★ここが重要!

★要点
猛暑により「クールケーション(避暑旅行)」需要が急拡大。検索数は最大237%増と、旅行者の意思決定が“気温基準”へとシフト。
★背景
気候危機の常態化により、観光は「どこへ行くか」より「どの気候で過ごすか」が重要視される傾向にある。環境配慮・地域共生を重視する新たな旅行スタイルが浮上。

行き先ではなく、気温で旅を選ぶ時代に入った。世界的な猛暑と気候変動の進行を受け、旅行者の意思決定は大きく変わり始めている。いま拡大する「クールケーション」は、観光の価値基準そのものを更新する動きだといえる。データが示すのは、快適さと持続可能性を軸に再編される“新しい旅の地図”だ。

検索数237%増!“暑さ回避”が顕在化した旅行動機

グローバル旅行サービス大手のTrip.com Groupが公表したデータは実に明快だった。2026年に入り、避暑地に関する検索数は前年同期比74%増。さらに夏季には最大237%増と急伸した。旅行者は明確に「暑さを避ける」という動機で動き始めている。
背景にあるのは、もはや例外ではない猛暑だ。欧州の熱波、アジアの高温多湿、各地で繰り返される異常気象。こうした現実が、旅の意思決定を“気候リスク回避”へと押し出した。人気観光地かどうかより、「滞在中の快適性」が観光の評価軸として選ばれる時代が到来した。

北へ、そして南半球へ。反転する観光フロー

旅行で人気の行き先も変わり始めてきた。ヨーロッパではアイスランドやノルウェーなど冷涼な地域への関心が上昇し、氷河ハイキングやフィヨルドクルーズといった“寒冷地ならではの体験”が新たな魅力となっている。アジアでは北海道や札幌が浮上。
注目すべきは、日本人旅行者の関心はさらに遠くの、南半球にまで広がっていることだ。ニュージーランドのホテル検索は前年比108%増、オーストラリアも50%増。季節が逆転する地理的特性を活かし、“夏に、冬へ逃げる”動きが顕在化した。
観光はこれまで「ピークシーズンに集まる産業」だった。しかし今後は、気候に応じて分散し、地球規模で需給が再配分されていく可能性が高い。

“快適さ”と“倫理”の融合――サステナブルトラベルの実像

クールケーションの本質は、環境意識の変化だ。調査では、旅行者の47%が環境保護を重視し、38%が文化遺産保全を重視している。
この流れを後押しするのが、世界自然保護基金などが提唱する「責任ある旅行」だ。移動回数を減らし滞在を長くする、鉄道など低炭素移動を選ぶ、地域文化を尊重する。旅は、消費から「地域との関係構築」へと軸足を移しつつある。
つまり、クールケーションは「快適だから選ぶ」だけでは終わらない。「環境負荷を抑えながら楽しむ」という倫理的選択と結びつき、旅行の質そのものを再定義している。

観光産業の再設計。“選ばれる地域”の条件が変わる

“選ばれる地域”の条件の変化は、観光産業にとっても構造転換を意味する。
重要になるのは次の三点だ。第一に「気候適応力」、暑さを回避できる自然条件や都市設計が価値になる。第二に「分散化」、混雑を避けるニーズが、二次都市や地方への流入を促す。そして第三に「透明性」、サステナブル認証や環境配慮の可視化が選択の基準となる。
すでに旅行プラットフォームは、低炭素フライトや認証ホテルの検索機能を強化し始めている。観光は“体験の提供”から“選択の最適化”へと進化した。

旅は気候の上に成り立つ――変わる価値、残る問い

かつて観光は、非日常を求める行為だった。だが今、その前提が揺らいでいる。日常そのものが過酷になれば、旅に求めるのは刺激ではなく「回復」になる。
クールケーションはその象徴だ。涼しさ、静けさ、持続可能性。これらは一過性のトレンドではない。気候変動が続く限り、構造的な需要として定着するだろう。
観光は環境に依存する産業であると同時に、環境へ影響を与える産業でもある。そのジレンマの中で、どのようにバランスを取るのか。
“どこへ行くか”ではなく、“どんな地球で旅をするのか”。この問いが、今後の観光業界で課題となってくるだろう。

あわせて読みたい記事

【観光は「消費」から「再生」へ】サステナブルな旅アワードが示した“次の旅行者像”

【世界の“持続可能な観光地”TOP100】関門エリアが国内初選出——橋・トンネルまで観光資源にするエリア経営

【迫る気象災害】春から体を“夏仕様”へ——熱中症ゼロへ向けた「暑熱順化」の最前線