
★要点
2026年7月、熊本市で「第2回グローバルネイチャーポジティブサミット2026」が開かれる。テーマは、自然の損失を止め、回復基調へ転じる「ネイチャーポジティブ」の実装だ。政府、自治体、企業、金融機関、研究者、市民団体、ユース世代が集まり、制度、技術、金融、教育、地域実践を横断して、自然再興の道筋を議論する。併催される「NATURE TECH!」や熊本ユースの発表、阿蘇草原や球磨川流域を巡るエクスカーションは、地球を手入れする技術の“見本市”になる。
★背景
気候変動、生物多様性の損失、森林・草原・湿地の劣化、水資源の不安定化が同時に進むなか、自然を「守る」だけでは足りない時代に入った。必要なのは、壊れた自然を回復させ、地域の暮らしや経済の中で維持し続ける仕組みである。熊本は、豊かな地下水、阿蘇草原、江津湖、球磨川流域など、自然の恵みとリスクが暮らしに直結する土地だ。ここで開かれる国際会議は、地球の修理技術を、道具だけでなく、会議、制度、教育、金融、都市政策の連携として考える入口になる。
自然を守るだけでは、もう間に合わない。失われた森を戻す。草原を維持する。湿地を再生する。都市の中に生きものの通り道をつくる。水を蓄え、土を育て、地域の暮らしと経済を自然の回復力に接続する。これが、ネイチャーポジティブの時代に求められる地球の修理技術である。2026年7月、熊本市で開かれる「第2回グローバルネイチャーポジティブサミット」は、その実装をめぐる国際会議だ。会議場だけではなく、NATURE TECH!、熊本ユースの発表、阿蘇草原や球磨川流域のエクスカーションなど。熊本という土地そのものが、地球を手入れする技術発表の舞台になる。
自然保護から、自然再興へ。ネイチャーポジティブとは何か
ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止め、回復へ転じる考え方だ。
これまでの自然保護は、「これ以上壊さない」ことに重きが置かれてきた。
森を守る。希少種を保護する。開発を抑える。
もちろん、それは不可欠だ。
だが、すでに失われた自然、劣化した生態系、減り続ける生きものを前にして、守るだけでは足りない。
必要なのは、回復基調へ乗せることだ。
森を植えるだけではない。草原を維持する。湿地を戻す。川とまちの関係を直す。
農地や企業緑地、学校林、都市公園、港湾、道路脇の草地まで、生物多様性を回復させる場所として見直す。
ネイチャーポジティブは、自然を“外側にある保護対象”から、“社会を支える基盤”へ戻す考え方である。
この流れは、国際的な政策課題にもなっている。
2022年に採択された生物多様性世界枠組では、2030年までに自然損失を食い止め、回復へ向かう方向性が共有された。
企業や金融機関も、気候変動だけでなく、生物多様性と自然資本を経営課題として扱い始めている。
脱炭素の次は自然資本、と言われることがある。だが、本当は順番の問題ではない。
気候、森林、土壌、水、生きもの、食料、都市はつながっている。CO2だけを減らしても、森や水や生きものが壊れれば、社会は持続しない。
ネイチャーポジティブは、地球の壊れ方を総合的に見直すための言葉だ。そして、地球を修理するための実装言語でもある。

なぜ今回、熊本なのか? 地下水と草原と流域が教える自然のインフラ
第2回グローバルネイチャーポジティブサミットの開催地は、熊本市である。この選択には意味がある。
熊本は、水の都市だ。
阿蘇の火山地形、森林、草原、農地が雨を受け止め、地下へ浸透させ、豊かな地下水を育ててきた。
都市の水道水源の多くを地下水に依存する熊本では、水は単なる資源ではない。地域の生命線である。
阿蘇草原もまた、自然と人の関係を考える重要な場だ。
草原は、ただ放置されて残った自然ではない。
野焼き、採草、放牧など、人の営みによって維持されてきた。
人が関わらなくなれば、草原は失われる。そこに暮らす植物や昆虫、鳥も消えていく。
つまり、熊本の自然は「人が手を引けば守られる自然」ではない。手入れによって成り立つ自然である。
球磨川流域も重要だ。
2020年の豪雨災害は、流域と人の暮らしの関係を深く問い直した。
川は恵みであり、リスクでもある。清流、茶畑、湿地、酒造、神社、集落、防災。水は地域文化と産業をつくる一方で、災害の記憶も刻む。
熊本は、ネイチャーポジティブを抽象論で語るには向かない土地だ。
水があり、草原があり、森があり、川があり、都市がある。自然の恵みとリスクが、日常に近い。
だからこそ、地球を手入れする技術を現場から考えられる。
熊本開催は、国際会議を地域に降ろす試みである。
壇上の議論を、地下水、草原、流域、都市緑地、若者の活動へ接続する。それがこの会議の強さになる。

NATURE TECH! は、地球の修理技術の見本市になる
熊本市では、サミットに合わせて展示会「NATURE TECH!」も開かれる。
ここでいうテックは、単なるデジタル技術に限らない。
自然の損失を止め、再生へ向かうための技術、制度、知恵、管理方法、金融の仕組みまでを含む。
生物多様性を測る。自然資本を可視化する。森や湿地の管理を効率化する。市民科学データを活用する。企業活動と自然への影響を結びつける。
こうした取り組みが集まれば、それは地球の修理道具の展示会になる。
地球の修理技術というと、巨大な装置や最先端の機械を思い浮かべるかもしれない。だが、実際にはもっと広い。
草原を維持する野焼きも技術だ。地下水を守る流域管理も技術だ。企業が自然資本を測る指標も技術だ。金融機関が生物多様性に配慮した投資を設計することも技術だ。学校で生きもの調査を続けることも、地域を修理する教育技術である。
NATURE TECH! の意味は、自然を感性だけで語らないことにある。
自然は大切だ、では足りない。
どこが劣化しているのか。何を回復させるのか。誰が費用を負担するのか。どう測るのか。どう続けるのか。
技術と制度がなければ、自然再興は掛け声で終わる。
地球を修理するには、道具箱がいる。熊本のNATURE TECH! は、その道具箱を開いて見せる場になる。
ユース発表が示す、次世代のメンテナンス感覚
今回のサミットで見逃せないのが、熊本ユースの参加である。
熊本市の関連イベントでは、県内の高校生が、地下水や生物多様性を守る日頃の活動を発表し、世界のリーダーと意見交換する場が用意されている。
これは単なる教育プログラムではない。ネイチャーポジティブを次世代の実践知にする試みである。
自然は、上の世代だけでは維持できない。
森も、川も、草原も、地下水も、数年で結果が出るものばかりではない。
10年、20年、50年という時間軸で手入れが必要になる。だからこそ、若い世代が「自分たちの地域の自然をどう見るか」は重要だ。
ユース世代にとって、環境問題は遠い未来の話ではない。
気候変動も、生物多様性の損失も、食料や水の不安定化も、自分たちの暮らしに直結する。
そこに地域の地下水や生きものの活動が重なると、地球環境問題は一気に手触りを持つ。
地球をメンテナンスする感覚は、授業だけでは育たない。
観察する。調べる。発表する。地域の大人や企業と話す。世界の参加者と議論する。その経験が、次の制度や事業や研究をつくる。
ネイチャーポジティブは、専門家だけの言葉ではない。若者が自分の町の水と生きものを語れるようになったとき、社会の言葉になる。
エクスカーションは“現場の教科書”
サミット翌日には、熊本県内を舞台にしたエクスカーションも予定されている。ここが面白い。
会議は、言葉を交わす場である。
だが、自然再興は現場を見なければわからない。
森の手入れ、草原の維持、流域の暮らし、都市の湧水。
現場には、報告書だけでは伝わらない複雑さがある。
菊池川流域では、森林管理と水源涵養がテーマになる。
森林は木材を生むだけではない。水を蓄え、土を守り、生きもののすみかになる。森林組合による施業現場を見ることは、自然資本を維持する仕事の現場を見ることでもある。
阿蘇草原では、千年以上続く人の営みと草原の関係が焦点になる。
野焼きや草刈りは、昔ながらの風景保存ではない。草原の生物多様性と地下水を育むメンテナンス技術である。
高齢化や担い手不足で草原管理が難しくなる中、寄付や基金の仕組みも含めた新しい社会的基盤が問われている。
江津湖を巡るコースでは、都市の中の湧水と緑が見える。
都市に自然を残すのではなく、都市の機能として自然を組み込む視点だ。
流域、店舗敷地、植樹、地域参加がつながると、都市もまたネイチャーポジティブの現場になる。
球磨川流域では、水の恵みとリスクの両方に触れる。
自然が防災機能を果たす地形、湿地、茶畑、球磨焼酎、歴史ある神社、そして豪雨災害の記憶。
水は資源であり、文化であり、脅威でもある。自然と共生するとは、きれいな言葉では済まない。リスクも含めて地域を設計することだ。
エクスカーションは観光ではない。現場の教科書である。ネイチャーポジティブを、会議室の言葉から土地の技術へ戻す時間になる。


企業と金融は、自然再興を事業にできるか
今回のサミットでは、企業、金融、自治体の役割も焦点になる。
ネイチャーポジティブを実現するには、行政だけでは足りない。
企業の土地利用、原材料調達、建設、物流、金融投資、保険、観光、農林水産業。
経済活動のあらゆる場面が自然に影響している。
だからこそ、企業と金融が自然再興の担い手にならなければ、変化は起きない。
企業にとって自然は、かつて「CSRで守るもの」だった。
今は違う。
水リスク、原材料リスク、規制リスク、ブランドリスク、投資リスクに直結する経営課題である。
食品企業なら農地と水。建設会社なら土地と緑地。金融機関なら投融資先の自然資本。保険会社なら災害リスクと生態系の防災機能。どの業種も自然から逃れられない。
金融の役割も大きい。
森や湿地や草原を守る活動には費用がかかる。担い手もいる。短期的な収益だけでは回らない。
だから、基金、寄付、投資、融資、保険、自然資本評価、クレジット、地域金融の仕組みが必要になる。
熊本のエクスカーションに金融機関や企業が協賛していることも象徴的だ。
自然再興は、現場の善意だけでは続かない。お金の流れを変え、企業の技術を入れ、自治体が制度を整え、地域が管理を担う。
そこまで含めて、地球の修理技術である。
地球の修理技術の“道具箱”
地球の修理技術とは何か。
それは、藻場を再生する技術かもしれない。土壌を回復する有機土木かもしれない。
草原を維持する野焼きかもしれない。地下水を守る流域管理かもしれない。
生きものを記録する市民科学アプリかもしれない。企業の自然資本評価かもしれない。
学校での環境教育かもしれない。地域の基金や金融の仕組みかもしれない。
つまり、地球の修理技術は、道具だけではない。
制度、会議、教育、金融、都市政策、地域文化、データ、食、観光まで含む。
熊本で開かれるグローバルネイチャーポジティブサミットは、そのことを示す場になる。
会議で世界の議論を集める。NATURE TECH! で技術を見せる。ユース発表で次世代を巻き込む。
エクスカーションで現場を歩く。企業と金融をつなぐ。自治体が地域の仕組みに落とす。
これは、地球の修理技術を社会実装するための編集装置である。
すごい技術を並べるだけではない。
誰が使えるのか。どこで効くのか。何を直すのか。どんな制度や資金や教育が必要なのか。
そうした文脈ごと整理する“地球を手入れする道具箱”である。
自然再興を世界標準にするために
ネイチャーポジティブを世界標準にするには、三つの転換が必要だ。
まず第一に、自然を「コスト」ではなく「基盤」として扱うこと。
森、草原、川、地下水、湿地、都市緑地は、経済活動の外側にある飾りではない。
水を蓄え、災害を和らげ、食料を支え、文化を生み、人の健康にも関わる社会インフラである。
第二に、自然再興を測れるようにすること。
何を守ったのか。どれだけ回復したのか。どの生きものが戻ったのか。水や土や草原の状態はどう変わったのか。
測れなければ、投資も政策も続かない。NATURE TECH! が示すように、データと現場の知恵をつなぐ技術が必要になる。
第三に、地域の人が参加できる仕組みにすること。
自然再興は、専門家だけでは続かない。
高校生が地下水を語る。企業が森づくりに参加する。金融機関が基金を設計する。自治体が制度を整える。住民が草原や水辺の価値を理解する。
こうして初めて、自然は社会の中で維持される。
熊本で開かれる第2回グローバルネイチャーポジティブサミットは、自然保護の会議ではない。自然再興をどう動かすかを問う会議である。
地球を修理する技術は、すでに各地にある。
だが、それらはまだ散らばっている。
草原の手入れ、地下水の保全、都市の緑化、企業の自然資本評価、金融の新しい仕組み、ユースの学び。
それらをつなぎ、共有し、社会の標準へ変えていく必要がある。
熊本は、その実験場になる。
地球を手入れする時代に必要なのは、巨大な解決策を一つ掲げることではない。
地域にある自然の働きを見つめ、失われた機能を戻し、次世代が関われる形で受け渡すことだ。
地下水を守ること。草原を焼くこと。湿地を残すこと。都市に森を育てること。高校生が地域の生きものを語ること。企業が自然を経営の外側に置かないこと。
ネイチャーポジティブは、決して遠い将来の国際目標ではない。
地球の修理技術は、熊本から世界へ向かう。
道具箱は、もう開き始めている。
第2回グローバルネイチャーポジティブサミット2026
https://events.nikkeibp.co.jp/event/2026/GNPS_jp/
会期:2026年7月14日(火)-15日(水)
※7月16日(木)にエクスカーションを予定
開催都市:熊本市
*協力:熊本国際観光コンベンション協会
会場:熊本城ホール
〒860-0805熊本県熊本市中央区桜町3-40
公式言語:英語と日本語
FAQ
Q. ネイチャーポジティブとは何か。
A. 自然の損失を止め、回復基調へ転じさせる考え方である。自然を守るだけでなく、失われた生態系や生物多様性を回復させ、社会や経済の中で維持することを目指す。
Q. グローバルネイチャーポジティブサミット2026とは何か。
A. ネイチャーポジティブの実現に向け、政府、自治体、企業、金融機関、研究者、市民団体などが集まり、対話と協働を進める国際会議である。第2回は2026年7月に熊本市で開催される。
Q. なぜ熊本で開催されることが重要なのか。
A. 熊本は地下水、阿蘇草原、江津湖、球磨川流域など、自然の恵みとリスクが暮らしに深く関わる地域である。自然を保全するだけでなく、手入れしながら使い続ける実践を考える場として意味がある。
Q. NATURE TECH! とは何か。
A. サミットに合わせて開かれる展示会で、自然の損失を止め、再生へ向かうための技術活用や産官民の実践を紹介する場である。地球の修理技術の見本市として位置づけられる。
Q. 地球の修理技術とは何か。
A. 森や草原、川、地下水、湿地、都市緑地などの自然機能を回復・維持するための技術、制度、金融、教育、地域管理の総称である。道具だけでなく、会議や制度、学び、資金の流れも含まれる。
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