農水省が発表した「2024年農業技術10大ニュース」は、現在の農業分野の研究成果とこれからの社会的影響の大きさを示す重要な指標だ。中でも有機栽培を効率化する自動抑草ロボットや、国内初の農業特化型生成AIの開発など、次世代の農業を形作る技術が注目を集めている。

自動抑草ロボットが実現する有機栽培の新時代

有機栽培は持続可能な農業の要として注目されているが、これまで雑草管理の手間が課題とされてきた。その課題を解決する技術が、株式会社NEWGREENが開発した自動抑草ロボット「アイガモロボ」だ。このロボットは、田んぼの泥を巻き上げて水を濁らせ、光合成を抑制することで雑草の成長を防ぐ仕組みを持つ。
農研機構、井関農機株式会社、東京農工大学との共同実証試験によれば、従来の方法と比較して除草回数を約6割削減し、収量を約1割増加させる効果が確認された。この成果は有機栽培の普及に向けた重要な一歩であり、人手不足が深刻化する農業分野においても有効なソリューションになることが期待されている。

航行中の「アイガモロボ」
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/241220-2.pdf

生成AIが切り開く農業の新たな地平

生成AI技術が農業分野にも応用され始めている。農研機構、北海道大学、キーウェアソリューションズ株式会社などの共同研究によって、農業特化型の生成AIが開発された。このAIは、農業に特化した高度な知識を学習し、インターネット上の情報だけでなく、全国の農業機関や生産現場の専門情報を基に高精度な回答を提供するものだ。
2024年10月から三重県で開始された実証実験では、地域特有の農業課題に迅速かつ的確に対応できることが期待され、この技術は新規就農者の育成や高度な技術指導の普及を促進し、日本全国での農業革新を加速させると考えられる。

農業特化型生成AIの開発概要
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/241220-4.pdf

天敵昆虫と気象予測で農業リスクを軽減

農研機構は害虫防除に寄与するタイリクヒメハナカメムシの育成に成功した。この昆虫は餌の害虫が見つからなくても粘り強く探し続ける特性を持ち、作物への定着性が向上する。これにより、農薬使用を削減しつつ害虫被害を防ぐ新たな防除手法が確立されつつある。
さらに、株式会社ウェザーニューズは高精度の気象予測システムを開発し、霜やひょうなどの気象リスクをピンポイントで予測できるサービスを開始した。このシステムは1kmメッシュの解像度で予報を提供し、気象IoTセンサーとの連携により、農業被害の事前回避を可能にする。

害虫を食べる天敵昆虫「タイリクヒメハナカメムシ」
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/241220-5.pdf

「ウェザーニュース for business」
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/241220-9.pdf

家畜遠隔診療の実現で広がる可能性

SBテクノロジー株式会社が提供する新サービス「アニマルック」は、家畜の遠隔診療を可能にするプラットフォームだ。ビデオ通話を活用した診療や診察履歴の一元管理など、産業動物獣医師の不足や病原体の持ち込み防止といった課題への対応が期待されている。

「アニマルック」
出典:農林水産技術会議(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/241220-10.pdf

「2024年農業技術10大ニュース」の選定について:農林水産技術会議
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/241220.html