
★要点
アスクルの使用済みクリアホルダー資源循環事業では、2026年5月末までに累計405トン、3,959事業所分を回収。排出、分別、再生ペレット化、製品化までをデジタルで管理する仕組みが導入された。
埼玉県横瀬町では、発火リスクのあるリチウムイオン電池を専用容器で集め、熱処理や破砕を経て、ニッケルやコバルトを含むブラックマスを回収する実証が始まる。
一方、国立環境研究所などの研究では、海を漂うマイクロプラスチックから、可塑剤、難燃剤、紫外線吸収剤などを検出。プラスチックは細かく砕けても、化学物質に関する懸念まで消えるわけではない。
★背景
資源循環は、「何トン回収したか」「再生材を何%使ったか」という量で評価されることが多かった。
しかし、回収物がどこへ運ばれ、何に再生され、どの程度が製品へ戻ったのかが確認できなければ、循環が最後までつながったとは言えない。
回収後には、電池の発火、異物混入、品質低下、有害な添加剤の残留などの問題も待っている。循環経済は、回収量を競う段階から、安全性、透明性、再生材の品質まで問う段階へ進み始めた。
街に回収箱を置く。企業が使用済み製品を集める。再生材を使った商品を発売する。
それだけで、本当に循環経済が実現したと言えるのだろうか。
回収された物がどこへ運ばれ、誰が分別し、何に再生されたのか。その流れを説明できなければ、循環は途中で切れている。
さらに、使用済み電池には火災の危険があり、海へ流出したプラスチックには化学物質が残る。
「集めること」をゴールにしてきたリサイクルから、「最後まで安全に価値をつなぐ」循環経済へ。資源の行方を追跡し、回収後の責任を引き受ける新しい実践が動き始めている。
回収箱は、循環経済の入口にすぎない
企業や自治体のリサイクル事業では、回収量、回収拠点数、参加人数、再生材使用率、CO₂削減量といった数字が強調される。
どれも重要だが、それだけでは循環の全体像は見えない。
回収物は国内で処理されたのか。異物や再生できない残渣は、どこへ行ったのか。回収した物の何%が新しい製品へ戻ったのか。元と同程度の品質を保てたのか。
さらに、再生品が使用後にもう一度回収される仕組みまであるのか。
「集めた量」と「最後までつながった量」は違う。
これからの資源循環は、回収量だけでなく、再製品化率、再生材の品質、残渣、安全性、化学物質、次の回収可能性まで含めて評価する必要がある。
405トンのクリアホルダーは、どこへ行ったのか
アスクルは2020年、使用済みクリアホルダーの回収と再資源化を開始した。2022年には「アスクル資源循環プラットフォーム」として事業化。2026年5月末までの累計回収量は405トン、参加事業所数は3,959に達している。
今回、株式会社digglueの「CEトレーサビリティ」が導入され、排出、回収、分別、計量、再生ペレット製造、製品化までの情報をデジタルで管理できるようになった。
現場で登録した計量結果を通じて、使用済みクリアホルダーが「いつ、どこで、どのように処理されたか」を関係者が確認する。
管理対象は、現時点では再生材料を使う製品メーカーまで。消費者が使用した後の再回収までは追跡していない。それでも、排出元から再生材の利用先までを可視化することは、本当に循環したかを証明する重要な一歩だ。
トレーサビリティは、現場の負担軽減にもつながる。
それまで手書き、転記、確認が必要だった計量や報告作業を効率化し、月約15時間の作業を削減したという。
環境に良い仕組みでも、記録作業が過大な負担になれば続かない。資源を循環させるには、物質の流れだけでなく、そこで働く人の時間も守る必要がある。


発火する資源を、どう安全に集めるか
モバイルバッテリーや携帯扇風機などに使われるリチウムイオン電池は、小さく、多くの電気を蓄えられる一方、衝撃や劣化によって発火、熱暴走する危険がある。
一般ごみに混入し、収集車や処理施設で押しつぶされれば、大規模な火災につながりかねない。
株式会社電知は、埼玉県横瀬町内の3施設に、リチウムイオン電池専用回収容器「DENPOI」を設置する。実証期間は2026年8月1日から10月31日まで。
容器内で電池が発火した場合、砂と薬剤が落下して電池を覆い、延焼を抑える構造だ。
回収後は、松田産業が運搬し、太平洋セメントグループが熱処理を行う。その後、破砕・選別し、ニッケルやコバルトなどを含むブラックマスを回収する計画である。
ただし、始まるのは完成した全国モデルではなく実証だ。
膨張や破損した電池にも対応できるか。誤投入は防げるか。容器から運搬車両へ移す際の安全は確保されるか。実際の運用を通して確認する必要がある。
循環経済において、安全性は付加価値ではない。
入口で火災が起きれば、作業員や施設、地域住民を危険にさらし、資源回収そのものへの信頼も失われる。





電池から電池へ戻すには、金属を「材料」に戻さなければならない
使用済み電池からブラックマスを取り出しても、それだけで「電池から電池へ」の循環が完成したとは言えない。
ブラックマスは、リチウム、ニッケル、コバルトなどを含む黒い粉状物だ。新しい電池へ使うには、金属を分離し、不純物を除き、材料として使える純度まで精製する必要がある。
DOWAエコシステムは、ブラックマスからニッケル・コバルト硫酸塩を回収するプロセスを開発した。
従来の炭酸リチウム回収に加え、リチウム、ニッケル、コバルトを一連の工程で回収できるとしている。
再び正極材として使える品質で供給できれば、天然鉱石の採掘や海外からの新規調達を減らせる可能性がある。環境対策だけでなく、資源安全保障にもつながる。
ただし、現時点では正極材メーカーへのサンプル供給と性能評価の段階だ。安定した品質、回収率、コスト、量産時の環境負荷を検証しなければならない。
循環の輪を閉じるには、回収技術だけでは足りない。
再生材料を買う企業、品質を保証する規格、製品への使用を示す情報、再び回収する仕組みまで必要になる。


小さく砕けても、化学物質は消えない
海へ流れ出たプラスチックは、紫外線や波、砂との摩擦によって劣化し、細かな破片へ砕けていく。
目に見えにくくなっても、物質が消えたわけではない。
国立環境研究所、東京海洋大学、長崎大学の研究チームは、日本周辺5海域などで採取したマイクロプラスチックを分析した。
その結果、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、難燃剤など、複数の添加剤由来化学物質を検出した。
物質によって、プラスチックから海水へ溶け出すもの、周囲の環境から粒子へ吸着するもの、長期間粒子中に残るものがあることも示された。
この研究は、マイクロプラスチックが直ちに特定の健康被害を起こすと断定するものではない。
重要なのは、プラスチックが細かくなっても、化学物質に関する問題まで小さくなるとは限らないことだ。
これは再生材にも関わる。
どのような可塑剤、難燃剤、塗料、接着剤が含まれているかを把握しないまま材料を混ぜれば、化学物質を製品から製品へ移し続ける可能性がある。
循環経済には、材料の量だけでなく、添加剤の種類、濃度、有害性、再生工程での変化まで追跡する仕組みが必要だ。
すべてを循環させればよいわけではない。
安全に回すべき物質と、循環から取り除くべき物質を区別しなければならない。

資源の価値を、地域へ戻す
循環の価値は、何千トンという規模だけで測られるものではない。
岐阜県各務原市立蘇原中学校では、家庭で使われなくなった金属製水筒143本を回収。そのリサイクル収益を活用し、経口補水液24本が学校へ寄贈された。
株式会社サンウエスパなどが進める地域循環プロジェクト「ぐりんく」の一環だ。
家庭が不要な資源を持ち寄る。学校が回収と環境教育の場になる。企業が資源化する。その価値が、子どもの熱中症対策として地域へ戻る。
規模は小さいが、循環の行き先が分かりやすい。
自宅に眠っていた水筒が金属資源となり、その価値が学校へ戻る。「何かに再生されたらしい」という遠い話ではない。
一方、水筒が具体的に何へ再生されたのか。金属以外の樹脂やゴムはどう処理されたのか。継続可能な費用構造なのか。さらに情報を示せれば、環境教育から地域循環の仕組みへ発展できる。
循環によって生まれる価値は、再生材料だけではない。子どもの健康、学び、地域企業との接点も、循環が生み出す価値である。

循環経済を評価する、五つの新しい物差し
クリアホルダー、リチウムイオン電池、マイクロプラスチック、金属製水筒。製品も規模も異なるが、本当の資源循環かどうかを考える共通の物差しがある。
1.追跡できるか
排出、回収、運搬、分別、再資源化、再製品化まで、資源の行方を確認できるか。
回収量だけでなく、再生できた量、残渣となった量、最終製品へ戻った量まで見える必要がある。
2.安全か
回収、保管、輸送、処理の各段階で、作業員、利用者、地域住民、環境を危険にさらさないか。
特に電池や化学物質を含む製品では、安全が循環の前提になる。
3.材料として戻るか
熱利用や低品質な用途に一度使うだけでなく、元と同等の材料や製品へ戻るか。
「回収率」と「水平循環率」は、分けて示す必要がある。
4.有害物質を管理できるか
再生材に含まれる添加剤、塗料、接着剤、汚染物質を把握できるか。
有害物質が循環の中で濃縮、拡散しないよう、回す物質と取り除く物質を区別する必要がある。
5.価値が社会へ戻るか
循環で生まれた利益や便益が、地域、教育、福祉、利用者へ還元されているか。
複雑な分別や処理作業を、低賃金や過重労働として誰かへ押しつけていないか。
回収箱に入れた瞬間、資源の責任が消えるわけではない。
その先を追い、安全に扱い、次の材料と社会的な価値へつなぐところまでが、循環経済である。
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