大阪大学先導的学際研究機構の大久保敬教授らの研究グループは、大和ハウス工業株式会社との共同研究により、バイオガスに含まれるメタンガスからバイオメタノールを高い変換率で合成する技術を開発した。従来の方法と比べて変換率を6倍に向上させ、89%という高い成果を達成。燃料の脱炭素化を進めるこの技術は、再生可能エネルギーの有効利用と温室効果ガスの削減に大きく貢献する可能性がある。

メタンガスを直接変換する「ドリームリアクション」の実現
メタンガスから酸素を用いてメタノールを一段階で生成する反応は、1990年代にアメリカ化学会が「21世紀に開発を望まれる10の化学反応」の1つに挙げたほどの難関とされてきた。メタンの安定したC-H結合を常温・常圧で活性化することが極めて困難だったため、実用化に至る技術は長らく開発されていなかった。
しかし、大久保教授らの研究グループは2017年に常温・常圧で空気とメタンガスからメタノールを生成することに成功。その後、2022年からは大和ハウス工業と協力し、燃料の脱炭素化を目指して研究を進めてきた。
今回の技術では、特殊なパーフルオロアルケニルエーテル溶媒を用いることで、従来の変換率14%を89%にまで引き上げた。これは、メタンを原料としたメタノール製造における飛躍的な進歩を意味し、商業化の可能性を大きく高める成果となった。
バイオメタノールの安定供給がもたらす環境負荷の低減
メタノールは世界的に重要な化学品であり、2024年時点で年間9,900万トンの市場規模を誇る。さらに、2029年には1億2,000万トンに達すると予測されている。しかし日本国内ではほぼ全量を輸入に依存しており、安定供給の観点からも国産化が求められていた。
従来のメタノール合成法では、天然ガスを原料とし、高温・高圧下での反応が必要だった。一方、今回の技術はバイオガスを活用し、常温・常圧での合成を可能にしたことで、大幅な省エネルギー化を実現。これにより、製造時のCO2排出を抑えるだけでなく、国内でのメタノール生産の可能性を切り開いた。
カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの普及が進む中、その不安定な発電量を補完するエネルギー貯蔵技術が求められている。バイオメタノールは、燃料としての利用だけでなく、電力供給の安定化にも寄与する可能性がある。この技術が実用化されれば、メタンガスの有効活用が進み、CO2排出削減と持続可能なエネルギー利用の両面で社会に貢献するだろう。
今後は、大和ハウス工業の施設でバイオメタノールの実証利用を進めるとともに、製造プロセスのさらなる最適化を図る。製造装置の開発や他のカーボンニュートラル技術への応用も視野に入れ、共同研究を継続する計画だ。