都市化と共に広がるアスファルトとコンクリートの道路。しかし、アスファルトの加熱や排出されるCO2は、ヒートアイランド現象や温暖化を引き起こす要因とされている。こうした問題に対し、2024年6月、一般社団法人有機土木協会(代表理事 高田宏臣)が設立され、土地を傷めず、自然の自律的な働きと調和する「有機土木®」技術の普及を目指す活動が始まっている。
アスファルトに依存しないインフラ「有機土木®」の可能性
かつてある劇作家が、東京は実は最高の土壌に恵まれた豊かな都市であると、皮肉めいたことを言ったことがある。アスファルトやコンクリートで覆われた石の地面を剝いでみたら、きっと素晴らしい黒土が現れるだろうと。
現代の都市部や地方の道路は、アスファルトやコンクリートによって覆われている。この舗装材は、日射を吸収して高温になり、大気を加熱する。また、舗装内に熱が蓄えられるため、夜間も気温が下がりにくく、熱帯夜を引き起こす原因となっている。さらに、アスファルトの製造過程では大量の燃料を使用し、CO2を排出するため、地球温暖化の一因ともされている。
こうした問題を緩和するため、アスファルト舗装の製造時に発生する二酸化炭素(CO2)を削減する低炭素型舗装技術の研究や、特殊な添加剤(中温化剤)をアスファルトに混ぜることで通常より低い温度でアスファルトを柔らかくする、中温化アスファルト舗装技術(これにより製造や施工の際に排出される二酸化炭素の量を削減することができる)。あるいは舗装体内に保水された水分が蒸発する際の気化熱によって、路面温度の上昇と蓄熱を抑えることができる保水性舗装技術など、さまざまな改良技術の研究が進められている。
しかし、そもそもアスファルト舗装に頼らないインフラの可能性は無いのだろうか。その答えの一つとして、有機土木協会が提唱する「有機土木®」が注目されている。この技術は自然の力を活用し、土地環境を損なうことなく、安定したインフラを築く手法だ。
有機土木協会の「有機土木®」は、土地を根本から見つめ直し、自然環境と調和する工法として位置づけられている。従来の土木技術は、構造物内から有機物を排除し、変化を止めることで安定を保とうとしてきた。しかし、有機土木®は逆に、変化を受け入れ、自然の自律的な働きと共に進化するインフラの構築を目指している。古くから土地と共に生きてきた人々の知恵を継承し、防災や災害復旧にも応用可能な手法として注目されている。
有機土木®の具体例は、耕作放棄地や山中に見られる昔の土木造作に残されている。土や石、木などの有機物を用いたこれらの構造物は、適切な観察とメンテナンスによって長期間持続し、さらに土地環境を豊かに育むという。これこそが「風土を育む土木」の実現であり、現代インフラの在り方に一石を投じるものとは言えないだろうか。
一般社団法人有機土木協会は、伝統的な民間土木の知恵を基に現代土木が抱える問題の解決を目指し、「有機土木®」を社会に普及させる取り組みを進めている。有機土木®は、土地環境の持続可能性と人間社会の共存を実現する可能性を持っており、これからのインフラ設計に新しい視点を提供する。