
★要点
東京大学未来ビジョン研究センターの「Co-JUNKAN」研究ユニットは、脱炭素を単なるCO2削減で終わらせず、環境・生態系、食料生産、雇用、伝統・文化の発展へつなぐ「ビヨンド・ゼロカーボン」を掲げる。産学公で技術・知識・人材を循環させるプラットフォームを構築し、岩手県、和歌山県、佐渡島、種子島地域などで地域実証を進めている。
★背景
日本の地域脱炭素は、再エネ設備の導入量やCO2削減量だけでは評価しきれない段階に入った。地域の暮らし、産業、交通、農林業、教育、文化と結びつかなければ、脱炭素は地域に根づかない。Co-JUNKANは、地域が自律的に「その先のゼロカーボン」を描くための実装型プラットフォームを目指している。
脱炭素は、数字の話になりやすい。何トン減らしたか。何%再エネにしたか。何年までに実現するか。もちろん数字は必要だ。だが地域の現場では、それだけでは人は動かない。雇用は生まれるのか。農林業は続くのか。地域の文化は守られるのか。若い世代は戻ってくるのか。東京大学未来ビジョン研究センターの「Co-JUNKAN」が面白いのは、ゼロカーボンをゴールではなく入口と捉えている点にある。目指すのは、CO2を減らした先に、地域が前より豊かになっている状態だ。脱炭素を地域再生の言葉に翻訳し直す試みである。
ゼロカーボンを”目的”で終わらせない。東大が掲げる「ビヨンド」の視点
Co-JUNKAN研究ユニットの出発点は明快だ。地域の持続的な発展には、ネットゼロカーボンへの取り組みが、環境・生態系、食料生産、雇用、伝統・文化の発展など「地域の豊かさ」につながる必要がある。東京大学未来ビジョン研究センターは、これを「ビヨンド・ゼロカーボン」と位置づける。
ここでいう脱炭素は、単なる排出削減の技術論ではない。地域固有の条件に応じた最適システムを設計し、地域の人々が持つ知恵、研究者の最先端知、企業や技術者の実行力を組み合わせる。つまり、脱炭素を外から”導入する”のではなく、地域の文脈の中で”育てる”発想だ。
この視点は、いまの日本に欠かせない。再エネ設備だけが立ち、利益は外へ流れ、地域には合意形成の負担だけが残る。そうした構図では、脱炭素はむしろ地域の分断要因になりうる。Co-JUNKANは、その逆を狙う。脱炭素を、地域の資源、産業、人材、誇りをつなぎ直す回路として設計しようとしている。
技・知・人を循環させる。「Co-JUNKAN」プラットフォームの中身
Co-JUNKANの核にあるのは、「技・知・人」が産学公の間で循環し合うプラットフォームである。公式拠点サイトでは、「技・知・人が有機的かつ高度に産学公で循環し合う”Co-JUNKAN”プラットフォームを実装し、地域が自律的にビヨンド・ゼロカーボンを目指せる社会を実現する」と掲げている。
拠点ビジョン実現のためのターゲットは三つある。「ビヨンド・ゼロカーボンを描くCo-learningの展開」「誰でも使えるCo-JUNKAN基盤の実装」「ビヨンド・ゼロカーボンを実現する技術の社会実装」だ。学び、基盤、技術実装。この三つを並走させる設計になっている。
東京大学のユニット紹介では、多種の技術や知に関するデータへアクセスできる情報基盤「RE-CODE」を実装し、異なる世代や立場の人々が学び合うCo-learningの場で活用すると説明されている。研究室の中だけで完結するプロジェクトではない。地域の未来像を住民、自治体、企業、研究者が共有し、その議論と実装をデータで支える”地域OS”に近い構想である。
舞台は地方の現場——岩手、和歌山、佐渡島、種子島で進む地域実証
Co-JUNKANの強みは、構想が抽象論で終わっていないことだ。東京大学の説明では、Co-learningの実践・実証、交通・エネルギー、農林業GX、エネルギー需給構造などに関わる技術システムの開発と地域実証を、岩手県、和歌山県、佐渡島、西之表市、中種子町、南種子町、クィーンズランド州などの地域サテライトで実施するとしている。
公式拠点サイトのニュースを見ると、種子島での島民ワークショップ、岩手サテライトでの環境学習支援や未来ワークショップ、和歌山サテライトでのサイトビジット、農林業GXに関する実証、熱と電気に関する蓄熱輸送の大型設備実証などが並ぶ。教育、交通、農林業、熱利用、データ基盤が同じ旗印の下で動いている。地域脱炭素を、エネルギーだけの話に閉じ込めないための構造だ。
農林業GXから熱利用まで。”地域に効く脱炭素”へ領域をまたぐ
Co-JUNKANの活動領域は幅広い。公式拠点サイトでは、農林業GXの文脈でフィリピン国砂糖統制庁との国際交流協定、新規バイオ燃料の発電機運転実証、種子島実証プラント関連の動きなどが紹介されている。さらに「熱と電気」の領域では、蓄熱輸送の大型設備実証やゼオライト蓄熱輸送の取り組みも取り上げられている。
ここに大きな示唆がある。地域脱炭素は、太陽光パネルを増やすだけでは足りない。熱需要はどうするのか。農業残渣や森林資源をどう使うのか。交通と電力需要をどう結び付けるのか。Co-JUNKANは、その問いに対して、”地域に存在する資源をどう循環させるか”という筋道で応えようとしている。脱炭素を、地域にあるものを使って地域を強くする設計へ戻す試みである。
大学は研究するだけでいいのか? Co-JUNKANが示す「実装する大学」
Co-JUNKANは、JSTの共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の拠点でもある。公式サイトによれば、2020年12月に育成型として採択され、その後2022年2月に本格型への昇格プロジェクトとして採択された。研究の面白さだけではなく、社会実装の射程と連携体制が問われる枠組みである。
参画機関には、東京大学のほか、複数の大学、研究機関、企業、自治体が関わる。大学が知を出し、自治体が現場を出し、企業が技術と事業化を担う。ここで大学は、論文を書く場所にとどまらない。地域変革の共同設計者になる。
なぜ今、「ビヨンド・ゼロカーボン」なのか? 地域に利益が残る設計へ
脱炭素政策は世界的に進む一方で、地域にとっては”導入疲れ”も起きやすい。再エネは増えたが雇用は増えない。設備はできたが景観や文化との摩擦が残る。補助金事業は終わったが、自走する事業体が育っていない。そうした課題に対して、Co-JUNKANが「ビヨンド・ゼロカーボン」を掲げるのは自然な流れだろう。地域が目指すべきは、ゼロカーボンそのものではなく、その先にある持続的な豊かさなのだ。
Maintainableでも、環境省の「Platform Clover」のように、地域循環共生圏を推進する産官学民連携プラットフォームの重要性を報じてきた。さらに、都市に蓄積した資源を”都市鉱山”として捉え直す東京大学と清水建設の研究や、北海道大学のGX拠点設立など、脱炭素を産業・資源・地域設計の問題として扱う動きが広がっている。Co-JUNKANは、その流れを地域実装へ降ろした取り組みとして読める。
地域が自律的に”その先”を描けるか?
Co-JUNKAN拠点サイトは、「地域が自律的にビヨンド・ゼロカーボンを目指せる社会を実現する」と掲げる。この「自律的に」という言葉は重い。外部からプロジェクトが入り、短期成果を出して去るのではない。地域が、自分たちで学び、選び、調整し、次の手を打てる状態まで持っていけるか。そこまで行って初めて、脱炭素は地域のものになる。
2026年2月には公開シンポジウム「ビヨンド・”ゼロカーボン”への挑戦:Co-JUNKANプラットフォームの軌跡とこれから」が開催され、同年1月には「LCA日本フォーラム奨励賞」の授賞式が執り行われた。また、同じ未来ビジョン研究センター内のグローバル・コモンズ・センターにおける研究が「第17回日本LCA学会学会賞 国際連携賞」を受賞するなど、センター全体への評価も高まりつつある。だが本当の勝負はこれからだ。各地域で、技術、知、人が本当に循環し、外部依存ではない地域主導の脱炭素モデルが根づくかどうか。Co-JUNKANは、そこに対する有力な回答になりつつある。
この記事の要約——Co-JUNKANは何を目指すのか
東京大学未来ビジョン研究センターのCo-JUNKANは、ゼロカーボンを単なる排出削減目標としてではなく、環境、生態系、食料生産、雇用、伝統・文化を含む地域の豊かさへつなげる「ビヨンド・ゼロカーボン」を掲げる研究・実装拠点である。特徴は、産学公の技術、知識、人材が循環するプラットフォームをつくり、RE-CODEとCo-learningを通じて、地域が自律的に未来を描ける状態を目指している点にある。岩手、和歌山、佐渡島、種子島などでの地域実証は、脱炭素を地域再生へ変える実験でもある。
FAQ
Q1. Co-JUNKANとは何か。
東京大学未来ビジョン研究センターが進める、産学公で技術・知識・人材を循環させながら、地域が自律的にビヨンド・ゼロカーボンを目指せる社会を実装する研究ユニット・研究拠点である。
Q2. 何が新しいのか。
単なるCO2削減ではなく、環境、生態系、食料生産、雇用、伝統・文化まで含めた「地域の豊かさ」へ脱炭素を接続しようとしている点が新しい。
Q3. どこで実証しているのか。
岩手県、和歌山県、佐渡島、西之表市、中種子町、南種子町、クィーンズランド州などの地域サテライトで、Co-learning、交通・エネルギー、農林業GX、エネルギー需給構造などの実証を進めている。
Q4. RE-CODEとは何か。
多種の技術や知に関するデータへアクセスできる情報基盤で、Co-learningの場と組み合わせて、将来の社会を先制的に描き、実現していくために活用される。
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