
★要点
LIFULL HOME’S総研の調査(2026年9月公表)によると、外国人の人口比率が高い292市区町村に住む日本人のうち、在留外国人と日常的な交流が「まったくない・あまりない」と答えた人は81.6%にのぼる。外国人が多く暮らす地域であっても生活現場における接点は乏しく、直接の関わりが少ない状況と不安の併存が浮き彫りになっている。
これは多文化共生に限らず、障害、メンタルヘルス、ジェンダー・セクシュアリティなど、異なる背景を持つ人々が日常の中で出会いにくいという共生社会全体の課題にも重なる。
こうした接点不足に対し、理念の啓発にとどまらず「物理的な交わりの場」をつくる取り組みが動き出している。10月9日〜10日には、東京駅丸の内口の行幸通り(予定)および丸ビル1階マルキューブにて、障害の有無にかかわらず相互理解を深める内閣府主催の「ともともフェスタ2026」が開催される(入場無料、オンライン配信も予定)。
さらに10月10日の「世界メンタルヘルスデー」や10月11日の「カミングアウトデー」といった多様性を考える時期に重なり、厚生労働省による「心のサポーター」養成研修や、企業とNPOが連携した学校・地域でのLGBTQ出前授業など、制度や環境から関係性を手入れする動きが連動する。告発ではなく、場と仕組みの設計によって社会の歪みを整える「ソーシャルメンテナンス」の視点を読み解く。
★背景
日本国内における在留外国人の増加や、障害者福祉、ジェンダー・セクシュアリティ、メンタルヘルスをめぐる多様性の認識は急速に広がりつつある。しかし、制度やスローガンが先行する一方で、日常の地域コミュニティや職場において「異なる背景を持つ人々が自然に出会い、言葉を交わす接点」は依然として限られている。
接点の乏しさは、無関心や漠然とした警戒感と結びつきやすく、孤立や不調の見落とし、職場や地域での分断を招く要因となり得る。
建造物やエネルギー設備に定期的な点検と修繕が必要なように、人間関係や社会基盤にも、ほころびを未然に防ぐための「手入れの場」が欠かせない。10月上旬に重なる記念日や体験型イベントを契機に、人と人が交わるインフラの再構築が注目されている。
数字の上では、日本の多様化は確実に進んでいる。
街を行き交う人々の背景は広がり、職場の働き方や健康、ジェンダーに関する対話も増えた。
だが、私たちは本当に「交わって」いるだろうか。
統計が示すのは、外国人の人口比率が高い地域に住む日本人であっても、8割以上が在留外国人との日常的な交流をほとんど持たず、隣り合う他者の輪郭を捉えられないまま過ごしている現実だ。
直接の接点が乏しい状態が続けば、理解の不足はいつしか漠然とした不安と重なり合い、社会の網の目は脆くなっていく。
壊れた関係性を後から正すのではなく、日々の生活動線に「交わる場」を設計し、緩やかに手入れしていくこと。
10月9日から11日にかけて重なる体験イベント、啓発キャンペーン、地域展示から、共生社会の土台を整えるアプローチを探る。
8割が「交流なし」――LIFULL調査に見る接点不足と情報環境
LIFULL HOME’S総研が2026年9月29日に公表した「在留外国人居住実態と日本人の意識調査」(外国人1,701名・日本人2,060名対象)は、多文化共生の足元にある断絶を浮き彫りにした。
この調査は、外国人の人口比率が高い全国292市区町村に住む日本人を対象としているが、その環境下であっても在留外国人と日常的な交流が「まったくない・あまりない」と回答した日本人は81.6%に達した。外国人が多く暮らす地域ですら、生活動線上での直接的な交わりは極めて限定的である実態がうかがえる。
同調査では、外国人の増加を肯定的に捉える人の幸福度平均が6.77点で、全体平均5.99点や否定的に捉える人の5.64点を上回ったことも示されている。また、外国人の増加を否定的に捉える人ほど、SNSやネットニュースを情報源として挙げる割合が高い傾向も示されており、直接の接点が乏しいまま情報環境によって不安や警戒感が増幅されやすい構図が示唆されている。
理念を説くことにとどまらず、互いが生活の中で自然に交差する物理的な場をいかに確保するかが、共生に向けた現実的な課題となっている。

LIFULLホームページより

逆に、否定的な人の幸福度は平均5.64点と平均を下回った。
LIFULLホームページより
丸の内で共生を体感する2日間――内閣府「ともともフェスタ2026」
外国人との交流不足が示すのは、単に多文化共生だけの問題ではない。障害の有無、心の不調、性のあり方など、異なる背景を持つ人々が日常の中で出会い、互いを知る機会が乏しいことは、共生社会全体に共通する課題である。この「接点の創出」を都市の中心で試みるのが、内閣府が主催する体験型イベント「ともともフェスタ2026」だ。
2026年10月9日(金)11:00〜19:00、10日(土)11:00〜17:00の2日間、東京駅丸の内口の行幸通り(予定)および丸ビル1階マルキューブを舞台に開催される(入場無料、オンライン配信も予定)。昨年2,000人以上が来場した取り組みに続き、障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた相互理解の場として開かれる。
本イベントの特徴は、共生社会を座学で学ぶのではなく、障害の有無にかかわらず、多様な人々が共に楽しみ、五感を通じて交流する仕掛けにある。パラスポーツ体験、障害のある人が制作した作品や商品の展示・販売、アート・カルチャー・テクノロジーをテーマにした展示、著名ゲストや障害当事者による音楽・トーク・パフォーマンスなどが展開される。会場には手話通訳やインクルーシブ遊具、カームダウンスペース、車いすレンタルなどの配慮も整えられている。
特別に身構えた空間ではなく、東京駅前というオープンな都市空間で「違い」を体感する機会そのものが、心理的な境界線を緩めるきっかけとなる。


気づける人を地域と職場に増やす――世界メンタルヘルスデーと心のサポーター
身体的なバリアフリーだけでなく、目に見えない心身の不調に対しても「孤立させない仕組み」の整備が進んでいる。
10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に合わせ、厚生労働省は普及啓発キャンペーンを展開している。昨年度に引き続き「リラックマ」「コリラックマ」を応援サポーターに起用し、10月10日12:00〜12:30(予定)には丸ビルのマルキューブにコリラックマが登場するなど、ともともフェスタ2026にも参画する。
その核となるのが、身近な人の心の変化に気づき、傾聴を中心とした支援を行う「心のサポーター(ここサポ)」養成研修の推進だ。10月21日14時〜16時には、共通研修とストレスコーピングによるセルフケアを学ぶ選択研修の2部構成で企業向け研修がオンライン等で実施される。
過密な都市生活や職場において、精神障害に関する労災請求件数が令和7年度実績(2026年7月公表)で前年度比1,178件増の4,958件に達するなど、働く人々のメンタルヘルス負荷が高まっている。
専門家だけに相談を委ねるのではなく、同僚や地域の身近な人が「いつもと様子が違う」と気づいて声をかけられるネットワークを社会に埋め込むこと。早期の気づきと対話の機会を増やす予防的アプローチは、組織やコミュニティの安全弁として機能する。

厚生労働省ホームページより
学校の対話を街の店先へ――川崎市内の中学校×企業・NPOのLGBTQ出前授業
10月11日の「カミングアウトデー」など、多様性を考える時期に重なる取り組みとして、教育現場から地域へと理解を波及させる実践も行われている。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン、ファミリーマート、認定NPO法人ReBitの3団体が協働し、2026年9月11日に神奈川県川崎市内の中学校2年生を対象に実施した「LGBTQ理解促進のための出前授業」はその好例だ。
授業では多様な性や自分らしさについて学び、生徒たちがそれぞれのメッセージを込めた作品を制作。その作品が学校内にとどまらず、学校近隣のファミリーマート店舗に9月15日から10月31日まで掲示される。
生徒が教室で深めた気づきが、コンビニエンスストアという地域住民が日常的に利用する公共的な空間へ染み出していく。
学校教育、企業のアセット、生活拠点が連携することで、多様性に関する対話のきっかけを地域社会の動線上に実装している。

当日の登壇者 画面左)コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事・総務本部 人材&組織開発部 DE&I課 横山将大さん
画面中央)認定NPO法人ReBit 教育事業部 斎藤ひろかずさん
画面右)株式会社ファミリーマート マーケティング本部 サステナビリティ推進部 ソーシャルグッド推進グループ 竹内シリモンコン絢美 さん
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社ホームページより
告発ではなく「場と仕組みの設計」で社会を手入れする
共生社会やダイバーシティの推進において、不備や差別を告発・批判するだけでは、人々の間に防衛的な壁をつくり、かえって対話を遠ざけてしまうことがある。
いま求められているのは、誰もが無理なくアクセスできる「場と仕組みの設計」を通じて、社会の構造を静かに手入れしていくことだ。
行幸通りや丸ビルのフェスタのように自然と多様な存在に触れられる広場をつくること。
職場や街の中にメンタルヘルスのサポーターを増やし、不調の芽を早期に拾い上げること。
商業施設の店先を学びの展示場に変え、地域の会話を生み出すこと。
建物やインフラが日々の点検・修繕によって保たれるように、社会の寛容さや安心感もまた、接点をつくる丁寧なメンテナンスによって維持される。
10月9日から11日にかけて重なるイベントや記念日は、特別な誰かのための共生ではなく、私たち自身の社会基盤を整えるための実装を考える機会となる。
【参考】
株式会社LIFULL:LIFULL HOME’S総研「在留外国人居住実態と日本人の意識調査」(2026年9月29日発表)
https://lifull.com/news/50320/
内閣府:「ともともフェスタ2026~出会う、ふれあう、未来がかわる~ みんながつながる、ステキな2日間」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tomotomofesta/festa2026.html
広報記事:内閣府「ともともフェスタ2026」の開催について、2026年9月28日公表
https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20260928.html
厚生労働省:報道発表「世界メンタルヘルスデー2026に応援サポーターとして リラックマ・コリラックマが登場」(2026年10月1日発表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76263.html
厚生労働省:心のサポーター養成研修事業(ここサポ)公式サイト
https://cocosapo.mhlw.go.jp/
厚生労働省:報道発表「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(2026年7月15日発表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社:ニュースリリース「コカ・コーラ ボトラーズジャパン、ファミリーマート、ReBitの3団体協働で、LGBTQ理解促進のための中学校出前授業を実施」(2026年9月17日発表)
https://www.ccbji.co.jp/news/detail.php?id=1897
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