社会全体でサステナビリティに取り組むことが必要と言われている今、その先進国と言われるスウェーデンに昨年夏3 ヶ月滞在した体験から得たモノづくりのヒントをお伝えしたい。

環境よりも人権に対する意識が先進的

私が滞在したスウェーデンの首都ストックホルムは、水辺に囲まれ、街を少し離れると深い森や湖が現れる美しい都市だが、これらの自然がこの国の原点であることを滞在しているうちに感じることとなった。

ただ複数の人から「スウェーデンは環境に意識の高い人は確かにいるけど、それよりも人に関すること=人権に対する意識の方が先進的」という意見の方が多く聞かれ非常に驚いた。

その人たちは例えとして、「男女平等は当たり前でレディファーストですらない」「育児休暇についても男性が取得するのは当然なので、取得率という指標はない「」移民の比率が国全体では2 割、ストックホルムでは3 割と高く、その分子どもの時から多様な友達が近くにいるのが普通という感覚がある」と話してくれた。サステナビリティというと環境問題と思う方も多いが、社会問題とりわけ“人の権利”に関することも多くを占めていることをここで改めて感じることとなった。

ここから言えるのは、スウェーデンは環境先進国というよりも「人権先進国」。日本で人権というと、差別だとか、歴史的な問題という話になるが、スウェーデンでは、人権を経済と結びつけて考えることができる。身の回りにある不平等を平等に見たときに、つまり「その差を埋める」という視点で見たときに、そこにビジネスチャンスがあるという考えを持っているということである。

平等差を埋める」「モノを作る側と買う側の差を埋める」という発想からモノづくりを考える

スウェーデンでは買う側は単に使えれば良いということではなく、そのモノを自分仕様にするために作り変えたい、自分で修理をしたいという人も多い。

一方作る側は作業効率を上げるために後で変えられない仕様にするケースも多い。このように「差を埋める」という視点を持つと、IKEAのように作る側は使う側のメンテナンスのニーズに合わせてデザインするという考え方が生まれ、独自色の強いモノづくりが生まれてくるのかもしれない。まさにメンテナブルの視点である。

最初にこうした課題を見つけることからスタートするのがスウェーデン・アプローチの特徴である。それが独自の視点となり他社と差別化されたモノづくりにつながる。 もちろんサステナブルなモノづくりを考えるときには環境に配慮することは必須であるため、循環型のモノづくりを行うなどの視点が必要になることも忘れてはならない。サステナビリティについては“SDGs”という形で世界目標が示された。ただ答えが書かれているわけではない。

我々が課題自体を探し、それを解決して世界目標の達成に向けて正しいモノづくりをすることが求められている。

スウェーデンの動物保護法では、犬を留守番させるときは上限 6 時間までという法律がある。でもほとんどの家庭は夫婦共働きなので法律を守ることが難しい。そこで生まれたサービスが犬の保育園、犬のベビーシッター。日本でも検討に値するのではないか。人と動物の差を埋める視点である。
出典:Dog Care Center Sweden AB
モノを作る側と買う側との差を埋めるという発想から新たなモノづくりを考える。スウェーデン発祥のIKEAでは循環型商品のデザイン原則を設けている。
出典:CIRCUL AR PRODUCT DESIGN GUIDE/ IKEAをもとに作図

阪本 洋 Hiroshi Sakamoto

生活感度研究所 代表。大手流通業にてバイヤー、及び改装計画立案の部署を経験後、「買い物をすることで社会に貢献できることをお客さまに提案する」を理念に独立。LOHASやエシカルなどサステナビリティをテーマとした販売活動や消費財のモノづくり、中小企業に向けてマーケティングの支援を行っている。東京大学エクステンション サーキュ ラーエコノミービジネスデザインコース修了。