旭化成建材 田中祐輔さん×Maintainable®編集長 内野一郎

気候変動が過酷さを増す、地球沸騰時代。日本では「省エネ基準適合」という、新たな住宅性能のルールが2025年に施行される。つまり住まいを高気温と寒冷から守りながら、使用エネルギーと二酸化炭素排出量を下げる。そんな住まいの新たなハードルをクリアしなければ、我々は生きて行けない。さあ、どうしょう?

日本の住宅は、寿命が短いのはどうして?

内野 札幌市立大学の建築環境学者、齊藤雅也教授が研究を進めている「室内気候デザイン」という新しい考え方がありますよね。
寒冷地で育った北海道建築と高断熱住宅、併せて言えば北方型住宅の空間づくり。地球沸騰と叫ばれ始めている高温化の時代に、実はこの手法が、北の地域だけでなく南方の地域まで、日本全国で効果を発揮する方法なのではないかと密かに思ってるんですよ。
というのも、東京で室内気候デザインを実践された、田中さんのお宅を拝見したからです。
田中 そもそもの所でいうと、住宅基準等級6、7と呼ばれるスペックの住宅でないと、あの空気感って実現出来ないんですよね。
内野 等級6、7?
田中 はい。これが今、国が定めている一番新しい基準値になるんですけど、うちの家で等級6と7の間くらいなんです。
ただ、そこに行こうとすると、きちんと家を建てる必要が出てくるので、実はここが難しいんです。隙間が出てしまうから。住宅の善し悪しは基本的にはUa値と呼ばれるものと、C値と呼ばれるもの、Ua値というのはどれだけ断熱をしているかという所なんですが…。
内野 UとH?
田中 大きいUに小文字のaに値でUa値。C値と呼ばれるC、これが隙間で、住宅にどれだけ断熱をしていて、住宅にどれだけ隙間があるかという所の指標になるんですけど、室内気候を実現するためには、等級6、7の世界が必要になるんです。
内野 つまり、その精妙の差が必要?
田中 要はしっかりと断熱しないと、熱は逃げていってしまう。熱はしっかりと閉じ込めておかないといけないんで、隙間を作ってはいけないという極めてシンプルな話です。
魔法瓶とか見てもらうと分かると思います。あれってフタをしっかりしてると、熱が逃げないじゃないですか。住宅も同じ仕組みなんです。
内野 日本の住宅は、第2次世界大戦後、日本を立て直す情熱で、欧米に負けない強固な家を作ろうとしてきたわけですよね?
田中 そうかもしれませんが、実は日本の建物の寿命って、世界で一番短いんですよ。
内野 えっ! そうなんですか?
田中 だってだいたい30年で潰すじゃないですか。ヨーロッパに行くと築100年というのが当たり前だし、特にドイツとかだったら、年間で建てられる新築の数って決まってたりするんです。基本、皆さん断熱リフォームをして住み続ける。
なので、生活が豊かになるって部分もある。所得はもちろん国によって差はありますけれども、その中で住宅に占めるウェイトって、やはり日本は圧倒的に高いので、皆さん一代で家を建てて、亡くなると同時にそれを1回更地にしてまた土地にしてから建てる。でもヨーロッパなどはその作業がほとんどなくて、おじいちゃん、おばあちゃんが住んだ家を、そのままメンナンスをして住み続けるっていう文化になっている…。
内野 海外のロングライフ住宅の長寿命の在り方が正しくて、日本は正しくないのか。気候風土が違うのだから、それはやむを得ないのか…。
田中 いや、違います。単純に日本の住宅政策の…。
内野 …という問題ですか?
田中 戦後のスクラップ&ビルドで、とにかく一気に建てろという風潮だったじゃないですか。やっぱりその名残が未だに残ってしまっている。

日本の家は寒い!

田中 この資料を見てください。これ日本の住宅性能で、下にいけばいくほど性能が高いんですよ。
内野 日本の家って、こんなにダメなんですか?
田中 はい、2025年にようやく等級5相当に変わるので、下に降りてくるんですけれども、今までずっと特に寒い地域に関しては差は大きくはなかったんですけど、あったかい地域、東京とか6地域になってくるとこれだけ差があるんです。
日本で当たり前に見るアルミのサッシとかあるじゃないですか? 海外の人が見ると笑います。未だにこんなものを使ってるの?と。弊社がかなり前に出した広告なんですけど、外国人が来て最初に言うのが、「日本の家は寒いです。」ということです。
ですので、我々の事業目標としては、まずこれをなくそうと。「日本の家から寒いをなくす」を一つのテーマとして、こういった事業に取り掛かってます。だから今のお話の中、ほとんどここでカバー出来るかなと。建物をイギリスと日本で比較すると、イギリスの建物77年、日本は平均30年しかもたない。もたないというかもたせない。
内野 この話って、ひょっとすると日本の大部分の人たちは知らないんじゃないですか…?
田中 おおかたは知らないでしょうね。
内野 例えば北海道だと亜寒帯湿潤気候で、寒冷地に耐えられる高断熱とか二重三重のサッシが当たり前ですよね。あそこだと少しは状況が違うんでしょうか?
田中 北海道は違います。
内野 北海道から緯度を横にずらしていった朝鮮半島などは?
田中 中韓で見ても、日本より住宅性能は高いです。
内野 日本より高いんですか?
田中 そうですね、性能としては。だいたい等級4相当の所ですが、厳密にこの基準は世界共通の統一基準ではないので、一部違う所も出てはくるんですけれども、基本的には日本は中国より劣る部分があります。ですので世界のトップと比べてというより、先進国と呼ばれ経済成長をしている国の中では、日本は圧倒的に住宅の断熱性能が低いんです。
それともう1点あるのが、日本の場合は国土のうち陸地として家が建てられる場所、一部山間部にも建ててる所はあるんで一概には言えないんですけど、やはり狭いという所もあるので、住宅が密集しているわけです。
断熱材は厚ければ厚いほどやっぱりいい。ヨーロッパに行くと、住宅はゆったり建てられてるじゃないですか。だから断熱材が厚くなってもあんまり変わらないんですよ。ただ日本の場合、ドアを開けたらすぐ隣が民家の塀なんて所になってくると、こういったものを施工するのがそもそも難しい。
内野 土地が狭いんだ。
田中 しかも断熱材って、寒い地域では効果的という捉え方はされるんですけど、暑い所でも有効という認知はやっぱりまだ少ない。寒さには効果的、同時に断熱という意味で「熱を絶つ」効果も高いんですよ、実は。
内野 鹿児島の友人から聞いた話だと、鹿児島の家は沖縄の家を参考にするらしい。それって暑さ対策ですよね。あと地熱を利用するとも言ってたな。
田中 沖縄の家もRCが多いんです。それとアメリカの米軍基地にある米軍兵士向けの住宅は、沖縄の性能値よりはるかに高い所に住んでいます。そもそもアメリカの基準で家を建てるんで。
内野 なるほど、それはそうだ。
田中 やはり環境面への意識が違う。例えばイギリスだとHHSRSという基準があって、家の中の温度が18℃を下回らないようにしましょうと。これは基本的にはWHOも推奨しているものです。住んでいてリスクが少ない住宅という所で、例えば集合住宅においてもこれを下回ると改修しなさいという事が出来るんですけど、日本はまずここがほとんどない。18℃を下回ってしまうので、ほぼ全ての住宅で。
内野 ちょっと唖然としてしまう話だなあ。急激な温度の低下で、お年寄りは。
田中 ヒートショックになります。
内野 お風呂もそうですけど、あれだけ言われていても住宅のせいにはしてなかったというか。でもこの地球沸騰と叫ばれ始めている時代に入って、省エネ基準適合だけでなく、住宅自体の性能、等級を上げることは国のためでもあるでしょう?
戦後復興とともに強い家づくりが進んできたように、この先の日本の国益や国防を考えたら、住宅が貧しい国が勝てる訳がないですよね。アジアでも住宅性能が韓国中国に負ける、これはまずいなあ。ちなみにロシアの住宅も性能高いんですかね?
田中 ロシアのデータがないんですよ。ちょっと1回確認しときます。
(次回につづく)