
★要点
カヤバと日本トムソンが、岐阜県美濃加茂市の「美濃加茂バイオマス発電所」由来の環境価値を活用するオフサイト型バーチャルPPAを導入した。カヤバは年間約4,000トン、日本トムソンは年間約2,055トンのCO2削減を見込む。未利用間伐材を燃料にした木質バイオマス発電を、製造業の脱炭素と地域資源循環につなげる動きだ。
★背景
企業の再エネ調達は、単に「電気を買う」段階から、「どこの資源を、どのように使い、地域に何を返すか」を問う段階へ入った。太陽光や風力に比べて天候に左右されにくいバイオマスは安定電源として期待される一方、燃料の出どころ、森林管理、CO2収支の透明性が問われる。今回の2社の取り組みは、脱炭素、地域林業、ネイチャーポジティブを同時に考える試金石だ。
再生可能エネルギーは、もう“どこか遠くの電気”では済まされない。カヤバと日本トムソンが導入したのは、岐阜県美濃加茂市の木質バイオマス発電所から生まれる環境価値を活用するオフサイト型バーチャルPPAだ。燃料は主に岐阜県産の未利用間伐材。工場が立地する地域の近くで生まれた再エネ価値を、製造業の脱炭素に結びつける。これは電力契約のニュースに見えて、実は森、工場、金融、地域経済をつなぎ直す話である。
美濃加茂の森から、製造業の脱炭素へ。2社が選んだ同じ電源
今回、カヤバと日本トムソンがそれぞれ導入したのは、中部電力ミライズのオフサイト型バーチャルPPAサービスを通じた再生可能エネルギー由来の環境価値だ。電源は、岐阜県美濃加茂市にある「美濃加茂バイオマス発電所」。同発電所は2023年10月に運転を開始し、発電出力は7,100kW、想定発電量は年間約5,000万kWh。燃料には、主に岐阜県産の未利用間伐材などを使う。
カヤバは2026年5月から、この発電所由来の再エネを導入し、年間約4,000トンのCO2削減に寄与するとしている。日本トムソンも同じ発電所から創出される環境価値のうち約5,000MWh相当分を、約17年間にわたり取得する契約を結び、年間約2,055トンのCO2削減を見込む。
面白いのは、2社とも製造業であり、岐阜との接点を持つ点だ。カヤバの岐阜工場は可児市にあり、美濃加茂市はその隣接市。日本トムソンも国内生産拠点を岐阜県内に構える。同じ県内で生まれた環境価値を、地域に根ざす事業活動に使う。ここに「地産地消型の再エネ調達」という物語が生まれる。

バーチャルPPAとは何か? 電気そのものではなく“環境価値”を長期で買う
オフサイト型バーチャルPPAは、少し分かりにくい。発電所から企業の工場へ電気が直接流れるわけではない。企業が取得するのは、再生可能エネルギーで発電したことを示す環境価値である。PR TIMES上の両社リリースでも、敷地外の再エネ電源で発電された電気由来の「CO2排出量ゼロであることを示す価値」を活用するサービスとして説明されている。
つまり、企業は通常の電力供給とは別に、再エネ由来の非化石価値を長期で調達する。これにより、使用電力に伴うCO2排出量を実質的に削減できる。特に製造業にとっては、Scope1、Scope2の削減、取引先から求められる脱炭素対応、サプライチェーン全体の環境情報開示に直結する。
ただし、ここで大切なのは「実質ゼロ」という言葉の扱いだ。実質ゼロは魔法ではない。どの電源から、どれだけの環境価値を、どの期間、どの制度で調達するのか。その説明がなければ、消費者にも取引先にも伝わらない。バーチャルPPAは有効な手法だが、透明性とセットで初めて信頼される。
木質バイオマスの強み——太陽光・風力と違う“安定電源”の役割
美濃加茂バイオマス発電所の特徴は、未利用間伐材などを燃料にする木質バイオマス発電であることだ。カヤバのリリースは、同発電所について、再エネ電源の中でも天候に左右されにくいという特長を持つと説明している。
太陽光や風力は、脱炭素の主役だ。一方で、発電量は天候や時間帯に左右される。バイオマスは燃料を確保できれば出力を調整しやすく、安定電源としての役割を担える。製造業の工場は電力の安定性を重視する。だからこそ、木質バイオマス由来の環境価値は、単なる再エネ比率の向上だけでなく、エネルギー調達の安心感とも結びつく。
Maintainableでも、仙台港バイオマスパワーを取り上げた記事で、木質バイオマス発電を「安定電源」として評価しつつ、燃料の出どころや森林利用の持続可能性を問う視点を示した。今回の美濃加茂のケースも、同じ論点を持つ。再エネだから良い、で終わらせてはいけない。森の使い方まで見なければ、本当の環境価値は見えない。
未利用間伐材は“燃料”であり“森林整備の入口”でもある
日本トムソンは、未利用間伐材の活用について、本来なら廃棄される木材を有効活用できるだけでなく、森林整備の促進や森林保全、生態系の維持・回復といったネイチャーポジティブへの貢献も期待されるとしている。
ここが今回の取り組みの肝だ。木質バイオマスは、単に木を燃やす発電ではない。適切に使えば、山に放置されていた未利用材に価値を与え、林業の収益を補い、森林整備の循環を支える。間伐が進めば、森に光が入り、下草が育ち、水源涵養や土砂災害防止、生物多様性の維持にもつながる可能性がある。
もちろん、燃料需要が過剰になれば別のリスクも生まれる。木材を燃やす以上、伐採、搬出、加工、輸送、燃焼の全体を見なければならない。どの森から、どのような未利用材を、どれだけ使っているのか。森林管理の実態、燃料のトレーサビリティ、CO2収支の時間軸が問われる。
バイオマス発電の価値は、発電所の煙突だけでは決まらない。森の現場と、地域林業の健全性が決める。
“地域型再エネ”の意味——大企業の脱炭素が地域経済を動かす
今回の2社の導入は、企業の脱炭素調達が地域経済にどう関わるかを示している。カヤバは、拠点周辺の資源を活用した再エネ利用拡大を通じ、地域社会と連携した脱炭素化を推進するとしている。日本トムソンも、岐阜県内で創出される環境価値を活用することで、地産地消型の環境価値利用が可能になると説明している。
これまで企業の再エネ調達は、価格とCO2削減量で語られることが多かった。だが、これからは違う。どの地域の電源を支えるのか。地域資源の循環にどう関わるのか。林業、発電、製造業、金融、自治体がどう結びつくのか。再エネ調達は、企業のCSRではなく、地域の産業政策にもなる。
地域型木質バイオマス発電は、燃料を地域から集め、発電の価値を地域の企業が使うことで、エネルギーと資金の流れを近づける。これは輸入燃料に依存してきた日本のエネルギー構造を、少しずつ組み替える動きでもある。
電気を買うことは、地域を選ぶことになる。再エネの時代には、その意味が重くなる。
ネイチャーポジティブと脱炭素をどう両立するか
脱炭素と自然保全は、必ずしも自動的に一致しない。再エネ設備を増やせばCO2は減るかもしれないが、自然環境への負荷が増えれば本末転倒だ。太陽光、風力、バイオマス、どの電源にも場所と資源の問題がある。
日本トムソンがリリースで「ネイチャーポジティブへの貢献」に言及した点は重要だ。ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止め、回復へ向かわせる考え方である。木質バイオマスの場合、燃料調達が適切なら森林整備を促し得るが、乱暴に進めれば逆に自然を損なう。だからこそ、CO2削減量だけでなく、森林整備量、燃料調達範囲、林業者への還元、生態系への影響も見ていく必要がある。
企業の環境対応は、「脱炭素」から「脱炭素+自然資本」へ広がっている。今回の取り組みは、その入口にある。美濃加茂の環境価値が本当に地域の森を支えるなら、再エネ調達は自然再生の装置にもなり得る。
環境価値を“見える電気”に変える
今回の2社の取り組みを、点で終わらせないために必要なことは三つある。
第一に、燃料の見える化。未利用間伐材がどの地域から出て、どのように集められ、どの程度森林整備に寄与しているのか。ここを定期的に公開すれば、木質バイオマスへの信頼は高まる。
第二に、環境価値の説明責任。バーチャルPPAや非化石証書は、一般には分かりにくい。企業は「年間何トン削減」だけでなく、「何を調達し、どの範囲の排出を、どのように削減扱いにしているのか」を平易に説明する必要がある。
第三に、地域との接点づくり。工場で使う環境価値が、近くの森や林業とつながっているなら、社員研修、地域見学、森林整備活動、子ども向け教育にも展開できる。再エネ調達を、帳簿上の環境対応で終わらせず、社員や地域が実感できるものにする。
脱炭素は数字で進む。だが、社会に根づくには物語が要る。美濃加茂の森から生まれた電気の価値を、岐阜の工場が使う。その物語をどこまで具体化できるかが、次の勝負である。
この記事の要約——カヤバと日本トムソンのバイオマスPPAとは何か
カヤバと日本トムソンは、岐阜県美濃加茂市の「美濃加茂バイオマス発電所」由来の環境価値を、中部電力ミライズのオフサイト型バーチャルPPAサービスを通じて活用する取り組みを始めた。カヤバは年間約4,000トン、日本トムソンは年間約2,055トンのCO2削減を見込む。発電所は主に岐阜県産の未利用間伐材などを燃料とし、天候に左右されにくい再エネ電源として、脱炭素と地域資源循環の両立を目指す。今後は、燃料調達の透明性、森林整備への貢献、非化石証書やバーチャルPPAの説明責任が、取り組みの信頼性を左右する。
FAQ
Q1. カヤバと日本トムソンが導入した取り組みは何か。
両社は、美濃加茂バイオマス発電所由来の環境価値を活用するオフサイト型バーチャルPPAを導入した。カヤバは2026年5月から、日本トムソンは約17年間の長期契約で環境価値を取得する。
Q2. 美濃加茂バイオマス発電所とは何か。
岐阜県美濃加茂市にある木質バイオマス発電所で、発電出力は7,100kW、想定発電量は年間約5,000万kWh。主に岐阜県産の未利用間伐材などを燃料にしている。
Q3. CO2削減効果はどの程度か。
カヤバは年間約4,000トン、日本トムソンは年間約2,055トンのCO2削減を見込んでいる。
Q4. オフサイト型バーチャルPPAとは何か。
企業の敷地外にある再生可能エネルギー電源から生まれる環境価値を、企業が長期的に調達する仕組み。電気そのものではなく、CO2排出量ゼロを示す価値を取得する点が特徴だ。
Q5. 木質バイオマス発電のメリットは何か。
天候に左右されにくく、安定電源として使いやすい点がある。また、未利用間伐材を活用すれば、森林整備や地域林業の活性化につながる可能性がある。
Q6. 注意点は何か。
木質バイオマスは、燃料の出どころや森林管理の実態が重要だ。CO2削減量だけでなく、燃料調達の透明性、森林保全への効果、地域への還元を継続的に確認する必要がある。
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