★ここが重要!

★要点
宮城・仙台港に国内最大級となる木質バイオマス専焼発電所が稼働。間伐材や製材くず由来の森林認証バイオマスで112MW・約26万世帯分を発電し、東北の安定電源を担いながらカーボンニュートラルに貢献する。
★背景
日本の電力に占めるバイオマス比率は拡大する一方で、輸入ペレット依存や森林劣化への懸念も高まる。再生可能エネルギーでありながら「本当に持続可能か」を問われる局面で、地域発の発電所が森林資源とどう向き合うかが試金石になる。

再生可能エネルギーは「きれいな電気」で終わらない。燃料はどこから来て、どこまで持つのか。日本有数の港湾エリアである仙台港に、国内最大級の木質バイオマス専焼発電所「仙台港バイオマスパワー」が立ち上がった。発電出力112メガワット、年間約80万メガワットアワー、一般家庭約26万世帯分をカバーする規模だ。
気候危機とエネルギー安全保障、そして森林の持続可能な利用。その三つ巴の課題に、商社・電力・ガス会社・地域商社の連合体が挑む。これは単なる「新しい発電所」ではなく、森と地域と電力システムをつなぎ直す社会実験である。

26万世帯を支える“専焼”バイオマス発電のスケール

仙台港バイオマスパワー発電所は、住友商事、東京ガス、北陸電力、住友商事東北の4社が出資する合同会社が運営する。発電出力は112メガワット、年間発電量は約80万メガワットアワー。これは一般家庭約26万世帯分の年間消費電力量に相当する。
特徴は「専焼」であることだ。石炭火力の一部を木質チップに置き換える“混焼”ではなく、燃料を木質バイオマスに振り切った。CO₂排出の多い化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーだけでベース電源をまかなう姿を目指す。
日本では、太陽光や風力が「主役」として語られがちだが、発電量が天候に左右されるという弱点を抱える。その穴を埋めてきたのが、安定出力が可能なバイオマス発電だ。事業用の再生可能エネルギー設備容量に占めるバイオマスの割合は、すでに太陽光に次ぐ規模まで拡大している。
ただし規模が大きくなるほど、燃料の「質」と「距離」が問われる。燃やす木の出どころが、発電所の“環境価値”を決める時代に入った。

木を燃やしてもカーボンニュートラル? 森林認証材と“見えないCO₂”

本発電所の燃料は、間伐材や製材くず、低級材などを原料にした木質ペレットやチップだ。いずれも森林認証を取得した資源で、供給は住友商事が担う。伐る木と育つ木のバランスを保ちつつ、二酸化炭素の収支を中長期でゼロに近づける——建前としてのカーボンニュートラルのロジックである。
しかし、ここで終わらせると議論は浅い。木を燃やせば、その瞬間にCO₂は大気中へ放たれる。一方で、森林が再び吸収するには時間がかかる。燃料を遠方から大量に輸送すれば、その過程でも化石燃料が使われる。
実際、世界的には大規模バイオマス発電向けの木質ペレット需要の急増が、森林伐採や生態系への影響を招きかねないと懸念する声も強い。日本や英国のようにバイオマス発電容量を急拡大させている国は、輸入ペレットに依存し、海外の森林に負荷を押し付けているという批判もある。
仙台港バイオマスパワーが掲げる「森林認証」と「トレーサビリティ」は、その批判への一つの応答だ。どの森から、どのような履歴を持つ木をどれだけ使っているのか。紙の上の認証で終わらせず、どこまで可視化できるかで、この発電所の真価は決まる。

東北のエネルギーインフラから、“森のインフラ”へ

この発電所が立地するのは、東日本大震災の傷跡を背負う仙台港エリアだ。送電網や港湾という「インフラの結節点」に、森を燃料とする新しいインフラが加わったとも言える。
ポイントは、エネルギーだけでなく、地域の森林経営とどう結びつくかである。燃料に使うのは、森林の成長過程で発生する間伐材や、これまで価値が低かった製材くず、低級材。適切に循環させれば、林業の収益性向上と、荒れた森の再生の両立が見えてくる。
逆にいえば、地域の森林管理体制が脆弱なままで「燃料需要」だけが先行すれば、資源の枯渇や乱伐を招くリスクもある。バイオマス発電が持続可能かどうかは、発電所単体の工夫ではなく、流域全体の森づくりとセットで評価されるべきだ。
東北には、雪と風にさらされながら育つ針葉樹や広葉樹の森が広がる。そこから出る「余りものの木」をどう価値に変えるか。仙台港バイオマスパワーは、地域林業のビジネスモデル自体を更新するきっかけになり得る。

“安定電源”の先にあるもの、熱利用と分散化への宿題

木質バイオマス発電の強みは、天候に左右されない「安定電源」であることだ。電力システム全体から見れば、太陽光や風力の変動を支える“土台”として期待されている。
しかし、電気だけをつくって終わりではもったいない。燃焼時に発生する熱を地域の温水プールや工場、温室栽培などに供給すれば、エネルギー利用効率は一気に高まる。海外では、バイオマス発電と地域熱供給を組み合わせた「コージェネレーション」は珍しくない。日本でも、仙台港のような拠点で熱のネットワークをどう描くかが次の論点になる。
もう一つの宿題は「分散化」だ。大規模発電所はスケールメリットがある一方で、燃料調達も送電も“ハブ&スポーク型”になる。将来的には、仙台港のような大規模拠点と、山間部や地方都市に点在する小規模バイオマス設備を組み合わせた、多層的なエネルギーシステムに移行していく必要があるだろう。
仙台港バイオマスパワーは、その入口に立ったにすぎない。エネルギーシステムの安定性と、森林・地域経済の持続可能性を同時に満たす“解”を探るプロトタイプなのである。

「再エネなら何でも良い」の先へ、市民が見たいもの、問うべきこと

日本では、電気の「色」はまだ見えにくい。家庭のスイッチを押しても、その先でどんな発電所が動き、どんな燃料が燃えているかを実感する機会はほとんどない。
仙台港バイオマスパワーのような大型設備こそ、情報を積極的に開き、市民を招き入れる必要がある。燃料の産地や認証の有無、CO₂収支、森林へのインパクト——それらを定量的に示し、「再エネだからクリーン」という単純な物語から一歩踏み出せるかどうか。
同時に、私たち側にも問われている。
・安定供給と環境負荷のトレードオフをどう許容するか。
・輸入ペレットに依存する発電所と、地域材を使う発電所をどう評価し、選ぶか。
「森を燃やす発電は悪だ」と切って捨てるのも、「再エネなら万歳」と持ち上げるのも簡単だ。大事なのは、その間に広がるグレーゾーンを、データと現場の声をもとに見つめ直すことだろう。
仙台港の海風を受けて回り始めたタービンは、その問いを私たちに投げかけている。

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