
★要点
福岡市「天神LFCプロジェクト」が、渋谷で育まれた固有種「渋谷ルッコラ」の種を継承。生ごみコンポストで野菜を育て、食べ、種をつなぐ“都市型栄養循環”を福岡・天神で本格始動。
★背景
持続可能な社会への転換が急務な中、都市部における食料生産と廃棄物問題は深刻化。地域固有の種を守り、食の安全と環境負荷低減を両立させる循環型社会の構築が喫緊の課題。
現代社会が抱える環境問題と食の未来。その答えの一つが、都市の片隅で静かに育まれていた。東京・渋谷のコミュニティガーデンで生まれた「渋谷ルッコラ」の種が、福岡・天神へと海を渡り、新たな命を吹き込まれようとしている。都市が内包する「生ごみ」を「資源」に変え、食と環境の持続可能な循環を生み出す壮大な実験が、今、九州の地で始まる。
渋谷生まれ、天神育ち。都市型農業が紡ぐ種の物語
渋谷の雑踏の片隅、コミュニティガーデン「リバーストリートファーム」で、NPO法人アーバンファーマーズクラブ代表の小倉崇さんらが長年、大切に育ててきたルッコラの種があった。それが「渋谷ルッコラ」だ。生ごみコンポストを使い、都市環境に適応しながら何代も種取りを繰り返して固定種化された、まさに渋谷の「固有種」と言えるだろう。この貴重な種が、福岡・天神へ受け継がれる。都市における持続可能な食のあり方を問い続ける「天神LFCプロジェクト」が、その担い手となるのだ。地域固有の種を守り、次の世代へとつなぐ行為は、画一化された現代農業へのアンチテーゼであり、生物多様性保全への重要な一歩と言える。
半径2kmの栄養循環――生ごみが育む都市の菜園
「天神LFCプロジェクト」が目指すのは、生ごみを堆肥化し、野菜を育て、収穫し、再び種をつなぐ、まさに「おいしい栄養循環」だ。LFCとは、ローカルフードサイクリング(Local Food Cycling)の頭文字で、生ごみを資源として堆肥化し、野菜を育て、食卓へ戻す「半径2km圏内」での循環実現を目指す。2016年に博多・天神地区で始まったこのプロジェクトには、パタゴニア福岡ストアをはじめ約15の企業、ホテル、飲食店、保育園などが参画。地域から出る生ごみを堆肥として活用し、プランターや屋上菜園で野菜を育てる「都市型の小さな循環」を推進してきた。今回の「渋谷ルッコラ」の導入は、この循環のシンボルとなるだろう。地域の人々が共にルッコラを育て、味わい、種を採り、次の命へとつないでいく。これは単なる食料生産にとどまらず、都市に暮らす人々が食と環境のつながりを再認識する機会を生み出す。
キックオフイベント開催、都市と種の未来を語る
2025年11月23日(日)には、プロジェクトの始動を記念し、パタゴニア福岡ストアでキックオフイベント「天神ルッコラを育てよう!」が開催される。 渋谷ルッコラの生みの親である小倉崇さんと、ローカルフードサイクリング代表のたいら由以子さんが登壇し、「都市の循環と種の未来」をテーマに語り合う予定だ。参加費は無料で、イベントではルッコラの試食や種まき体験も実施され、参加者は実際に“おいしい循環”を体感できるだろう。都市における食のあり方、廃棄物問題、そして未来の種子の多様性を守る重要性について、深く考えるきっかけとなるに違いない。
このプロジェクトは、私たち一人ひとりが日々の生活の中で、いかに持続可能な選択をできるかという問いを投げかける。生ごみをただのゴミとして捨てるのではなく、新たな命を育む資源と捉え、都市に小さな畑を創造する。それは、地球規模の環境問題に対する、身近で実践的な解決策の一つとなるだろう。


あわせて読みたい記事

東京発・社員食堂から始まる循環型農業、「ゼロ・ウェイスト社食」が描く未来とは?

“土から始まる”次の農業革命、「Next Green Revolution」が描く2030年のフードシステムとは?

【食品ロス472万トンに挑む】未利用野菜に新たな命を──「upvege」が描く食の未来図

大阪・関西万博で「地域食品資源循環ソリューション」。会場内から排出される生ごみの資源循環により食品ロス削減。
