★ここが重要!

★要点
2026年9月から10月にかけて、東京と北海道で三つの場が動き出す。
ザ・コンランショップが9月18日から開催する「Katachi」は、日本各地の風土と素材、受け継がれてきた技術から生まれる「形」がテーマ。新潟・燕の老舗メーカーは、完成したカトラリーだけでなく、製造で出る端材と、職人が研磨する前と後を見比べられる工程見本を店頭に提供した。
9月19日、東京・清澄白河にオープンする「Rurbanism Tokyo Store」は、日本の現代陶芸と20世紀のヴィンテージ家具を、年代でもジャンルでも分けずに同じ空間に置く。新品だけで暮らしを組み立てない、という提案である。
10月11日と12日、北海道白老町のウポポイでは「アイヌアートショー2026」が開かれる。5回目の今年は、アメリカ先住民ホピの銀細工師を招き、アイヌの工芸家と作品を並べる。
三つとも、売り場や展示のかたちを借りながら、同じことをしている。ものの背後にある土地、時間、手の跡を、見える場所へ引き出すことだ。

★背景
ものを買うとき、私たちが見ているのは完成形である。どこの素材で、誰が、どんな工程でつくったのか。その情報は、ほとんどの場合、店頭には出てこない。
だが状況は変わりつつある。企業には原材料の調達先まで含めた情報開示が求められ、消費者はトレーサビリティという言葉を知りはじめた。修理する権利をめぐる議論も広がっている。
背景にあるのは、大量生産・大量廃棄の限界だ。安く早くつくり、壊れたら捨てる。その循環を止めるには、まず、ものが何でできているかを知る必要がある。
素性のわからないものは、直せない。どの部品が交換できるのか、どんな素材が使われているのか、誰に相談すればいいのか。来歴がわからなければ、手の入れようがない。
長く使うことは、精神論ではない。情報の問題である。
この秋、三つの場が示しているのは、その情報をどう手渡すかという実験だ。

スプーンが二本、並んでいる。
片方は、光を返す。片方は、まだくすんでいる。
研磨する前と、後。新潟県燕市の燕物産が、ザ・コンランショップの企画展「Katachi」に提供した工程見本である。製造の過程で出る端材も、あわせて展示されるという。
ふつう、店頭に並ぶのは完成品だけだ。磨き終わり、検品を通り、包装された、いちばんきれいな状態のものだけ。
そこへ、途中の姿を持ち込む。
1本のカトラリーが、職人の手技を経て、どうやってあの佇まいになるのか。その過程を、買う人が目で確かめられる。
同じ月、東京・清澄白河には、現代の陶芸家の新作と、半世紀以上前のヴィンテージ家具が同居する店が開く。北海道では、アイヌの工芸家とアメリカ先住民ホピの銀細工師が、同じ会場に作品を並べる。
共通しているのは、ものの完成形だけを見せない、という態度だ。

研磨する前の、スプーン

ザ・コンランショップ・ジャパンが9月18日から各店で開くイベント「Katachi」。日本各地の風土や素材、受け継がれてきた技術から生まれる形に焦点を当てる企画である。
その中で、「用の形」というテーマに選ばれたのが、インテリアスタイリストの石井佳苗氏と燕物産が共作した別注カトラリー「Caff」だった。
燕物産の創業は1751年。新潟で金物屋「捧吉右衛門商店」として始まった。1911年、八代目が東京・銀座の商店から洋食器の注文を受けたことをきっかけに、金属洋食器の製造を開始する。これが、燕市が金属洋食器の産地になる起点になった。日本初の洋食器メーカーである。
その同社が、今回の店頭展示にあたって提供したのが、端材と工程見本だ。
同社の告知によれば、製造時に発生する端材と、職人による研磨の前後を比べられるビフォーアフターの見本を、展示協力という形で出している。
普段は表に出ることのない製造工程の断片を見せる。狙いは、そこにある。
これは、地味だが決定的な転換である。
産地や職人の技術を「物語」として語ることは、もう珍しくない。だが多くの場合、語られるのは言葉と写真であって、実物ではない。
削られた金属片。まだ磨かれていない表面。それを手に取れる距離に置くと、抽象的だった「手仕事」が、急に具体的になる。
どれだけの手数がかかっているのか。なぜこの値段なのか。答えが、説明ではなく物として置かれている。

八つの「形」が並ぶ

「Katachi」は、八つのテーマで構成されている。
音色の形。灯の形。釉の形。用の形。森の形。継ぐ形。妙の形。構えの形。
それぞれに、日本各地のつくり手が紐づく。
音色の形では、カリモク家具とデヴォン・ターンブル氏(Ojas)による家具と音響のコレクション。3次元加工でつくられた木製の大型ホーンや、スピーカーの内部構造を椅子の形へ展開した造形が並ぶ。日本の住環境に合わせ、「Sanjo」「Rokujo」「Nurikabe」という名の機種が用意された。畳の枚数と、壁の名前である。
灯の形には、江戸時代から続く岐阜提灯の老舗・浅野商店と、インテリアデザイナーの内田繁氏が共同開発した照明シリーズ「paper moon」。折りたためる提灯の構造を残したまま、和紙を通した光が360度に広がる。
釉の形は、有田焼400年の節目に、世界の16組のデザイナーと生まれた陶磁器ブランド「2016/」。
用の形には、420年以上にわたって曲物をつくり続ける博多曲物玉樹が入った。杉やヒノキの板を熱で曲げ、桜の皮で綴じる。金属を一切使わない。柳宗悦やバーナード・リーチも、この手仕事に魅了されたという。
森の形では、コンランショップ自身のプロジェクト「Resöma」。デザインは軽井沢を拠点とする須長檀氏。素材に国産の杉を使う。家具には重く硬い広葉樹が一般的だが、あえて針葉樹を選んだ。理由は、需要が落ちて使われずに残っている森林資源を動かすためである。製造は、福岡県大川市の工場が担う。
形は、思いつきから生まれるのではない。土地の気候があり、そこで採れる素材があり、それを扱うために編み出された技術がある。
その積み重ねの結果として、形が決まる。
八つの切り口は、そのことを繰り返し示している。

「KARIMOKU RESEARCH Survey 03 FORM FOLLOWS FEELINGS」を通して生まれた、デヴォン・ターンブル氏(Ojas)とカリモク家具による家具と音響のコレクション。 
Photo by Masaaki Inoue, Bouillon
江戸時代から続く岐阜提灯の老舗「浅野商店」と、日本を代表するインテリアデザイナー内田 繁氏の共同開発によって生まれた照明シリーズ「paper moon」。
有田焼の400年にわたる歴史と伝統を受け継ぎながら、現代の暮らしに新たな価値を提案する陶磁器ブランド「2016/」。
応神天皇の胞衣を納める筥を作ったことから発達し、曲物の発祥の地ともされる伝統工芸「博多曲物」。
ザ・コンランショップが、日本の風土や自然環境に目を向け、その特性を活かした製品開発に取り組むプロジェクト「Resöma(レソマ)」。

直せる椅子と、救い出されたこけし

「Katachi」の出品には、メンテナンスの観点から見逃せないものがいくつかある。
構えの形に選ばれた「Nychair X」は、1970年にデザイナーの新居猛氏が生み出した椅子だ。50年以上、世界で使われ続けている。
軽く、折りたたむとスリムに収まる。日本の住環境から生まれた設計である。
そして、各部品の交換と修繕ができる構造になっている。
「道具のように役に立ってこそ椅子」。新居氏の信念が、そのまま構造に翻訳されている。壊れたら捨てるのではなく、傷んだ部品だけを替える。だから世代を超えて使える。
妙の形に入った「B-KOKESHI」は、別の角度から同じ問題に触れる。
東京・御徒町に工房を構える家具ブランドWOODWORKが手がけるこのプロジェクトは、昭和の時代に各家庭にあったこけしを「救い出し」、キャップと組み合わせて現代のプロダクトに変える、工芸品のリサイクルの試みだ。
かつて茶の間にあった置物が、役目を終えて眠っている。それをもう一度、使えるものにする。
継ぐ形の「URUSHICA」も興味深い。1793年創業、越前漆器の漆塗師屋・漆琳堂が、ZOZO NEXTと共同開発した漆器である。漆と耐熱樹脂の密着を実現し、食器洗浄機と電子レンジに対応させた。
漆器は、扱いが難しいから使われなくなった。ならば、扱いやすくする。「100年先も漆を塗り続ける」というビジョンを掲げる同社の答えが、これである。
伝統を守ることと、日常で使われることは、しばしば対立するように語られる。だが使われなくなった技術は、いずれ途絶える。
使い続けられる形にすることが、いちばん確実な保存なのかもしれない。

1970年に日本人デザイナー新居 猛氏によって生み出され、以来50年以上にわたり世界各国で愛され続けている椅子の名作「Nychair X」。
昭和の時代に各家庭で親しまれたこけしを救い出し、キャップを組み合わせて現代のプロダクトへと生まれ変わらせる、工芸品のリサイクルプロジェクト「B-KOKESHI」。
「100年先も漆を塗り続ける」をビジョンに掲げる漆塗師屋・株式会社漆琳堂が、ZOZO NEXTと共同開発した「URUSHICA」。

新しいものだけで、暮らしをつくらない

場所を、東京・清澄白河へ移す。
9月19日、「Rurbanism Tokyo Store」がオープンする。
Rurbanとは、Rural(田園)とUrban(都市)を組み合わせた造語である。運営は2025年設立の株式会社Rurbanism。創業者の遠藤辰彦氏は、長年ファッションとストリートカルチャーの領域で活動してきた人物だ。
店に並ぶのは、日本の現代陶芸を中心に、ヴィンテージ家具、照明、テキスタイル、植物、そして音楽。
岩崎龍二、尾形アツシ、小野象平、小野哲平、寒川義雄、境道一、境知子、田宮亜紀、田村文宏、八田亨、村上躍、吉田直嗣といった陶芸家の作品が、アルヴァ・アアルト、ハンス・J・ウェグナー、ピエール・シャポー、シャルロット・ペリアンらのヴィンテージ家具と同じ空間に置かれる。
年代でも、国籍でも、ジャンルでも分けない。
陶芸作品を「作品」として単体で見せるのではなく、家具や照明や植物とともに、実際の暮らしに近い環境に置く。そうすることで、それぞれのものが持つ新しい表情や関係が見えてくる——というのが、この店の考え方である。
ここで起きているのは、時間の混在だ。
昨日つくられた器と、70年前につくられた椅子が、同じテーブルの上と下にある。どちらが新しいかは、選ぶ理由にならない。
新品だけで部屋を組み立てるのは、実は不自然なことかもしれない。私たちの暮らしには、祖母から受け継いだ皿も、学生時代から使っている机もある。ものの年齢は、本来ばらばらだ。
それを店頭で再現する。
オープンに続き、9月30日から10月27日まで、伊勢丹新宿店本館5階で「Rurbanism展」も開かれる。うつわ祥見KAMAKURAとの共同キュレーションで、小野哲平、小野象平、小林徹也、安齋賢太、荒川真吾、吉田直嗣、八田亨らの作品が並ぶ。

アイヌとホピ、二つの先住民が並ぶ2日間

10月11日と12日、北海道白老町のウポポイ(民族共生象徴空間)で「アイヌアートショー2026」が開かれる。
公益財団法人アイヌ民族文化財団が主催し、今年で5回目。アイヌ文化の伝統を受け継ぎながら、現代的な創造性によって新しい表現へ広げるアーティストや工芸家が集まる場として続けられてきた。
今年の目玉は、海外からの招聘である。
アメリカ先住民ホピの銀細工師をゲストに迎え、アイヌの工芸家による工芸品と並べて展示・販売する。11日にはホピの銀細工師、12日にはアイヌの工芸家によるトークショーがそれぞれ開かれる。
展示販売は全18ブースを予定。
トンコリ奏者であり映像監督としても活動するOKI氏による映像作品「ポロトのビッグエカシ」が両日4回上映され、舞台挨拶とトークショーも行われる。アート作品の展示もある。
さらに、白糠の伝承者によるアイヌ料理の実食体験、工芸作家を講師にしたワークショップが両日開催される。
ここで注目したいのは、構成の設計だ。
見る(展示)、聞く(トーク)、食べる(食文化体験)、つくる(ワークショップ)。四つの経路が用意されている。
文様や工芸は、それだけを切り離して眺めれば、意匠として消費できてしまう。だが、つくり手の話を聞き、同じ土地の食を口に入れ、自分の手を動かしてみれば、話は変わる。
形の背後にある暮らしと歴史が、体を通して入ってくる。
そして、ホピとの並置。
遠く離れた二つの先住民の造形が、同じ会場に置かれたとき、何が似ていて何が違うのか。その比較が可能になること自体が、この展示の価値だろう。
ウポポイは2020年、アイヌ文化の復興・創造の拠点として開設された。国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、そして慰霊施設からなる。ポロト湖のほとりにある。
文化を展示する施設であると同時に、現在進行形でつくられているものを見せる場でもある。伝統は、過去形ではない。

アイヌ文化の復興・創造等の拠点として2020年に北海道白老町にオープンしたウポポイ(民族共生象徴空間)。

買うことは、引き受けること

三つの場は、規模も主体も目的も違う。企画展と、新規開店と、文化イベント。
それでも、通底するものがある。
ものを、完成形だけで判断させない。
端材と研磨前の見本。ヴィンテージと新作の同居。つくり手のトークと、食と、ワークショップ。
どれも、買う前に、あるいは見る前に、その背後にあるものへ視線を通す仕掛けだ。
なぜ、それが必要なのか。
一つは、正当な値付けを理解するためである。手数のかかるものは高い。その理由が見えなければ、価格は不当に見える。
もう一つは、使い続けるためだ。
どんな素材で、どんな工程でできているかを知っていれば、扱い方がわかる。傷んだときに、直せるかどうかの判断もつく。Nychair Xの部品交換も、URUSHICAの食洗機対応も、B-KOKESHIのこけし再生も、根はここにある。
そしてもう一つ。ものを選ぶことが、その背後の産地や技術を選ぶことになるからだ。
Resömaが国産杉を使うのは、使われずに残る森林資源を動かすためだった。燕物産が工程見本を出すのは、燕という産地の仕事を見せるためだ。ウポポイに18のブースが並ぶのは、アイヌの工芸が現役の産業として続くためである。
一つ買えば、その仕事が少し続く。
買うことは、支持することであり、引き受けることでもある。
完成品だけが並ぶ売り場では、その実感は生まれない。
研磨する前のスプーンが店頭に置かれている。ただそれだけのことが、思いのほか遠くまで届くかもしれない。

開催情報
ザ・コンランショップ「Katachi」
会期:2026年9月18日(金)より
会場:ザ・コンランショップ各店
https://www.conranshop.jp/

Rurbanism Tokyo Store
グランドオープン:2026年9月19日(土)
住所:東京都江東区森下1-5 堀ビル1F
https://www.rurbanism.net/ja
※伊勢丹新宿店本館5階にて「Rurbanism展」を2026年9月30日(水)〜10月27日(火)開催

アイヌアートショー2026(ウポポイ)
会期:2026年10月11日(日)、12日(月・祝)
会場:ウポポイ(民族共生象徴空間/北海道白老町)
https://ainu-upopoy.go.jp/lp/artshow-2026/

FAQ

Q. ザ・コンランショップ「Katachi」とは何ですか?
A. 日本各地の風土や素材、受け継がれてきた技術から生まれる「形」に焦点を当てたイベント。2026年9月18日からザ・コンランショップ各店で開催される。音色、灯、釉、用、森、継ぐ、妙、構えという八つのテーマで構成されている。

Q. 工程見本の展示とは、どのようなものですか?
A. 新潟県燕市の燕物産が、別注カトラリー「Caff」の店頭展示にあたって提供したもの。製造時に発生する端材と、職人による研磨前後の違いを比較できる見本を展示協力している。普段は表に出ない製造工程の断片を見せる試みである。

Q. 「Rurbanism Tokyo Store」はどんな店ですか?
A. 2026年9月19日に東京・清澄白河にオープンする。日本の現代陶芸を中心に、ヴィンテージ家具、照明、テキスタイル、植物、音楽などを、年代や国籍、ジャンルで分けずに一つの空間で紹介するキュレーションプラットフォームである。

Q. 「Rurbanism」という名前の由来は?
A. Rural(田園)とUrban(都市)を組み合わせた造語。都市と田園、古いものと新しいもの、デザインされたものと手の痕跡が残るものなど、異なる背景を持つものの間に新しい関係を見つけるという考え方を表している。

Q. 「アイヌアートショー2026」では何が行われますか?
A. 2026年10月11日と12日、北海道白老町のウポポイで開催される。5回目となる今年は、アメリカ先住民ホピの銀細工師を招き、アイヌの工芸家と作品を並べる。全18ブースの展示販売のほか、トークショー、OKI氏の映像上映、アイヌ料理の実食体験、ワークショップが予定されている。

Q. ウポポイとはどのような施設ですか?
A. アイヌ文化の復興・創造等の拠点として、2020年に北海道白老町に開設された。国立アイヌ民族博物館、体験型フィールドミュージアムの国立民族共生公園、そして慰霊施設からなる。ポロト湖のほとりに位置する。

Q. メンテナンスの観点で注目すべき出品はありますか?
A. いくつかある。1970年に生まれた「Nychair X」は各部品の交換と修繕ができる構造を持つ。「B-KOKESHI」は昭和のこけしを現代のプロダクトへ再生する試み。「URUSHICA」は漆と耐熱樹脂を組み合わせ、食器洗浄機と電子レンジに対応させた漆器である。

Q. なぜ、ものの来歴を知ることが大切なのですか?
A. 素材や工程がわかれば、扱い方も、傷んだときに直せるかどうかの判断もつく。来歴のわからないものは、手の入れようがない。長く使うことは精神論ではなく、情報の問題でもある。

Q. 国産材の活用に関する出品はありますか?
A. ある。ザ・コンランショップのプロジェクト「Resöma」は、需要の低下によって活用されずに残る国産杉に着目した家具シリーズ。デザインは須長檀氏、製造は古くから家具の産地として知られる福岡県大川市の工場が担う。

Q. 三つの取り組みに共通する点は何ですか?
A. ものを完成形だけで判断させない、という姿勢である。製造の途中経過を見せる、異なる時代のものを並べる、つくり手の言葉と食と手仕事を通じて背景を伝える。手法は違うが、ものの背後にある土地と時間と手の跡を、見える場所へ引き出そうとしている。

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