京都産業大学や京都工芸繊維大学などの研究チームは、生命エネルギー生成の鍵を握る「ATP合成酵素」の回転機構を解明した。クライオ電子顕微鏡と分子動力学シミュレーションを駆使し、水素イオン流による回転の仕組みを詳細に解析した。本研究成果は、2024年11月20日付けで『Nature Communications』に掲載された。
ATP生成の回転機構を捉える――創薬への期待も
ATP(アデノシン三リン酸)は、生命体のエネルギーを司る分子であり、その生成を担うATP合成酵素は、ミトコンドリア膜を横断する水素イオンの流れを回転エネルギーに変換する。この回転がATP生成を駆動するが、その分子レベルでの詳細な仕組みは長年の謎とされてきた。
今回、研究チームは、好熱菌Thermus thermophilus由来のATP合成酵素を用いて、クライオ電子顕微鏡により膜内在性部分の原子レベル構造を解析。さらに分子動力学シミュレーションを組み合わせ、回転リングに存在する特定のアミノ酸残基が水素イオン結合状態によって構造変化を起こし、それが一方向の回転運動を促すことを明らかにした。
研究者によれば、この知見はATP合成酵素の基本的な機能解明にとどまらず、糖尿病やミトコンドリア異常に基づく疾患治療への応用が期待される。また、本研究で得られた手法は他の膜タンパク質解析にも適用可能で、幅広い分野での応用が見込まれる。
今後、研究チームは、ヒト細胞のミトコンドリアに存在するATP合成酵素へ研究対象を拡大し、生命科学および創薬研究にさらなる進展をもたらす構えだ。