ダイアローグ参加者
古賀 喜郎さん
東急不動産株式会社サステナビリティ推進部
企画推進室 室長
遠藤 謙一良さん
建築家/株式会社遠藤建築アトリエ
代表取締役社長
齊藤 雅也さん
建築環境学者/公立大学法人 札幌市立大学
デザイン学部・大学院デザイン研究科・デザイン研究科長・教授 博士(工学)
内野 一郎
Maintainable® 編集長
原発1.7基分の発電を再生可能エネルギーで生み出す
「ひとと地球の治癒力」をテーマにした Maintainable®2号では、地球への負荷を減らす持続・循環・再生・保守可能な社会デザインのモデルケースとして「風と、森と、エネルギーの治癒力」と題し、今後のライフスタイルチェンジに欠かせない再生可能エネルギー、森を生かす木造建築、気候変動時代の室内気候デザインという、重要な3つのテーマに取り組む人たちと語り合った。
内野 皆さん、よろしくお願いします。今日はここ北海道の小樽市銭函という海辺の街に集まっていただきましたが、それには理由があります。ここは北海道の新しい再生可能エネルギーの生産拠点の一つ「リエネ銭函風力発電所」のある街なのです。しかも小樽市は僕の故郷で、若干の土地勘もあります(笑)。ここの海辺は石狩湾と呼ばれていて、風力発電に適した良い風の吹く場所です。後ほどみんなで施設も見学したいと思っています。
ということでゲストのお1人目は、リエネ銭函風力発電所を運営している東急不動産の古賀喜郎さんです。
古賀 こんにちは、よろしくお願いします。
内野 はい。で、良風に恵まれ、再生可能エネルギー生産が進む北海道は豊かな森林にも恵まれた土地で、人々が暮らす空間では北海道の木を活用した木造建築が新たな時代を開こうとしています。
その木造建築において「森から建築をつくる」という独自の哲学で新たな木造建築デザインの時代を推し進めている、北海道が生んだ気鋭の建築家・遠藤謙一良さんがお2人目のゲストです。僕の高校時代の友人でもあります。
遠藤 よろしくお願いします。
内野 そして3人目のゲストが、気候変動時代のこれからの建物のエネルギー・環境に大きな影響を与えていく、「室内気候デザイン」という視点で空間の熱環境改善に新たな実績を上げられている、札幌市立大学の教授・齊藤雅也さんです。
齊藤 はじめまして。
内野 さて、まず古賀さんに質問です。東急不動産のリエネ風力発電所は松前にありますが、どうして銭函にも作ろうと思ったんですか?
古賀 それはシンプルに言って、銭函も松前に劣らずちょうど一番良い風が吹いている所で、風力発電所に適している場所だからという理由です。
安定的に風が強く吹くかどうかが風力発電のポイントで、立地はとても重要な成立条件なのです。
また先行して設置された松前町では、地元の方たちとかなり深いコミュニケーションができています。ただ風力発電を開発するだけではなく、地元の方々と一緒に新しい価値を生んでいけるだろうか、我々はきちんと貢献できるだろうか。その辺りもしっかり見定めて進めていることも、東急不動産の事業としての大きな特徴です。電力の地産地消をしっかりと進めています。
内野 東急不動産はかなり前から再生可能エネルギーに力を入れていますね。総合デベロッパーのこれからの理想的な姿だと思います。
以前、訪問させていただいた埼玉県の東松山市、あちらの太陽光発電所では地元の営農者の方たちと組んで、発電と農業の一体化だけでなく収穫物を使ったオシャレなカフェレストランも展開されていて、美味しい食事をいただきました。
古賀 それは「TENOHA」です。再生可能エネルギーとともに、カフェやコワーキングスペースなども近隣に設置して、地元の方たちが立ち寄りやすく、親しんでいただける場所づくりを同時に進めているのです。
東急不動産では現在、日本全国で太陽光発電、風力発電、バイオマス発電をやっておりまして、開発中のものも含めて総事業数で102ヵ所あります。
定格容量は、約1,762メガワットを達成していて、1,000メガワットでだいたい原発1基分と言われているなかで、およそ原発1.7基分の発電能力を再生可能エネルギーで生み出しています。
遠藤 それは凄いですね。
古賀 そしてこの発電能力を2025年度に2.1ギガワット、つまり2,100メガワットまで増やそうという計画を持って各地で開発を進めています。
齊藤 そこまで進むと日本のエネルギー状況も変わってきますね。
内野 そもそもこの北海道で、再生可能エネルギーの機運が高まったのはいつごろなのですか?
古賀 2018年に胆振東部大地震が発生して、北海道全域で大規模停電「ブラックアウト」が発生しました。ここがターニングポイントだったと思います。その時、約2日間電気がストップしました。
遠藤 あのブラックアウトは北海道民にとって大きな衝撃でした。電力の地産地消というのも、そこから生まれた発想ですか?
古賀 もともと考えはありましたが、より意識が高まったと感じています。当社が事務所を構える松前町では、災害時に備えて、風力発電で電力を作って大型蓄電池に充電し、電力量をコントロールしながら電力供給を賄う「地域マイクログリッド」の構築を目指しています。
遠藤 松前町全域の電力供給をカバーするわけですか?
古賀 もちろん全てをカバーできるわけではありませんが、大規模停電時に役場や病院、学校等の防災上の主要部に供給することを企図しています。
内野 その計画を実装するには、当然のことながら地元の方との深い繋がりづくりが欠かせませんね。
古賀 ですのでこの銭函でも環境アセスをはじめ、地元の方たち、行政の方たちと権利調整も行って丁寧に説明しながら、前に進めてきました。私たちの再生可能エネルギー事業「リエネ」の発電所には「脱炭素社会の実現」「地域との共生と相互発展」「日本のエネルギー自給率の向上」という3つの目的がありまして、もう本当に純粋にこれを思いながらやっています。この考えを地元の方たちと共有していくためにも、地域としっかりコミュニケーションを取ることが重要だと思っています。
内野 さて、そんな電力の地産地消が再生可能エネルギーによって実現されていくとともに、世界でも有数の森林国日本では森と樹林の活用が官民でスタートしています。
そしてこの北海道で木の地産地消と木造建築に力を注ぐのが、建築家の遠藤さんです。自身のアトリエ建築でも成果を披露されています。
古賀 喜郎さん|Yoshiro Koga
東急不動産株式会社 サステナビリティ推進部
企画推進室 室長
2007年2月東急不動産株式会社入社。
経営企画部、不動産ファンド・リート、物流施設、再生可能エネルギー事業を経て、2022年4月より現職。全社のサステナビリティ活動や環境施策の推進、社内浸透、ESG対応等を担当。
縄文時代まで遡って研究した人間が辿ってきた生き方や住まい方
自然の光と木と暮らす北海道建築のチカラ
遠藤 私が木造建築を行う上で、土地の自生樹木である木材を使っているのは、まず地元の気候風土を考え、かつ縄文時代まで遡ってこれまで人間が辿ってきた生き方や住まい方を研究する中で至った結論です。
と同時に、建築工法として日本でやってきた軸組の延長でやりたかった。つまり大工さんが継承してきた方法を用いたかったのです。
内野 札幌市にある遠藤さんのアトリエですが、外観で言うと木の格子、大きな窓、そしてシェル状のユニークな屋根が人目を惹きます。
遠藤 HPシェルの屋根は構造的にも新しい表現だと思いますが、街の中にある建物として自然とどう向き合うかが内なるテーマとしてあって、その答えは「自然の光」にあるだろうと考えました。
HPシェル屋根は放物線状にウェーブしていて、朝は東と北の光が差し込み、午後からは南と西の光が緩やかに入ってきます。この外の光の変化が純化して室内に採り入れられ、室内を構成する梁に反射して美術館のように自然な光を毎日感じられる空間にしたのです。
それとアトリエの目の前にマロニエの大樹があって…。
古賀 マロニエの木ですか、それは素敵ですね。
遠藤 このマロニエの木と四季の移ろいをアトリエの全員で眺めながら、自然の営みを光とともに全身で受け止めて、日々の設計に取り組むべきだと考えました。
内野 北海道の木へのこだわりは?
遠藤 北海道固有の樹林エゾマツを活用するということです。これは東大の演習林から払い下げていただいたもので、無垢材を使ってます。無垢を扱うのは難しさもあるんですけど、私のアトリエには建築家の卵もいるので、無垢自体が起こすいろんな良さと毎日の手入れ、メンテナンスの大切さを学ぶためにも無垢材にこだわっています。
昔の人たちは、木の床の水がけ雑巾をやり続けていましたよね。子どもが床を舐めても良いような状態というか、そういった状態を私の所でも維持したいなと思って、日々の床掃除は欠かしません。これこそ日本建築の王道だろうという気持ちで取り組んでいます。
内野 外壁に関して言うと、北海道の建築で外壁に木の格子というのはちょっと珍しいなと思いますが…。
遠藤 そうかもしれませんね。本州の格子使いとは違って、金属板で受けた外壁にエゾマツを三重に組み合わせ、雪を受け止めるようにしています。
冬の北海道は吹雪や雪の舞う日が多くあり、それらが雪の山や丘などの風景を形作ることがあるのですが、この外壁の木の格子を使って雪が描き出す一つの美しい光景を生み出せたら素敵だろうなと思い、仕掛けたものです。
遠藤 謙一良さん|Kenichiro Endo
建築家。
1985年4月から(有)竹山実建築綜合研究所にてホテル、学校、病院、集合住宅、個人住宅、店舗等の設計に携わる。
1994年3月遠藤建築デザイン事務所を設立。現在の遠藤建築アトリエに至る。
世界に誇れる最高の気候をエネルギーを調整することで持続する
表面温度の改善が室内気候デザインのポイント
内野 そして光と木の建築に、室内気候デザインを導入した。
遠藤 HPシェルと木造によって非常に完成度の高い構造体を今回作ることができましたが、いっぽうで採光を求めるためにガラス面を大きくすればするほど、熱損失がどんどん大きくなったり、結露をしたりという格闘を、実は30年くらい前から私は続けてきました。
しかしこのエネルギーの収支や熱コントロールを解決できることが、ここ10数年で分かってきたんです。
内野 それが齊藤教授との出会いですね。
遠藤 そうです。まず建物の使用エネルギーを減少させながら環境を整えるためには、「暖房器具をもういっその事無くしてしまったらどうなるのか」とか、あるいは「船のように時に心地の良い風の流れを感じ、ヨットのように自ら環境をアナログでコントロールできたり、自分が服を脱いだり着たり半袖になって自分自身の熱環境を整えたりするように、建築にもそれが出来ないのかな?」というのが私のイメージの原点でした。それで熱環境の専門家である齊藤さんに私の思いを伝えて…。
齊藤 遠藤さんから相談を受け、イメージを聞いて、「北海道で一番良い季節は6月だよね」ということで話が合いました。
これは世界に誇れる最高の気候だから、その気候自体がなるべくエネルギーを調整する事によって持続できる環境、しいて言えば風も流れるような環境を作りたい、という柔らかいお題目(笑)で、遠藤建築アトリエの室内気候デザインがスタートしました。
内野 ところで齊藤さんが室内気候に取り組み始めたのは?
齊藤 宿谷昌則先生(東京都市大学・名誉教授)が私の師で、地球、自然、都市、人工環境の入れ子構造を学んで、自然と自然の間に我々人間が何か作る時には、自然に抗ってはいけないということと、作る時には感覚値も含めて数値もきちんと説明できなければいけないということを学習したことが、熱環境や室内気候づくりに関わるようになったきっかけです。
遠藤 齊藤さんが手がけた、札幌市円山動物園のオランウータンの住環境改善の話が面白いですよ。
内野 どんな話ですか?
齊藤 気候変動時代に入って札幌も猛暑の夏、円山動物園にオスのオランウータンで弟路郎(ていじろう)くんという子がいて、毛はボロボロだしまったく身動きしないんですよ。それで住環境を見てくれないかという話になって、サーモカメラで調べてみたら床部分が真っ赤で、表面温度がなんと60℃になっていたんです。
古賀 60℃、それは過酷な環境ですね…。
齊藤 外気温は28℃くらいなのですが、日射光がアスファルトやコンクリートを覆って物凄い放射熱を放って、表面温度が60℃にもなってしまったのです。
これはまずいということで、飼育員さんと相談しながら床を土に変えて植栽や水場、遊び場も作り直し、意図的にクールスポットとホットスポットの表面温度のムラを作り出して、オランウータンの住環境をデザインし直しました。
そうしたら、なんとオランウータンの活動量が飛躍的に増えて、移動距離も3倍になって、ボロボロだった毛はふさふさになり別人のように生き返ったんです。
内野 表面温度の改善は、建築やデザインでできる。これは発見だ。
古賀 そうですね。それと活動量に影響があるという点も重要ですよ。表面温度を改善することで結果的に活動が増えて、この場合はオランウータンですけど生き生きと活動してるっていう点が、我々不動産開発にも通じる所があるんじゃないかなって思いました。
齊藤 それでオランウータンで熱環境をもとにした住環境改善が成功したので、次に希少種の爬虫類を頼まれたんです。人間も少子化と言われてますが、爬虫類があまり子どもを産まない状態が続いていました。
で、彼らの住環境の表面温度を調べてクールスポットとホットスポットの温度ムラを作ったのですが、そうしてあげることで彼らも活動量が増えて、さらに驚くことに繁殖が凄い勢いで増えていったんですよ。
今では他の動物園に子どもを分けてあげるまでになっています。
内野 動物の反応は正直ですね。
齊藤 もちろん環境改善の要素以外にも、水シャワーを刺激として与えるなどいろいろな手法を組み合わせているのですけれど、この成果は環境省のほうからも注目されています。
そしてこの成果も踏まえて、先ほどの遠藤さんの「船とヨット」の話じゃないですが、多様な視点をうまく組み合わせて足して2で割るようなハイブリッドな感覚で、表面温度のムラづくり、熱環境改善、室内気候デザインを遠藤建築アトリエに適用したわけです。
齊藤 雅也さん|Masaya Saito
公立大学法人 札幌市立大学 デザイン学部・大学院デザイン研究科・デザイン研究科長・教授 博士(工学)
涼しさ・温もりをもたらす室内気候デザインを研究。共著書に地域創生デザイン論(文眞堂)/クリマデザイン(鹿島出版会)/設計のための建築環境学(彰国社)ほか
気候変動時代の状態を自分の肌で感じ取る身体感覚を蘇らす
室内気候を考えていくことで縄文式住居と同じ構造が生まれた
遠藤 私の設計デザインに対して、室内の熱環境と空気や風の流れについて齊藤さんから60パターンぐらいのシミュレーションを提案いただきました。そして床に空気穴を空けたり、階段の吹き抜けの状態などを評価してもらいながら開口部の開け方とか人の動きなどもしっかり検証してもらって、室内気候の状態はだいたいシミュレーション通りということが分かりました。
齊藤 遠藤さんのアトリエは暖房設備が床下にしかありません。ですからスタッフの皆さんが集まって仕事をしている2階は、シミュレーション上2~3℃温度が下がるんですが、そこは日射、人の熱とコンピュータの熱で多分補完されるだろうと。
遠藤 あとは換気することでゆっくり空気の循環が起こるだろうとなって、結果としてコロナ禍での室内空気移動による換気量も増えて、非常に快適な環境が生まれたわけです。
そしてこの室内気候をデザインしていくことで、結果的に私が想像していたように、竪穴式住居に屋根を付け火を焚いて地面を暖め蓄熱し、空気を循環させて空間全体を暖めていた、縄文式住居と同じ構造になっていました。
内野 僕は以前、遠藤さんのアトリエを訪ねていて見せていただいたんですが、小型のボイラー1台だけで温めた温水をパイプで1階の床下に這わせてコンクリートスラブと基礎に蓄熱されているんですよ、オンドルのように。その柔らかな放熱と温められた空気が1階の床穴から立ち上って或いは階段をつたって2階にも上がっていき、2階の曲線状の梁の天井がプロペラの役目を果たして全体に循環させていく構造になっていました。
その省力化された姿に僕は正直唖然としましたよ、これが室内気候デザインのチカラなのかと。だって僕も北海道生まれですが、子どものころの実家では、冬になるとストーブやらボイラーやらもっとがんがんと焚いていましたから(笑)。
遠藤 空間の下層に重たい熱があって、屋根・天井部のウェーブで緩やかな風を生んで上層で抜くというパターンです。
この構造にすることで、夏は夏で外気温が空気で熱くなっても、室内の床自体がある程度低い温度を保持していることで、温度差があればあるほど、1階床の表面温度は蔵にいるように熱が奪われてヒヤッと気持ちいいんです。
そんなことが室内気候と木造建築の組み合わせで実現できているものですから、これは一番新しいアナログであり、これからの社会に自信を持って提案できる新しい環境かなと思っています。
古賀 光の採り入れかた、風の流れ、熱のコントロールと表面温度のムラづくり。実に素晴らしいですね。
体感値を磨き 地球の特性を理解する
遠藤 例えば時計が無くても自然の光の変化や季節の移ろいで時間を感じるとか、常に同じ席や場所にいるのではなくて、冷えた場所や温かい場所にその時の体感で移動してみるとか、オランウータンじゃないですけど選択性のある空間、場所が大切じゃないのかなと思います。
古賀 私は、遠藤さんの光を採りこむ手法や、齊藤先生と一緒に表面温度を検証しながら建築物を作る姿勢、つまり自然の影響を環境づくりに繋げてる活動がとても勉強になりました。
そうすることで自然を生かす人々の活動にさらに繋がっていくと思えますし、やっぱり街作りをしているデベロッパーも取り入れていくべき考え方だろうなと思います。
内野 そうですよね。まず僕らが置かれている状態をつぶさに調査して、自然が与えてくれている素材や力をシンプルに利用してみること。それで住まい環境は十分に改善できるということが、遠藤さんと齊藤さんの活動が教えてくれます。
そして人間の環境に与えられるエネルギーが、再生可能エネルギー中心の社会になると、ちょっとうれしい。古賀さん、僕は東急不動産が展開している「TENOHA」には、木造建築や室内気候デザインの考え方が合っていると感じてるんですが…。
古賀 おっしゃる通りですね。東京都渋谷区にあるTENOHA 代官山は実は循環建築を進めている所でして、間伐材を使った木造建築を作っています。やっぱり我々も、循環や間伐材の利用、木造建築などをもっとしっかり利用していくべきだと思っています。
そしてもう一つ自然の影響ということで言うと、今年度、生物多様性への取り組みを注力していて、国内不動産業としては初めて、企業と自然の相互の依存関係や影響を分析した「TNFDレポート」をいうレポートをまとめて開示したのですが、その作成過程で、当社施設の豊富な緑化が周辺の生態系にどう影響しているかを調べた中で、植栽の樹木が在来種なのか外来種なのかで自然環境への影響が随分と違うということがわかりました。在来種の方がやはり生物多様性への貢献度も高く、多様な生き物と人間の活動量についても、もしかしたら影響するのかもしれない。そんな視点も大切にして自然を生かすことで、環境の治癒力に繋げられるのかもしれないと、皆さんの話を聞いていて感じました。
内野 僕は治癒力というのは、修復力でもあると思っています。傷を癒し、健康な状態に回復させる力です。それで、エネルギーや建築、熱環境などは数値でしっかり精査しなければいけないですが、気候変動時代はその状態を自分の肌で感じ取る体感値とか暗黙知のような身体感覚をもっと蘇らせないといけない気がしていて。
遠藤 体感値は極めて重要だと思いますよ。
齊藤 確かにそうですよね。数値は凄く大事なんです。数字を何キロワットでいくぞってやって、非常に分かりやすくやらねばならないことではあるのですけど、数値に置き換えるとなんか割とみんな安心し切っちゃう面もあって。だからこそ体感値は大切だし、数値だけではない暗黙知のような言葉にならない身体感覚もすごく重要だと思いますよ。
古賀 企業は数値にすると目標に向かいやすい。ただお客さんが何を求めているのかっていう所でいくと、体感的な価値が必要です。数字だけではない所で訴え掛けられるもの、情緒的・感情的な部分で繋がるほうが一番望ましい。
遠藤 建築家としては建築は魂を宿し情念が入っていくものだと思ってますが、今回の木造建築で明らかに違ったのは、伐り出された原木から見ていることなんですよ。思いがまるで変ってくる。年輪を見ていくことで気候の変化も実感できるし、建築物に対する愛おしさとか、地球の特性を理解しようとする気持ちがもの凄く強くなった。
内野 地球の特性を理解しなければ、環境は修復できません。
古賀 確かにそうですね。自然に抗わずにそこに一番適しているものを捉えて、それを取り入れることをやらなければいけないと思います。
齊藤 そのためには今の時代は数値とともに、ひとの感覚値もかなり大切にして対話することが、次の段階に進みやすくする方法なんじゃないかと思いますね。
遠藤 足るを知るデザインや開発がこれからは特に重要で、そこから地球と共存できる道筋を見つけていく。その価値を、Maintainable® にはぜひ提示してほしいですね。
Photo Koji Honda