
★要点
Prodrone、KDDIスマートドローン、いであの3社が、空を飛び水中に潜る「水空合体ドローン」と音響測位技術を使い、防波堤水中部の遠隔・自動点検実証に成功した。陸上から自動飛行し、海上で潜水、水中を自動航行しながら防波堤を撮影、再び回収・帰還する一連の流れを完遂。潜水士に頼ってきた港湾点検を、安全・低コスト・省人化へ進める技術として期待される。
★背景
高度経済成長期に整備された港湾施設の老朽化が進む一方、水中点検を担う潜水士は高齢化と人手不足に直面している。2040年には建設後50年を超える港湾施設が全体の約7割に達する見込みとされ、危険作業を人の経験だけに頼る維持管理は限界に近づく。港湾、橋脚、ダム、洋上風力、漁業施設まで、“水中の見えないインフラ”をどう診るかが問われている。
港の安全は、海の下で守られている。
防波堤、岸壁、橋脚、係留施設。都市と物流を支える重要な構造物の多くは、水面の下に隠れている。だが、そこを点検する仕事は危険で、重く、人手も足りない。
その現場に、空から飛んで水に潜るドローンが入り始めた。
Prodrone、KDDIスマートドローン、いであの3社は、愛知県南知多町の師崎港沖で、「水空合体ドローン」を使った防波堤水中部の自動点検実証に成功した。空を飛び、着水し、水中ドローンを切り離し、音響測位で位置を把握しながら水中を自動航行する。
人が潜るしかなかった場所へ、機械が入る。
港湾インフラのメンテナンスは、静かに次の段階へ進んでいる。
空から行き、水に潜る——点検の入口が変わる
今回の実証は、2026年3月24日、愛知県南知多町の師崎港で行われた。手順は明快だ。空中ドローンが目的海域まで自動飛行し、着水する。そこから水中ドローンを切り離し、潜航。事前に設定したウェイポイントに沿って防波堤の水中部を自動航行し、撮影する。最後は水中ドローンを回収し、陸上へ自動飛行で戻る。
一連のオペレーションを陸上から遠隔操作で行える点が大きい。
従来、水中点検には潜水士が必要だった。船を出し、現地へ移動し、潮流や視界、水深、残圧を管理しながら作業する。浅海域とはいえ、安全リスクは小さくない。作業できる時間も天候や海況に左右される。
水空合体ドローンは、その前提を変える。
点検対象まで空から移動し、水上で潜る。船の出動や人の潜水を減らせれば、点検の安全性と機動力は大きく変わる。
インフラ点検の現場では、移動と準備に多くの時間がかかる。
点検そのものより、そこへたどり着くまでが重い。
空から水へ入るドローンは、この“現場へのアクセス”を短縮する技術でもある。

水中GPSは使えない——音で位置を測るという発想
水中点検の難しさは、カメラで撮ることだけではない。
「どこを撮っているのか」を正確に把握することだ。
空中ならGPSが使える。だが水中では電波が届きにくく、GPSに頼れない。海底資源探査などでは、INS(慣性航法装置)やDVL(ドップラー対地速度計)といった高価な機器を使うことが多い。今回の実証では、KDDIが海底通信ケーブルの保守点検で培ってきた音響測位技術を活用し、こうした高額デバイスを使わずに安定した水中自動航行を実現したとされる。
仕組みは、水中ドローンに装着した音響発生装置の信号を、水上側の空中ドローンに設置した音響受信装置で受けるというものだ。空中ドローンの脚部4カ所に受信装置を分散配置し、独自の信号処理によって距離や方向を測る。音響反射の多い防波堤周辺でも、正確で安定した測位を狙う設計である。
水中点検では、映像だけでは足りない。
位置が分からなければ、次の補修につながらない。
ひび、欠損、洗掘、付着物、変形。どこに異常があるかを記録し、次回と比較し、劣化の進行を追う必要がある。
音響測位は、水中点検を“見た”から“記録した”へ進める鍵になる。

港湾インフラの老朽化は、物流の老朽化でもある
港湾施設の老朽化は、海辺だけの問題ではない。
港は、物流、エネルギー、漁業、防災、地域経済を支える基盤だ。岸壁や防波堤が弱れば、船の運航、荷役、漁業活動、災害時の物資輸送にも影響する。
プレスリリースでは、国内の港湾施設は高度経済成長期に整備されたものが多く、2040年には建設後50年を超える施設が全体の約7割に達する見込みと説明されている。
この数字は重い。
道路、橋、下水道、鉄道だけではない。海のインフラも一斉に老いている。
しかも港湾は、気候変動の影響を受けやすい。台風の大型化、高潮、豪雨、海面上昇、波浪の強まり。防波堤や岸壁は、かつて想定した外力を超える環境にさらされる可能性がある。
老朽化と気候リスクが重なる時代に、点検頻度と質をどう上げるか。
答えの一つが、遠隔化と自動化だ。
港湾メンテナンスは、これからの気候適応でもある。
潜水士不足の時代——危険作業をどう減らすか
水中点検を支えてきたのは、潜水士の技術だった。
だが、潜水士もまた高齢化と担い手不足に直面している。視界の悪さ、潮流、残圧管理、船舶との接触リスク。浅海域の作業でも危険は多い。
ここで重要なのは、ドローンが人を不要にするという話ではない。
人が本当に判断すべき仕事へ移るための技術だ。
潜水士や技術者がすべての現場に潜るのではなく、まずドローンが撮影し、異常箇所を把握する。必要な場所に絞って人が確認する。補修の優先順位を決める。危険度の高い作業を減らし、判断の精度を上げる。
省人化は、人を減らすためだけの言葉ではない。
危険作業から人を遠ざけ、経験を判断に集中させることでもある。
老朽インフラの数は増え、担い手は減る。
このギャップを埋めるには、人の技能と機械の得意分野を組み合わせるしかない。
港湾から洋上風力、漁業、災害対応へ——“水中を見る力”の広がり
水空合体ドローンの用途は、港湾点検にとどまらない。
プレスリリースでは、港湾設備、洋上風力、ダム、橋脚などの水中インフラ点検、災害発生時の港湾係留施設の損傷状況把握、沈没船の撮影、定置網や養殖場の水中定期監視などへの活用が期待されている。
この広がりは自然だ。
水中には、人の目が届きにくい資産が多い。
洋上風力が増えれば、海中基礎やケーブルの点検が必要になる。
橋脚やダムも、水面下の劣化を見なければならない。
漁業では、定置網や養殖場の状態を定期的に確認する必要がある。
災害時には、人が入る前に水中の被害状況を把握したい。
空と水をまたぐ機体は、現場移動の自由度が高い。
船を出さず、陸から確認できる場面が増えれば、点検や初動対応の速度は変わる。
水中を見る力は、港を守るだけではない。
海を使う産業全体の基盤技術になりうる。
“見えないメンテナンス”を、データに変える
Maintainableでも、AIとドローンを使った高架橋・下水道点検を取り上げてきた。高架橋のひび、下水道管の劣化、鉄道設備の異常。都市を支える重要な場所ほど、普段は見えない。そこにセンサー、画像解析、ドローン、LiDARが入り始めている。
https://maintainable.jp/maintainable/ai-drone-infrastructure-inspection-dx/07/05/2026/
今回の水空合体ドローンも、同じ流れの中にある。
点検は、目視からデータへ移っている。
防波堤を撮る。
位置を測る。
ルートを記録する。
次回点検と比較する。
異常の進行を追う。
これができれば、港湾インフラの維持管理は変わる。熟練者の経験に加えて、画像と位置情報が蓄積される。異常があった場所を再確認できる。補修計画を立てやすくなる。災害後の変化も把握しやすい。
重要なのは、点検データを単発で終わらせないことだ。
一度撮って終わりではない。
同じ場所を、同じ基準で、時間をおいて測る。
都市や港の“健康診断”に変えていく。
次の一手——標準化、自治体連携、保全計画への接続
水空合体ドローンの実証は、大きな一歩だ。
ただし、社会実装には次の課題がある。
第一に、点検手法の標準化。
どの解像度で撮るのか。どの範囲をどう航行するのか。撮影漏れをどう確認するのか。異常をどう分類するのか。自治体や港湾管理者が使いやすい共通手順が必要になる。
第二に、既存の保全計画との接続。
ドローンで撮影しても、その結果が修繕計画や予算配分に反映されなければ意味は薄い。点検結果を図面、台帳、劣化診断、補修優先順位へつなげる仕組みがいる。
第三に、災害時運用の整備。
平時に使えない技術は、有事にも使いにくい。平時の点検で操作、航行、解析、報告の型をつくり、災害時には迅速に投入できる体制を整える必要がある。
技術は、現場に組み込まれて初めてインフラになる。
港湾DXの勝負は、ドローンを飛ばすことではなく、点検から補修までの流れを変えられるかにある。
港を守ることは、暮らしを守ることだ
港湾は、日常生活から遠く見える。
だが、食品、燃料、資材、工業製品、防災物資。多くのものが港を通って届く。
防波堤が波を受け止める。
岸壁が船を支える。
係留施設が物流をつなぐ。
その水面下を、誰かが点検している。
これまで見えなかった仕事に、ドローンと音響測位が入り始めた。老朽化、人手不足、気候変動。課題は重い。だが、見えない場所を測れるようになれば、守り方は変えられる。
空を飛び、水に潜る。
港湾インフラのメンテナンスは、そんな新しい道具を手に入れた。
海の下の安全を、陸から診る時代へ。
港を止めないための技術が、静かに動き出している。
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