
★要点
北海道は2026年7月11日、東京交通会館で「北海道移住相談会2026 in 東京」を開催する。49自治体と12企業・団体が出展し、暮らし、仕事、住まい、就業支援などを相談できる場だ。しかし本当に問われるのは、イベントの集客ではない。相談に来た人を、どう地域とつなぎ、どう二拠点居住や関係人口へ育て、どう地域課題の解決につなげるかである。
★背景
人口減少が進むなか、すべての自治体が定住人口を増やすことは難しい。国土交通省も、定住人口だけでなく、主な生活拠点とは別の地域にも生活拠点を持つ「二地域居住」など、多様なライフスタイルを通じて地方への人の流れをつくる必要性を示している。2024年11月には、二地域居住者向けの住まい、なりわい、地域住民との交流環境整備を含む改正法も施行された。移住政策は、「住民票を移す人を増やす」段階から、「関わり続ける人を増やす」段階へ進んでいる。
移住は、人生を丸ごと地方へ移すことだけを意味しなくなっている。
平日は都市で働き、週末は地方で暮らす。夏は北海道、冬は首都圏。子育て期は都市、セカンドキャリアは地方。あるいは、完全移住の前に、まずは数週間だけ試してみる。
人口減少が進む日本で、地方自治体に求められているのは、定住者を一気に増やすことだけではない。地域を訪れ、通い、働き、学び、買い、直し、発信し、時には住む。そうした「関わる人口」をどう増やすかだ。
北海道が東京で開催する「北海道移住相談会2026 in 東京」は、49自治体と12企業・団体が出展し、暮らしや仕事、住まいについて相談できる場である。開催日は2026年7月11日。会場は東京交通会館12階ダイヤモンドホール。北海道各地の市町村担当者が受け入れ体制や暮らしの相談に応じ、企業・団体ブースでは住まいや仕事に関する専門情報を得られる。
だが、本当に問われるのはイベントの規模ではない。相談に来た人を、どう地域とつなぎ続けるか。
移住希望者を、どう二拠点居住者、関係人口、地域課題の担い手へ育てるか。
移住相談会は、移住を決める場所ではない。地域との関係を始める場所になるべきだ。
北海道移住相談会は、移住イベントであると同時に「関係人口の入口」である
北海道移住相談会2026 in 東京は、入場無料の予約制イベントだ。
公式情報によれば、49自治体と12企業・団体が出展し、市町村の担当者と「暮らし」や「仕事」について相談できる。
企業・団体ブースでは、北海道ならではの住まいや仕事に関する専門情報も得られる。
ここで大事なのは、この相談会を「移住するか、しないか」の二択にしないことだ。
北海道に住みたい人もいる。
一度暮らしを試したい人もいる。
夏だけ滞在したい人もいる。
仕事は東京のまま、地域に関わりたい人もいる。
親の介護や子どもの教育で、すぐには動けない人もいる。
将来のセカンドキャリアとして、北海道との接点を探している人もいる。
その全員を「今すぐ移住しない人」としてこぼしてしまえば、地域の未来の担い手を失う。
移住相談会は、移住を決める場所ではなく、関係を始める場所だ。
来場者を「今すぐ移住する人」「まだ検討中の人」「二拠点なら関われる人」「仕事だけなら関われる人」「季節滞在なら可能な人」に分け、段階的につなぎ続ける仕組みが必要になる。
イベントは入口にすぎない。
本番は、相談会の翌日から始まる。

地方自治体の課題は「移住者獲得競争」になりすぎていること
多くの自治体は、人口減少に直面し、移住者を求めている。だが、国全体の人口が減るなかで、すべての自治体が定住人口を増やせるわけではない。
国土交通省は、持続可能な地域をつくるには地域づくりの担い手となる人材の確保が必要だとしたうえで、国全体で人口が減少する中、すべての地域で定住人口を増やすことはできないと説明している。そのため、二地域居住など多様なライフスタイルの視点から、地方への人の流れを創出・拡大する必要があるという。
これは、自治体にとって大きな発想転換だ。
「移住者を何人増やしたか」だけを成果にすると、自治体同士は人口の奪い合いになる。だが、都市に住みながら地域に通う人、年に何度も滞在する人、副業で関わる人、空き家を直す人、地域の商品を買い続ける人、SNSで魅力を発信する人も、地域に価値をもたらす。
住民票は動かなくても、地域は動く。
その事実を、政策の中心に置く必要がある。
自治体側の課題は明快だ。相談会で名刺交換しても、その後の関係づくりが弱い。空き家はあるが、すぐ住める物件は少ない。仕事の選択肢が見えにくい。地域側の受け入れルールが曖昧だ。二拠点居住者や関係人口の価値を測る指標も十分ではない。
つまり課題は、人が来ないことだけではない。
来た人との関係を育てる仕組みが弱いことだ。
解決策は「いきなり移住」ではなく、段階設計にある
移住政策を、「来るか、来ないか」で考えると行き詰まる。これから必要なのは、地域との関係を段階的に濃くする設計だ。
第一段階は、知る。
移住相談会、オンライン相談、地域メディア、SNS、イベントで地域を知る。
第二段階は、試す。
ちょっと暮らし、移住体験ツアー、ワーケーション、季節滞在、親子留学、山村留学で、暮らしの手触りを確かめる。
第三段階は、通う。
年に数回訪れる。地域イベントに参加する。農業、林業、観光、地域活動を手伝う。
第四段階は、関わる。
副業、兼業、地域プロジェクト、空き家改修、ローカルビジネス、地域おこし協力隊、企業の地方拠点づくりに参加する。
第五段階は、住む、または二拠点化する。
賃貸、空き家購入、シェアハウス、サブスク住居、二拠点住宅、完全移住へ進む。
この段階設計にすれば、自治体は「移住した人」だけでなく、「次に来る人」「通い続ける人」「地域課題に関わる人」を育てられる。
関係人口とは、薄い人口ではない。時間をかけて地域の担い手になり得る人口だ。
地域との関係は、いきなり濃くならない。
だからこそ、自治体は関係を育てる編集者になる必要がある。

自治体に必要なのは「移住窓口」ではなく「関係人口CRM」である
ここからは、少し踏み込んで考えたい。
企業が顧客との関係をCRMで管理するように、自治体も移住希望者、二拠点居住希望者、関係人口との接点を継続管理する必要がある。
CRMとは、顧客との関係を記録し、次の提案や接点づくりに生かす仕組みだ。自治体に置き換えれば、地域に関心を持った人との関係を育てる台帳になる。
管理すべき情報は多い。希望地域。希望する暮らし方。移住か、二拠点か、季節滞在か、ワーケーションか。家族構成。子育てや教育条件。仕事条件。リモートワーク、副業、起業、農業、林業、酪農への関心。住まい条件。賃貸か、空き家か、試住か、購入か。車の有無。医療や介護への不安。雪や寒さへの耐性。地域活動への関与意向。相談後のフォロー履歴。
これらが蓄積されなければ、毎回「はじめまして」からやり直すことになる。
移住希望者は、来場者ではない。
長期的な地域パートナー候補である。
北海道移住相談会のように、多くの自治体と企業・団体が集まる場では、情報量が多い。だからこそ、相談者ごとに「次に何を案内するか」が重要になる。試住か。仕事相談か。空き家見学か。先輩移住者との面談か。オンラインコミュニティか。地域イベントへの招待か。
イベントで集めた関心を、地域との継続接点に変える。
ここに、自治体DXの本質がある。
二拠点居住を進めるには、住まい・仕事・地域参加の3点セットが必要だ
二拠点居住は、気分だけでは続かない。必要なのは、住まい、仕事、地域参加の3点セットである。
国土交通省は、二地域居住者向けの住まい、なりわい、地域住民との交流のための環境整備などを内容とする改正法が、2024年11月1日から施行されたと説明している。
さらに、地域と二地域居住者の橋渡しを担う中間支援組織である特定居住支援法人のモデル構築実証調査や、二地域居住先導的プロジェクト実装事業も進めている。
まず、住まい。
空き家バンクに登録するだけでは足りない。すぐ住める試住住宅、季節滞在住宅、二拠点向け賃貸、家具付き短期住宅、断熱改修済み住宅、雪かき支援付き住宅が必要だ。
北海道では特に、寒冷地仕様、暖房費、除雪、車庫、通信環境が暮らしの現実になる。
次に、仕事。
完全転職だけでなく、都市の仕事を続けるリモートワーク、地域企業の副業、農業・林業・酪農の季節参加、観光、地域メディア、商品開発、DX支援など、都市のスキルを地域課題に接続する選択肢が必要だ。
そして、地域参加。
地域住民との交流、町内会や地域活動への参加ルール、先輩移住者メンター、オンラインコミュニティ、移住者交流会。どこまで関わればよいのかが曖昧なままでは、地域住民にも移住者にも負担が生まれる。
二拠点居住は、家を借りれば始まるものではない。
暮らしの受け皿、仕事の接点、地域との距離感。この三つがそろって、初めて続く。

北海道ならではの二拠点居住モデル——夏、空港、一次産業、セカンドキャリア
北海道の二拠点居住は、「東京から地方へ」という単純な話に収まらない。広大な土地、季節差、雪、一次産業、観光、空港アクセス、札幌圏と地方圏の距離。これらを踏まえた設計が必要になる。
ひとつは、夏季滞在型。
東京、大阪、名古屋の夏が厳しくなるなか、北海道は気候変動時代の避暑型二拠点居住の受け皿になり得る。単なる観光ではなく、夏だけ働き、暮らし、地域に関わるモデルだ。
二つ目は、仕事接続型。
農業、酪農、林業、観光、地域交通、医療・介護、地域メディアなど、人手不足領域と都市人材を結ぶ。都市のスキルを地域課題に持ち込めれば、二拠点居住者は消費者ではなく、担い手になる。
三つ目は、空港近接型。
新千歳、旭川、函館、釧路、女満別、帯広。北海道には複数の空港がある。空港へのアクセスを前提にすれば、都市部との往復可能性を売りにできる。
Maintainable®︎NEWSでも以前、JALグループが北海道と主要都市の間で「JAL 2地域居住クラブ」の実証実験を行い、移動と住居をパッケージ化して二地域居住を支援する取り組みを紹介した。東京、大阪、名古屋と新千歳空港を結ぶ路線を対象に、航空券と札幌市内中心部のマンション、専用コンシェルジュを組み合わせる内容だった。
四つ目は、親子・教育型。
山村留学、自然体験、保育園、子育て支援を入口にする。都市では得にくい自然環境を、教育資源として打ち出せる。
五つ目は、セカンドキャリア型。
50代、60代が、定年後にいきなり完全移住するのではなく、数年前から地域と関わり始める。地域企業の顧問、副業、観光、食、文化、農業支援など、経験を地域に移植するモデルだ。
北海道は広い。
だから、ひとつの移住モデルでは足りない。
地域ごとの気候、産業、空港、医療、教育、住まいに合わせて、関わり方のメニューを増やす必要がある。
自治体への提案——相談会後を設計する6つの打ち手
では、自治体は何をすべきか。答えは「移住してください」と言い続けることではない。相談会後の関係を設計することだ。
①相談会後のフォローの制度化
成果を来場者数だけで測らない。3か月後、6か月後、1年後の関係継続率を見る。オンライン面談、地域ニュースレター、試住案内、仕事マッチング、先輩移住者との面談へつなぐ。
②二拠点居住者向けの滞在パッケージ
住まい、仕事体験、地域交流、交通、コワーキング、医療情報、除雪支援をセット化する。「2週間」「1か月」「夏だけ」「親子」「50代以上」「副業希望者」など、利用者像ごとに分ける。
③空き家を“住める状態”にする中間支援
空き家バンクに載せるだけでは足りない。改修費、断熱、耐震、家具、Wi-Fi、契約、管理、冬季除雪、地域ルール説明までを担う組織が必要だ。
④地域課題と都市人材のマッチング
二拠点居住者を消費者としてだけ見ない。広報、Web、観光、商品開発、デザイン、DX、人材採用、海外対応、教育、農業支援など、都市側のスキルを地域課題に接続する。
⑤住民票以外の成果指標
定住人口だけでなく、関係人口、年間滞在日数、地域消費額、地域活動参加回数、副業案件数、空き家改修件数、地域企業との契約数、リピート訪問率をKPIにする。
⑥自治体単独ではなく広域で受け入れる
北海道のような広域地域では、一自治体だけで住まい、仕事、教育、医療、交通を完結させるのは難しい。近隣自治体、道庁、企業、金融機関、交通事業者、不動産会社、地域メディア、大学と連携する必要がある。国土交通省も、二地域居住等の促進に向け、官民のマッチングや案件形成、中長期的課題への対応を行う全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームを設立している。
自治体の仕事は、移住者を待つことではない。
関係が育つ仕組みをつくることだ。

移住はゴールではない。地方をメンテナンスする新しい関係人口戦略へ
人口減少の時代に、地方は「誰かが来てくれる」のを待つだけでは変わらない。
必要なのは、定住人口を増やすことだけではなく、地域に関わる人を増やすことだ。住民票を移す人。季節ごとに滞在する人。副業で関わる人。空き家を直す人。地域企業を手伝う人。子どもを自然の中で学ばせたい人。セカンドキャリアを地域に生かしたい人。都市と地方を行き来しながら、新しい暮らしを試す人。
その一人ひとりを、地域の未来のパートナーとして迎えられるか。
移住相談会は、入口である。
二拠点居住は、橋である。
関係人口は、地域をメンテナンスする力になる。
地域は、建物や道路だけでできているわけではない。人の関係、仕事、住まい、記憶、風景、季節の営みでできている。それらは放っておけば弱っていく。だから、手を入れる。通う。直す。関わる。育てる。
移住者を待つだけでは、地方は変わらない。
しかし、関わる人を育てる自治体は変わる。
北海道移住相談会2026 in 東京は、その入口になり得る。大切なのは、イベント当日の熱気を、相談会後の関係へ変えることだ。
地方創生の本番は、移住を決めた瞬間ではない。地域との関係が続き、暮らしと仕事と課題解決が少しずつ重なっていく時間の中にある。
北海道移住相談会2026 in 東京 公式LP
https://www.kuraso-hokkaido.com/lp/ijusodan2026/tky/?upd=260518
国土交通省「二地域居住の推進」
https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/chisei/kokudoseisaku_chisei_tk_000073.html
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