★ここが重要!

★要点
11月29日(土)に徳島県牟岐町の合同会社門口(代表・田中美有さん)が、使われなくなった人工林を舞台にカルチャーブランド「yusan」をスタート。地域の「遊山文化」を再解釈し、五感を刺激する体験やプロダクトを通じて、人・文化・自然の関係を再構築する。
★背景
過疎化と高齢化が進む地方において、放置された人工林は経済的・環境的負債となりつつある。これに対し、「yusan」は山林を文化資源として捉え直し、新たな経済的価値と地域活性化のモデルを創出する試みとして注目される。

かつて、山は人々の暮らしのあらゆる源だった。しかし、時代と共にその価値は見失われ、多くの人工林が管理されないまま放置されている。徳島県牟岐町から生まれたカルチャーブランド「yusan」は、この「眠る山」に再び光を当てる。代表の田中美有さんが提唱する「現代の遊山文化」とは何か。それは、失われた五感を呼び覚まし、山と人との関係を「つくる」ことから再構築する、未来に向けた挑戦だ。

「遊山文化」を現代に再定義

「yusan」というブランド名は、徳島に古くから伝わる「遊山文化」に由来する。かつて、人々は「遊山箱」を持って野山に出かけ、自然の中で飲食や遊びを楽しんだ。yusanが目指すのは、この「山に足を運び、食べる・つくる・読むといった日常の行為を山の中で行いながら、感性や創造性をひらいていく生活文化」の現代への再構築だ。
高度経済成長期を経て、山は生産の場として分業化され、経済の回路から切り離されていった。その結果、「管理されない土地」となり、人々の意識からも遠ざかってしまった。yusanは、こうした“社会の外側”に追いやられた山を、再び人の感覚と想像力の中に取り戻し、負債となっている山を文化的な資産へと変えることを目的としている。

感覚の再起動、山が呼び覚ます身体の知覚

yusanは、牟岐町の人工林に眠る杉や檜だけでなく、自生する在来の茶木や植物を「感覚を動かす素材」として捉える。現代社会の中で人工的な環境に囲まれ、鈍化してしまった身体の微細な感覚を、山での体験を通じて呼び覚ます。例えば、山に自生する茶を摘み、煮出し、味わう行為は、嗅覚、味覚、触覚を通じて環境と深く交わる体験となるだろう。
11月29日(土)には、第一弾商品として、山に自生するチャノキを手摘みし、地域に伝わる釜炒り茶の製法に中国潮州烏龍茶の要素を加えた「yusan bancha 01」をリリースする。山で生きるチャノキの個性を最大限に引き出す、まさに人との応答によってつくる新しい番茶だ。これは単なる「自然とのふれあい」ではなく、失われた身体の知覚を取り戻す文化的実践であり、そのプロセスを日常に持ち帰るデザインがyusanの核にある。

「つくる」が繋ぐ、山と人との新たな関係性

山と人との関係性は、元来「つくる」という行為の中にあった。暮らしの道具を編む、茶を淹れる、木を削る――そのすべてが、自然と人との対話だったのだ。しかし現代社会では分業化が進み、「つくる」ことは専門職の領域となり、日常から切り離されてしまった。yusanは茶会やクラフト制作といった実践を通じて、人が山と応答しながら“つくる”という感覚を取り戻すことを目指す。
ブランドオープンと同日開催される「yusan open market」は、「山と、遊ぶ?」をテーマに、県内外13の出店者によるフードやクラフトの販売、番茶の飲み比べ、茶会など、まさに五感を刺激する体験の場となる。人が山に足を運び、自らの手で何かを生み出すことで、山との新たな関係性が再構築されるだろう。

地域資源が拓く持続可能な未来への道筋

yusanの挑戦は、単なる商品開発やイベント開催に留まらない。それは、過疎化や高齢化が進む地方において、放置された山林という「負債」を、文化や感性を生み出す「資産」へと転換させる試みだ。出版活動や教育機関との連携、さらには今後展開予定の家具などのプロダクト開発を通じて、「新しい遊山文化」を生活の中にひらき、人が再び山と関わる流れを育てていく。
代表の田中美有さんは、「次の世代のために」という強い思いを胸に、祖父の代まで林業を営んでいた「門口」の屋号を承継し、このブランドを立ち上げた。彼女の言葉からは、幼少期の遊び場だった山が持つ「感性・創造性」を呼び覚ます力への確信がうかがえる。yusanは、文化と経済の両輪で山が続いていく仕組みを創出し、人と自然の関係を再構築する、持続可能な未来への道筋を示している。

番茶を体系的にまとめた「番茶本」

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