★ここが重要!

★要点
都市の緑地、水の流れ、土中環境、生きものの移動を、景観や保全対象ではなく「社会インフラ」として扱う動きが広がっている。TSUNAG認定とDBJ Green Building認証の連携、流域治水オフィシャルサポーターの拡大、ロードキル対策、有機土木の実践は、自然共生型まちづくりが制度・金融・防災・道路・土木へ広がり始めたことを示している。
★背景
気候変動による豪雨・猛暑、生物多様性の損失、都市の老朽化が同時に進むなか、従来の「硬く、大きく、速く流す」インフラだけでは都市を守りきれない。これからは、壊れた場所を直すだけでなく、雨をしみ込ませ、熱を逃がし、土を育て、生きものの移動を支える“地球をメンテナンスするインフラ”が問われる。

都市の緑は、飾りではなくなった。雨を受け止め、暑さを和らげ、生きものの通り道をつくり、人の心身を回復させる。国土交通省が進めるTSUNAG認定、流域治水、ロードキル対策、そして各地で広がる有機土木の実践は、自然を「外部」ではなく、都市を支える「基盤」として扱う時代の到来を告げている。グリーンインフラは、緑化の話ではない。まちの維持可能性を、土と水から組み直す試みである。言い換えれば、都市をメンテナンスすることが、そのまま地球をメンテナンスすることにつながる時代が始まっている。

緑地が“資産価値”になる。TSUNAG認定が変える都市開発の見方

都市開発の現場で、緑地の意味が変わり始めている。国土交通省が進める優良緑地確保計画認定制度、通称「TSUNAG認定」は、都市における良質な緑地の確保を促す仕組みだ。気候変動への対応、生物多様性の保全、ウェルビーイングの向上。緑が持つ機能を、単なる景観ではなく、都市の性能として評価する制度である。
今回、このTSUNAG認定がDBJ Green Building認証と連携することになった。DBJ Green Building認証は、環境や社会に配慮した不動産を評価する制度であり、オフィス、商業施設、物流施設、住宅などを対象にしている。つまり、都市の緑地が不動産評価や金融判断の領域に入り始めたということだ。
これまで緑は、建物を建てたあとに足されるものだった。外構、植栽、ランドスケープ、条例対応。都市の余白に置かれる存在である。しかしグリーンインフラの発想は、その順序を逆転させる。
水はどこから流れ、どこにしみ込み、どこでたまるのか。風はどこを通り、熱はどこにこもるのか。鳥や昆虫はどこで暮らし、どのように移動するのか。こうした自然の働きを、建築や都市計画の最初から組み込む。緑は飾りではなく、都市を動かす装置になる。
不動産の価値は、駅距離や床面積だけで測れない時代に入った。暑さを下げる力、雨を受け止める力、生物多様性を支える力、人が過ごしたくなる力。それらが可視化され、評価され、投資対象になる。TSUNAG認定とDBJ Green Building認証の連携は、その転換点である。

TSUNAG 優良緑地確保計画認定制度
https://tsunag-mlit.com/

DBJ Green Building認証
https://igb.jp/

水を“流す”から“受け止める”へ。流域治水が変える防災の常識

水害対策もまた、発想の転換を迫られている。国土交通省は38企業・団体等を新たに「流域治水オフィシャルサポーター」に認定した。流域治水とは、河川管理者だけでなく、自治体、企業、住民など、流域に関わるあらゆる主体が協働し、水害リスクを減らす考え方である。
かつて治水は、水を速く流す技術だった。川を掘り、堤防を築き、雨水を排水路に集め、できるだけ早く海へ送る。だが、気候変動によって豪雨が激しく、頻繁になるなか、それだけでは限界がある。
必要なのは、流域全体で水を受け止めることだ。森林、農地、公園、学校、住宅地、商業施設、道路、駐車場。まちのあらゆる空間に、雨水をためる、しみ込ませる、ゆっくり流す機能を持たせる。雨庭、透水性舗装、緑地帯、屋上緑化、調整池。これらは別々の設備ではなく、水を分散して受け止める都市のネットワークである。
この発想は、グリーンインフラそのものだ。水害を防ぐだけではない。雨水を地中に戻せば、地下水の涵養につながる。緑地が増えれば、暑熱も和らぐ。土壌が回復すれば、植物や微生物の活動も豊かになる。治水、防災、暑熱対策、生物多様性、暮らしの快適性が、一つの仕組みでつながっていく。
流域治水オフィシャルサポーターの拡大は、防災が行政だけの仕事ではなくなったことを示している。企業の敷地、学校の校庭、住宅地の庭、商業施設の駐車場。水をどう扱うかは、まちに関わるすべての主体の課題になった。

流域治水オフィシャルサポーター制度
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/supporter.html

道路も自然の一部である。ロードキル対策が示すネイチャーポジティブ

道路は、人や物を運ぶためのインフラだ。しかし、生きものから見れば、生息地を分断する巨大な壁にもなる。山林、河川、農地、湿地を道路が横切ることで、動物の移動経路は断たれ、交通事故や個体群の孤立が起きる。そこで問題になるのがロードキルである。
国土交通省は、道路分野で「データ駆動型ロードキル対策」の全国展開を進める。ロードキルとは、道路上で野生動物が車両と衝突して死亡する問題だ。これまで現場ごとの経験や個別対応に頼ることが多かった対策を、データで可視化し、重点区間を把握し、効果的な対策につなげる狙いである。
発生場所や頻度を分析できれば、動物侵入防止柵、横断構造物、注意喚起の標識などを、より的確に配置できる。これは道路を「人間の移動空間」だけとして扱わず、生態系の中に存在する構造物として捉え直す試みだ。
ネイチャーポジティブは、森林や保護区だけで達成できるものではない。道路、港湾、住宅地、工場、学校、ビル。日常のインフラそのものが、生物多様性の回復に関わる。道路が分断してきた生きものの移動を、どう回復するか。そこに、これからのインフラ設計の重要な論点がある。

データ駆動型ロードキル対策
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_002005.html

有機土木が見る“土の中”——見えないインフラを回復させる

グリーンインフラを考えるとき、目に見える緑だけを見ていては足りない。樹木や草花を支えているのは、土である。水を受け止め、空気を通し、微生物を育て、根を広げる。都市の健全性は、目に見えない土中環境に支えられている。
そこで注目されるのが「有機土木」である。有機土木は、土、水、空気、植物、微生物、生きものの関係性を読み解きながら、土地の健全性を回復させる土木的な考え方だ。
従来の土木は、自然を制御する技術として発展してきた。水を逃がす。斜面を固める。有機物を排除する。変化を止める。もちろん、それによって安全性や利便性は高まった。一方で、土の呼吸、水の浸透、根の広がり、生きものの循環が断たれてきた場所も少なくない。
有機土木は、そこに別の道を示す。水を速く流すのではなく、土にしみ込ませる。斜面を一律に固めるのではなく、根や微生物が働く余地を残す。倒木や落ち葉を邪魔者として片づけるのではなく、土壌を育てる素材として扱う。
都市の緑地、渓谷、学校、被災地で、土中環境の改善、植樹、斜面の安定化、雨水浸透の改善が実践されている。東京都世田谷区の等々力渓谷では、倒木対策や土中環境改善をめぐる学習会が行われ、能登半島地震で被害を受けた七尾自動車学校では、有機土木による災害復旧工事の説明会や植樹会も予定されている。
これは、グリーンインフラを「緑を増やすこと」から一歩進める視点だ。地上の緑を増やすだけでは、都市は回復しない。土が締まり、水がしみ込まず、根が伸びなければ、緑は長く続かない。まちの持続可能性は、足元の土から始まる。
そして、その足元の土は、都市だけの問題ではない。土が水を抱え、植物を育て、生きものを支える。その小さな循環を回復させることは、地域のメンテナンスであり、地球のメンテナンスでもある。

「有機土木」が担う防災や災害復旧、インフラなどの整備を詳細解説。
伝統的な手法に先進的な視点を組み込んだ安全な世界で安心して生きるための一冊、
『未来が変わる! 土中環境と有機土木』著 高田宏臣/PARCO出版

一般社団法人 地球守・有機土木協会
https://organiccivilengineering.org/

熊本人吉から考える、復興とグリーンインフラ

5月30日、31日には、熊本県人吉市でグリーンインフラジャパンによるGI学会第1回学術大会が開催される予定だ。人吉市は、2020年7月豪雨で大きな被害を受けた地域である。球磨川流域の水害を経験した地域で、グリーンインフラをめぐる学術大会が開かれることには大きな意味がある。
水害からの復興は、元に戻すだけでは足りない。これからの豪雨リスク、人口減少、地域経済、自然環境、観光、暮らしの質を重ね合わせながら、地域のかたちを再設計する必要がある。
グリーンインフラは、防災技術であると同時に、地域再生の技術でもある。川とまちの関係を見直す。水辺を開く。遊水地や湿地を活かす。森や農地の保水力を高める。景観や文化を次世代につなぐ。防災、環境、観光、教育、健康、コミュニティを一体で考えることができる。
人吉での学術大会は、グリーンインフラが研究者や行政担当者だけのテーマではなく、被災地、地域住民、事業者、設計者、教育者が共有する実践知になりつつあることを示す場になるだろう。水害を経験した地域だからこそ、水を敵として排除するだけでなく、水とどう共に暮らすかを問い直せる。

第1回GI学術大会
https://www.gi-network-japan.org/events/academicconference2026

自然を“外部”ではなく“基盤”として扱う

グリーンインフラ、有機土木、流域治水、ロードキル対策、ネイチャーポジティブ。言葉は違うが、根にある問いは同じだ。自然を社会の外部にあるものとして扱うのか。それとも、社会を支える基盤として扱うのか。
近代の都市やインフラは、自然を制御し、排除し、効率化することで発展してきた。雨は排水するもの。土は固めるもの。樹木は管理するもの。動物は道路の外に追いやるもの。そこから便利な都市が生まれた一方で、暑熱、水害、生物多様性の損失、土壌の劣化といった課題も積み上がった。
いま求められているのは、自然を装飾や保全対象としてだけではなく、都市や地域の機能を支える基盤として扱うことである。緑地は涼しさを生み、水を蓄え、人の心身を回復させる。土壌は雨を受け止め、植物を育て、微生物の活動を支える。川は水を流すだけでなく、地域の風景、文化、生態系を形づくる。道路もまた、生きものの移動や地域環境と切り離せない存在である。
TSUNAG認定、流域治水オフィシャルサポーター、ロードキル対策、GI学会、有機土木の実践は、それぞれ異なる領域から同じ方向を指している。自然と社会を分けるのではなく、自然の働きを社会の仕組みに組み込む方向だ。
その先にあるのは、自然を壊したあとに補償する社会ではない。自然の働きを日常的に点検し、手入れし、回復させながら暮らす社会である。地球をメンテナンスするとは、遠い森や海だけを守ることではない。都市の雨水、街路樹の根、道路脇の小さな草地、川沿いの土壌を、社会の基盤として扱うことなのだ。

グリーンインフラの今後ーー評価・設計・管理をつなぐ

グリーンインフラを広げるには、理念だけでは足りない。必要なのは、評価、設計、管理をつなぐことだ。
第一に評価。TSUNAG認定とDBJ Green Building認証の連携が示すように、緑地や土壌、水循環、生物多様性の価値を、不動産評価や金融判断に組み込む仕組みが重要になる。環境価値が見える化されれば、投資や開発の判断も変わる。
第二に設計。雨水をどこで受け止め、風をどう通し、生きものの移動経路をどう確保するか。建物、道路、公園、河川、農地を別々に考えるのではなく、流域や生態系の単位で設計する視点が欠かせない。
第三に管理。グリーンインフラは、つくって終わりではない。樹木は育ち、土は変化し、水の流れも変わる。だからこそ、継続的な観察、手入れ、データ活用、地域参加が必要だ。有機土木が重視するように、変化を止めるのではなく、変化を読みながら維持する技術が問われる。
Maintainableな社会とは、壊れない社会ではない。壊れたときに回復でき、変化に応じて形を変え、次世代に受け渡せる社会である。その基盤は、コンクリートだけではつくれない。土、水、緑、生きものの循環を維持することが、これからのインフラの条件になる。
これからのまちは、強く、硬く、大きいだけでは足りない。しみ込み、育ち、つながり、回復する力が必要だ。グリーンインフラは、都市に自然を足す取り組みではない。都市がもともと自然の循環の中にあることを思い出し、その力をもう一度使い直すための社会インフラである。
地球をメンテナンスする時代とは、壮大な理念を掲げることではない。水をしみ込ませる場所を増やす。土を固めすぎない。生きものの通り道を残す。緑を資産として守る。そうした小さな設計と管理を、制度、金融、防災、都市計画に組み込むことだ。都市を直すことは、地球を直すことでもある。

FAQ

Q. グリーンインフラとは何か。
A. 自然の機能を都市や地域のインフラとして活用する考え方である。緑地、雨水浸透、土壌、生物の移動経路などを、防災、暑熱対策、生物多様性、健康、地域再生に役立てる。

Q. TSUNAG認定とは何か。
A. 国土交通省が進める優良緑地確保計画認定制度の通称である。都市における良質な緑地を評価し、気候変動対応、生物多様性、ウェルビーイングなどの価値を可視化する。

Q. 流域治水とグリーンインフラはどう関係するのか。
A. 流域治水は、流域全体で雨水を受け止め、水害リスクを減らす考え方である。雨庭、透水性舗装、緑地、農地、森林などを活用する点で、グリーンインフラと深く重なる。

Q. 有機土木はグリーンインフラとどう違うのか。
A. 有機土木は、土、水、空気、植物、微生物の関係を重視し、土地の健全性を回復させる土木的な考え方である。グリーンインフラを支える足元の土中環境に焦点を当てる点が特徴だ。

Q. なぜロードキル対策がネイチャーポジティブにつながるのか。
A. 道路は生きものの移動を分断する場合がある。ロードキル発生状況をデータで把握し、横断構造物や侵入防止柵を整備することで、生態系ネットワークの回復に貢献できる。

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