
★要点
ビズキューブ社の調査で、国内設備メーカーの7割以上が、顧客設備の定期メンテナンス契約を結べず、「トラブル発生後の対応」か「放置」に留まっている実態が判明。多くの企業が予防保全への移行を望みながらも、「保全営業の人手不足」が最大の障壁となり、現場が疲弊する悪循環に陥っている。
★背景
インフラや工場の老朽化、頻発する自然災害、そして深刻化する労働人口の減少。日本の社会基盤の安全神話が揺らぐ中、「壊れてから直す」事後対応型のメンテナンスは限界を迎えている。事故を未然に防ぐ「予防保全」へのシフトは、もはや単なる経営課題ではなく、社会全体の持続可能性を左右する喫緊のテーマだ。
日本の社会インフラが、静かな悲鳴を上げているのかもしれない。ビズキューブ社が実施した「設備メーカー予防保全の実態調査」は、その深刻な内情を浮き彫りにした。約7割のメーカーが、顧客設備の予防保全にまで手が回らず、「壊れてから直す」か「放置」せざるを得ない状況。問題は技術やコストではない。すべては「人」がいないことに起因する。メンテナンスの最前線で今、何が起きているのか。
契約率3割未満が7割、常態化する「事後対応」
調査結果は衝撃的だ。国内の設備機器メーカーの67.7%が、顧客との定期保守メンテナンスの契約率を「30%未満」と回答。そして、契約を結んでいない大多数の顧客に対しては、実に7割以上が「トラブル時のみ対応」あるいは「ほぼ放置状態」にあるという。 これは、日本の産業基盤の多くが、いつ壊れるか分からない“時限爆弾”を抱えながら稼働していることを意味する。トラブルは突発的に発生し、顧客の業務停止に直結するリスクを孕む。その緊急対応に追われることで、現場の技術者は疲弊し、労働時間は増加。結果として、より重要であるはずの「壊れる前に行う」予防保全に取り組むリソースが、さらに奪われていく。

最大の壁は「人手不足」、技術やコスト以前の問題
なぜ、予防保全へのシフトが進まないのか。その障壁を問う質問に対し、最も多かった答えは「投資コスト」(22.2%)でも「技術不足」(20.7%)でもなかった。「保全営業の人材不足」(28.1%)。つまり、予防保全の重要性を顧客に伝え、契約を結ぶための営業担当者が、そもそも足りていないのだ。 多くのメーカーでは、組織が新規案件の獲得に最適化されており、地道なメンテナンス契約を推進する体制が整っていない。技術やノウハウ以前に、その価値を届ける「人」がいない。この構造的な問題が、日本のメンテナンス危機の本質と言えるだろう。

「事後」から「予防」へ。DXが解決の糸口になるか
建物の新規着工が減少傾向にある今、既存設備の維持・メンテナンスは、メーカーにとって新たな収益の柱となり得る重要な市場だ。この人手不足という大きな壁を乗り越える鍵は、DX(デジタルトランスフォーメーション)にあるかもしれない。 今回の調査を実施したビズキューブ社は、顧客情報や保全計画を一元管理するクラウドシステム「LC-Cube」を提供。データを活用し、最小限の人数で効率的に保全営業を行う仕組みを提案する。属人的な管理から脱却し、「見える化」されたデータに基づいて予防保全を計画的に進める。人手不足という制約の中で、テクノロジーをいかに活用し、「事後対応」の悪循環から抜け出すか。日本の社会インフラの未来は、その一点にかかっている。

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