★ここが重要!

★要点
XENCE(代表社員:小澤巧太郎)が、地域の未利用木材を活用し、建設時にCO2排出量より吸収量が上回る「カーボンネガティブ」を実現した「サーキュラー木造温室」を販売開始。鉄骨と同等のコスト・強度を維持しつつ、脱炭素と地域経済循環を同時に叶える。
★背景
放置林による土砂災害リスクや林業衰退、農業資材の高騰など、地方が抱える課題は複合的。単なる「施設建設」ではなく、地域資源をエネルギーと建材として使い倒す“循環のインフラ”としての建築モデルが求められている。

農業用ハウスといえば、銀色のパイプとビニールの光景が脳裏に浮かぶ。だが、その常識は過去のものになりつつある。名古屋大学発のスタートアップ「XENCE(ゼンス)」(代表社員:小澤巧太郎)が市場に放ったのは、鉄ではなく「木」で組まれた温室だ。それも、ただの木造ではなく、製材所の片隅で捨てられるはずだった“半端な木材”を主役に据え、建てれば建てるほど大気中のCO2を固定化する。環境負荷を「減らす」段階を超え、「マイナスにする(吸収する)」建築への転換点。日本の森林と食の現場をつなぐ、静かな革命が始まっている。


“厄介者”を資源に変える。未利用材とカーボンネガティブの算術

日本の山には木が余っている。しかし、規格外の大径木や製材端材は、使い道がなく廃棄されるか、二束三文で取引されるのが関の山だった。XENCEはこの「未利用木材」に目をつけた。
彼らの開発した「サーキュラー木造温室」は、これらの木材を主要構造材として活用する。特筆すべきは環境性能で、一般的な鉄骨ハウスが建設時に1ヘクタールあたり約770トンのCO2を排出するのに対し、この木造温室は約880トンのCO2を固定する。建設プロセスそのものが、巨大な炭素貯蔵庫を作る行為となるわけだ。さらに、解体後は100%素材回収が可能。作って終わりではなく、素材が循環し続けるサプライチェーンを設計段階から組み込んでいる。

躯体換算で鉄骨ハウスの場合はLCCO2が773.5tCO2/haの排出だが、木造ハウスの場合は882.0t-CO2/haの固定となる 

「環境に良い」は「高い・弱い」ではない。鉄骨並みのコストと耐久性

「木造は腐るし、高いだろう」。そんな旧来のイメージも、技術の更新とともに払拭されつつある。本プロダクトは、モジュール化された構造により、鉄骨造の温室と同等の建設コストと強度を実現した。むしろ、木材本来が持つ断熱性や調湿性は、農作物の生育環境として鉄より優れている側面もある。
特に注目したいのは「耐塩害性」だ。沿岸部の農業や観光施設において、潮風による鉄骨の錆は頭痛の種だった。木造ならその心配はない。すでに三重県志摩市での導入実績があり、海辺のリゾートや養殖拠点としての適性も証明済みだ。環境配慮はもはやコスト増の要因ではなく、機能的な選択肢となってきている。

農業施設から“地域のOS”へ、観光・教育・コミュニティをつなぐ

この温室の狙いは、単に野菜を育てることだけではない。XENCE代表の小澤巧太郎さんが「地域の未来を育てる装置」と語るように、その用途は多岐にわたる。
高いデザイン性と居住性を活かし、観光農園のテラスやカフェ、教育機関の研究ラボ、あるいはグランピング施設のハブとして機能する。木材の調達から施工、運営までを地域内で完結させることで、林業と観光業、農業が密接にリンクする。いわば、温室が地域経済を回すための「OS(基本ソフト)」のような役割を果たすのだ。
2026年には国内10地域への展開、さらにはオランダなど欧州進出も視野に入れる。日本のローカルな木材が、グローバルな環境建築のスタンダードになる日もそう遠くないだろう。

XENCE代表・小澤巧太郎さん

会社情報
XENCE(ゼンス):名古屋市千種区不老町1 名古屋大学 Tokai Open Innovation Complex

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