株式会社むじょう(東京都目黒区)は、神奈川県湯河原町で、農地や耕作放棄地の新たな管理手法「粗放管理」を実証する拠点「湯河原・スピルバーグ・ヤギポート」を開設した。草刈り機や除草剤を使わず、ヤギによる自然な除草で土地を維持する新モデルの実効性を検証し、全国的な展開を視野に入れる。

人手も機械も使わず、ヤギで「ちょうどよく」管理する発想転換。
農地管理の現場ではこれまで、「耕作する」か「放棄する」かの二択が一般的だった。しかし近年は、担い手不足や高齢化の進行によって、手入れの難しい土地が全国に広がっている。放置された土地は雑草の繁茂、獣害の誘発、景観の悪化など、地域にさまざまな悪影響をもたらす。一方で、人力や機械による管理には、費用と労力の限界がある。
こうした状況に対し、むじょうは「活用しないが放置もしない」という中間的なアプローチとして「粗放管理」を提案する。ポイントは、除草や維持をヤギに委ねること。草を食べながら緩やかに土地を整えるこの手法は、人手をかけずに環境負荷も抑えられ、地域の新たな土地利用モデルとなる可能性を秘めている。
その実証拠点が「湯河原・スピルバーグ・ヤギポート」だ。ネーミングは、建築家・稲葉勉氏が主導する地域振興プロジェクト「湯河原にスピルバーグ監督を呼ぼう!」との連携に由来し、地域の夢と連動する形で命名された。
現在は9頭のヤギを飼育し、周囲の耕作放棄地や管理困難地での除草・維持に取り組む。また、一般公開も行っており、見学や視察も受け入れている。
今後は、除草にかかるコストや景観への影響などを可視化し、管理モデルとして体系化する方針だ。さらに、地域の遊休地や傾斜地、ソーラーパネルの下といった人力では管理しにくい場所での実用性も検証する。自治体や企業と連携した導入支援も進め、ナレッジの整理と政策提言によって社会実装を後押しする構えだ。
土地利用の考え方が変わりつつある今、「粗放管理」はその隙間を埋める実践的なアイデアとなり得る。全国に広がる耕作放棄地への対処法として、ヤギが示す解決の道に注目が集まっている。
