふだん”の使い心地のまま、災害・省エネ・見守りをひとつにまとめる。
◎家の中で動くさまざまな機器を別々に見るのではなく、「快適さ」「安全」「節約」「見守りの効果」をまとめて感じ取れる仕組みを、地域単位で共通化していく構想だ。
電力会社の節電プログラムや自治体の見守りサービス、保険会社のリスク評価と連携すれば、日々の暮らし方そのものが、保険料の優遇やポイント還元といった“得するしくみ”につながる。
特別なアプリ操作をしなくても、いつもの生活の中で自然に安心と省エネを手に入れる。
スマートホームが本当に根づく鍵は、技術の派手さではなく、“暮らしそのものが報われる設計”にある。

取材・撮影 柴野 聰

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