東京・あきる野市の山間に広がる「南沢あじさい山」が、2025年の開山に向け、新たな取り組みを発表した。約1万株の紫陽花が咲き誇るこの地は、かつて一人の男性が私財を投じて築いた名所だった。今、その志を引き継いだ若い世代が中心となり、自然との共生を掲げた“持続可能なあじさい山”を次代へと繋ごうとしている。

“花咲かじいさん”の遺志を継ぐ若者たち。
東京・南沢あじさい山の“秘境”を継ぐ人々の物語が、静かに花開く。
都市近郊にありながら、“東京の秘境”とも呼ばれる南沢あじさい山が、新たな姿に生まれ変わろうとしている。
発端は、山の創始者であり“花咲かじいさん”として親しまれた南澤忠一さんの死去だった。約50年をかけ、100種以上1万株の紫陽花を植えた忠一さんの功績を後世へと繋ごうと、8年前、忠一さんに弟子入りした若者を中心に、その思いに共鳴した地元の若者たちが集い、あじさい山の四季を守り育て、持続可能な観光資源として再生に乗り出した。
2025年の開山を前に掲げられたテーマは「自然との共生」。構造物にはコンクリートを用いず、地域産木材による木製施設で環境負荷を最小限に抑える。東屋、看板、展望台まで全てが自然と調和する設計で、土壌や景観、生態系への配慮が貫かれている。
また、企業研修プログラムを通じて都市と自然の新たな接点を生み出す試みも開始。参加者は森林の中でワークショップや環境教育を体験し、地域との関係性を構築する。これにより、自然保全だけでなく、人の意識変革と地域活性を同時に図る循環が生まれようとしている。


あじさいの命が生んだ、新たな地元ブランド商品たちと音楽祭。
山の魅力を手元に持ち帰ってもらいたい…、そんな思いから、南沢あじさい山では地元資源を活かしたオリジナルグッズの企画・販売を開始している。代表的な商品は、アマチャの葉を使ったクラフトビール「ajisai ale」と、ブレンドティー「ajisai tea」。どちらも紫陽花の香りと風味を活かした“自然そのまま”の味わいが楽しめる。
さらに景観を染め上げた紫陽花の記憶をかたちにした「オリジナル手拭い」も販売。丁寧な染色工程を経てつくられた一枚には、この山にしかない色と空気が封じ込められている。収益の一部は山の維持管理費として活用され、これらのプロダクト自体が循環の一翼を担っている。単なる土産物の枠を超えた“共感の循環”が、来山者と地域を静かにつなげている。
また。あじさいが見頃を迎える時期に、自然の中で音楽を楽しめる「100万本のアジサイ音楽祭」も開催される。これは近隣にあるキャンプ場で、南沢あじさい山のストーリーに共感したアーティストによる音楽ライブや地域文化が体験できる音楽祭で、地域文化の振興と新たな交流の創出を目指している。

あじさいが広げる地域連携と未来との共創。
さらに近隣の東京サマーランドと連携した「秋川渓谷あじさいまつり2025」も開催予定だ。両施設で利用可能な共通チケットの販売や、インスタグラムを活用したフォトコンテストなど、観光誘致とSNS世代の参加を意識した仕掛けも盛り込まれ、市や商工会とも連携し、流域全体の活性化を目指す。
来山者からの寄付や企業協賛による運営支援体制も整備されつつある。地域文化や景観を守る取り組みに賛同する個人や企業が、“守り手”として関わる仕組みは、次世代へとつなぐ地域資本の新しい形といえるだろう。
「地域が誇れる景色を、地域で守る」。その小さな決意の積み重ねが、紫陽花の名所としての南沢あじさい山を支えている。2025年6月7日から7月6日までの開山期間、今年もまた静かな感動とともに、あじさいの花たちが咲き誇る。