サーキュラーエコノミー ビジネスデザインを学ぼう 02

前回、サーキュラーエコノミーの実現方法として、新たに投入する資源を削減する(Narrow)、リユースやリマニュファクチャリング、リサイクルを通じて閉ループ化する(Close)、製品や部品をより長く使う(Slow)ことが重要であることをお伝えしました。しかし、これらは日本においても循環型社会の実現に向けて2000年代から様々な取り組みが行われており、経済性と両立することは難しいと感じる方も多いと思います。例えば、 Narrow は販売数の減少、Slow は買い替 え頻度の低下を招く可能性があります。また、 Closeでは回収する製品の質や量を管理することが難しく投資に見合う収益が得られない場合もあります。では、どのように経済性と両立すればよいのでしょうか。その答えの 1つがビジネスモデルの転換です。具体的には、従来の製品売り切り型のビジネスから脱却し、製品の機能をサービスとして提供する Product as a Service(PaaS)型のビジネスに移行することです。今回はこのPaaS 型のビジネスについて、具体例を交えて解説したいと思います。

PaaS 型のビジネスの具体例として
Product-Service Systems(PSS)が 挙げられます。PSSとは、製品とサービスを統合的に提供するシステムであり、図1に示す
「Product oriented」、「Use oriented」、
「Result oriented」の3つの分類が提案されています。*1

Product orientedとは、製品販売を中心としたビジネスモデルであり、販売した製品に対してメンテナンスやコンサルタント等のサービスが付加的に提供されます。Use orientedとは、製品売切り型のProduct orientedとは異なり、レンタルやシェアなど製品の所有権は提供者が保持し、その利用権や可用性を顧客に対して保証するビジネスモデルです。一般的にUse orientedでは、顧客は契約した時間や期間に応じて料金を支払います。事例としては、定額制で建設用工具を利用するフリートマネジメントなどが挙げられます。Result orientedもUse orientedと同様に製品の所有権を提供者が保持しますが、その課金は使用時間や使用量など顧客が製品を使用した結果に応じて行われます。航空機用エンジンの飛行時間に応じて課金するビジネスや、トラック用タイヤの走行距離に応じて課金するビジネスがこれに該当します。

このUse-orientedとResult-orientedと、前述のサーキュラーエコノミーの実現方法を適切に組み合わせることで、環境性と経済性を両立することが可能になります。例えば、Use-oriented とResult- oriented は契約期間や製品の使用量に応じて課金します。そのため、リユースやリマニュファクチャリング、リサイクルなど Close により新たに投入する製品の製造コストを削減することは、直接的に提供者の利益を高めることに繋がります。さらに、製品の所有権は提供者が保持していることから、製品売り切り型のビジネスと比較して回収する製品の質と量を管理することも容易になります。例えば、トラック用タイヤでは、Closeを実現する具体的な方法として、摩耗したタイヤの表面を新しく張り替えて再生することにより、新たなタイヤの製造に必要な石油資源とコストを削減するリトレッドタイヤという技術があります。このリトレッドタイヤを走行距離に応じて課金する Result-orientedなビジネスモデルと組み合わせて提供することで、より少ない資源とコストでより多くの走行を可能とし、環境性と経済性を両立することが期待されます。

また、Use-orientedとResult-orientedにおいて収益性を高めるためには、より少ない製品でより多くの需要を満たすことが重要になります。これは、Narrowが経済合理性の観点からも重要になることを意味します。さらに、Slow により製品を長く使用することは、1つの製品からより長く売上を得ることに繋がります。例えば、Electrolux 社は洗濯機を洗濯回数に応じて課金するpay-per- washサービスを提供しています。同社の洗濯機は、低価格な製品と比較して長寿命、省エネルギーなどの特長があります。そのため、洗濯回数に応じて課金するpay-per-washサービスにより1台の洗濯機からより多くの利益を長期にわたり得ることが可能になりま
す。さらに、1台の洗濯機を複数の顧客が共同で使用することで、より少ない製品数でその需要を満たし環境性と経済性の両立に繋げています。

このように、Narrow、Close、Slowと Use-orientedとResult-oriented なビジネスモデルを組み合わせることにより環境性と経済性を同時に高めることが期待されます。ただし、長く使用できることや、リユースやリマニュファクチャリングが可能であることなど、環境に配慮された製品であることが前提条件となります。その意味で、既に循環型社会の実現に向けて様々な取り組みを行ってきた日本のものづくりは非常に優位性があります。サーキュラーエコノミーは、日本の製造業が価格競争から脱却し、新たな成長戦略にシフトする絶好の機会です。では、サーキュラーエコノミーに向けてビジネスモデルを転換するためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。
最も重要な点の一つがPaaS 型ビジネスに必要な組織的な能力(ケイパビリティ)を獲得することです。PaaS 型ビジネスでは、従来の製品の製造・販売とは異なるケイパビリティが求められます。これらのケイパビリティが欠如していることが、PaaS 型ビジネスが失敗する主な原因であると言われています。次回は、このサーキュラーエコノミーのビジネスに必要なケイパビリティについて解説したいと思います。

※参考文献

*1.Tukker, A.( 2004). Eight types of product–service system: eight ways to sustainability?
Experiences from SusProNet. Business strategy and the environment, 13(4), 246-260.

木見田 康治  Koji Kimita
東京大学大学院工学系研究科
技術経営戦略学専攻特任講師