★ここが重要!

★要点
国立青少年教育振興機構、山梨日日新聞社、プロジェクトデザインの調査研究で、カードゲーム「moritomirai」による事前学習の後に森林体験を行う順序が、知識・思考力だけでなく、ESD的態度や社会貢献への行動意欲まで最も大きく伸ばすことが示された。対象は小学5年生から中学1年生の741人だ。
★背景
探究学習は重視される一方、教育現場ではテーマ設定の難しさ、野外活動の安全確保、酷暑や予算・引率負担といった制約が強まっている。だからこそ、実体験の価値を下げずに、学びの設計そのものを組み替える必要が出てきた。

探究学習は、「何を学ぶか」より「どう並べるか」の時代に入ったのかもしれない。森に行けば学べる。体験すれば心が動く。そう信じられてきた環境学習に対し、今回の調査はもう一歩踏み込んだ答えを出した。先にゲームで概念をつかみ、その後に森へ行く。この順番が、知識の定着だけでなく、社会に関わろうとする気持ちまで押し上げるという。体験は大事だ。だが、体験は順番で化ける。

「森に行けば分かる」は半分正しい。学びは順序で深くなる

調査では、小学5年生から中学1年生の741人を4群に分けた。カードゲームのみ、カードゲームの後に森林活動、森林活動の後にカードゲーム、森林活動のみ。比較したのは、学習前後での変化である。結果は明快だった。カードゲーム単体でも一定の伸びが見られたが、最も大きく伸びたのは「カードゲーム→森林体験」の順で学んだ群だった。しかも効果は知識面だけにとどまらず、思考力、判断力、表現力、さらに学びに向かう力や社会貢献への意欲まで広がった。
つまり、森そのものが答えなのではない。森を見る“目”を先につくっておくことが、体験の質を変えるということだ。

ゲームが先だと、なぜ行動意欲まで伸びるのか

研究が示したのは、カードゲームが単なる導入教材ではないという事実。事前にゲームで、森の構造や関わる人、目に見えにくい社会システムを疑似体験しておくと、現地で何を見るべきかが明確になる。いわば、子どもたちは“概念の地図”を持って森へ入ることになる。すると、ただ「自然が気持ちよかった」で終わらず、森の管理や人の営み、資源循環とのつながりを自分事として受け取りやすくなる。調査では、この順序の群で情報保持率が95%と非常に高かったことも示されている。
体験は、準備された頭で受けたときに、初めて行動の燃料になると言えるだろう。

逆順にも意味はある。「感じてから考える」が育てる力

一方で、「森林体験→カードゲーム」の順序にも別の強みがあった。先に森へ行くと、不便さ、危険、におい、湿度、音といった身体感覚が出発点になる。その後にゲームを重ねることで、現場で感じたことが「誰が森を管理しているのか」「制度はどうなっているのか」という理解につながりやすくなる。調査では、この順序が自然への愛着や管理的視点の形成に有効だと整理されている。
つまり、どちらが絶対に正しいという話ではない。何を伸ばしたいのかで、順番を変えるべきだということだ。探究学習は、内容の足し算ではなく、順序のデザインへ移っている。

酷暑、クマ、予算不足……、体験学習を阻む現実に、どう向き合うか

この研究の価値は、教育理論だけでなく、現場の制約に対する答えにもなっている。リリースでも、真夏の酷暑による屋外活動制限、野生動物出没による安全確保の難しさ、遠方への移動に伴う時間・予算・引率人員の不足が課題として挙げられている。そうした条件下でも、カードゲームを使えば教室内で森や社会システムの構造を学ぶことができ、屋外活動の価値を下げずに“入口”を作れるというわけだ。

“覚えるSDGs”から“体験する社会課題”へ

ここ数年、SDGs教育は広がったが、しばしば「17の目標を覚える学び」に寄りがちだった。その限界を超える手法として、ゲームやシミュレーションを使った学びが注目されている。moritomiraiも、その流れの中にある。プロジェクトデザインの公式サイトでは、環境学習やフィールドワーク前の導入、企業・行政研修、市民向けワークショップなど、幅広い場面で活用可能なツールとして紹介されている。森の現状や持続的活用を楽しみながら理解するための設計であり、山梨日日新聞社の地域プロジェクトから生まれた背景も示されている。
学ぶとは、知識を受け取ることではなく、現実を見るレンズを手に入れることなのだということが分かる。

探究学習は「何をやるか」から「どう編むか」へ

この調査が示した本当の論点は、教材の優劣ではなく、授業をどう編むかである。ゲームは導入、森は本番、最後に振り返りと言語化。この流れを意図的に設計すると、子どもたちの中で知識と感情と行動意欲がつながる。逆に、順番を設計しないまま体験だけを置いても、感動は残っても概念理解が浅く終わる可能性がある。
探究学習の課題は、テーマ不足ではなく、学びの順序設計不足なのかもしれない。教室と現場、抽象と具体、遊びと実体験。その間をどうつなぐか。ここがポイントだ。

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