
★要点
北海道大学の寄附分野「循環イノベーション分野(iReC.HU)」を兼担する石井一英教授(大学院工学研究院循環共生システム分野)は、脱炭素・サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブを、それぞれ別々に語ることの限界を指摘した。3つは手段であり、目的は地域の課題解決と将来のまちづくりである。
持続可能な社会の条件として挙げられたのは、再生資源の利用速度が地下資源の利用速度を上回ること、自然資本の再生速度を超えないこと、回収と隔離と貯蔵の機能が働いていること。速度と機能の話である。
パネルディスカッションでは、地域と国とグローバルをつなぐ指標が争点になった。廃棄物行政は「出てくる量」を測りたがるが、必要なのは「資源投入量がどれだけ減ったか」。石井教授は、これがマクロと地域を結ぶパスになりうると述べた。
そして閉会の挨拶で、石井教授は域内循環を「一丁目一番地」と呼んだ。地域はモザイクであり、その集まりが国をなす。だが同時に、安全保障は域内循環だけで解けるものでもない、他地域・他国との協調が重要とも論じた。
★背景
「安全保障」という言葉が、環境や資源の分野で急速に使われるようになっている。エネルギー、食料、鉱物資源。地政学的な緊張が高まるなか、外部への依存は明確なリスクとして意識されるようになった。
日本は資源のおよそ半分を輸入に頼る。物質の需要そのものが下がれば、海外依存度は下がる。資源循環は、環境対策であると同時に、経済と暮らしの基盤を守る営みでもある。
だが、地域の取り組みが国全体の安全保障にどれだけ効いているのかは、ほとんど分かっていない。地域は実効性が高く、国より速く動く。しかし全体像との接続が曖昧なままだと、「できることの積み重ね」で終わってしまう。
測れないものは、動かせない。指標の問題は、技術の問題より根が深い。
「域内循環の強化と安全保障」。
このタイトルについて、閉会の挨拶に立った石井一英教授は、率直な反省を口にした。
「安全保障という言葉が最近、非常に世の中に出回っていますので、少し過度な期待をさせすぎてしまったかなという、運営者側の反省もあります」
会場が少し和む。だが、そのあとに続いた言葉が、この日の議論の核心だった。
「ただ一つだけ言い訳をさせていただくと、地域は僕、モザイクに見えているんですよね。地域のモザイクの集まりが国をなし、その国のモザイクが集まった中で世界がある。そう見ると、やっぱり一丁目一番地は域内の循環をちゃんと強化していかないと、広い意味での安全保障にはいかないんじゃないか」
2026年8月25日、東京・御茶ノ水。北海道大学の寄附分野が主催した第2回シンポジウムは、地球規模のマクロな計算から、岡山県真庭市の生ごみ、大阪湾の処分場跡地の森まで、スケールを大きく往復しながら進んだ。
その振れ幅こそが、この日のテーマだった。
20年以上つづく、寄附分野という装置

北海道大学の寄附分野は、20年以上にわたって廃棄物とバイオマスの研究を続けてきた。
2003年の「バイオリサイクル工学講座」に始まり、2006年「不法投棄対策工学講座」、2009年「バイオウェイストマネジメント工学講座」、2012年「エコセーフエナジー分野」、2015年「循環・エネルギー技術システム分野」。2018年からは「バイオマスコミュニティプランニング分野」が第1期・第2期と続き、6年半にわたって地域のまちづくりを射程に入れた研究が行われた。
そして2025年4月、「循環イノベーション分野(iReC.HU=Innovation for Resource Circulation in Hokkaido University)」が立ち上がる。2028年3月までの3年間、テーマは「自然資本を考慮した新しい価値」である。
シンポジウム当日は、ちょうど折り返しにあたる。
体制は、石井一英教授を中心に、客員教授の古市徹氏、特任助教の田中悠平氏、招へい教員の落合知氏、助教の HAM Geun-Yong 氏。寄附企業は22社に、札幌市の企業版ふるさと納税枠2社を加えた24社。オブザーバーとして北海道庁、当別町、興部町、大樹町、札幌市、鹿追町など12団体が参加している。
「必ず本が出ています」と石井教授。バイオマスコミュニティプランニングの第1期も書籍化され、第2期もそろそろ出るという。
フローで生きていた社会が、ストックをやりくりする社会へ
石井教授が毎回示すという一枚の図がある。
産業革命以前、人は自然的な循環の中で生きていた。夏に薪を取って冬の暖をとり、収穫したものを漬物にして保存する。1年間のフローの中で、自然の生態系や農地や河川と調和しながら暮らしていた。
やがて地下資源に手をつける。エネルギーが使えるようになり、人が移動できるようになり、人口が増え、都市化が進む。人為的な循環の世界に入っていく。最初に起きた問題が、行き過ぎた都市化と産業発展による公害だった。
公害が収まった後も、地下資源は掘り続けられた。生産、消費、廃棄、再生利用。青い矢印でぐるぐる回る人為的な循環の中で、モノは最終処分場へ行くか、耐久消費財として使われ続けるか、循環の途中にあるか。その3つの形態しかない。
ここで石井教授は、基調講演を受けてこう述べた。
「南齋先生のお話を聞くと、2050年は自然からの投入物が少なくなる。掘り上げるものがどんどん少なくなる。そうすると我々は、耐久消費財だとか自然的な循環から得られるものを、うまく使い倒すしかない。うまくマネージするしかない」
エネルギーも同じである。化石燃料は、なくなる前に二酸化炭素の制約で使用スピードを落とさざるを得ない。再生可能エネルギーは自然的な循環からハーベストするしかないが、変動して偏在する。だから貯蔵型のエネルギーに変換する技術を持たなければ、使いこなせない。
フローで生きていた社会が、ストックをやりくりする社会へ。
石井教授の見立ては明快だった。

スローダウンと、スピードアップの調和
もう一枚、印象的な図があった。
廃棄物・資源循環の分野がやっていることは、右側の「スローダウン」だと石井教授は言う。モノの流れを少しずつ遅くし、長く使い、繰り返し使い、品を変えてリサイクルする。モノの滞留を長くしながら、天然資源の投入量を減らしていく。あるいは高付加価値化していく。
一方、自然の側では逆のことをしようとしているし、してきた。稲作の品種改良、陸上養殖、早生樹の植林。60年伐期のものを30年伐期に変えて回していく。つまり「スピードアップ」しているのだ。
「左と右のスピードがぴったり合わないといけないんですけども、なかなかそうはならない」
循環の速度を、どう調和させるか。それが図の言いたいことだという。

そして、脱炭素もサーキュラーエコノミーもネイチャーポジティブも、それ自体が目的化してしまうと地域ではうまく回らない、と石井教授は続けた。
「地域が抱えている課題から出発して、山を登り始める。将来は地域のまちづくりですよ、皆さんの幸せな暮らしですよ、と示しながら登っていく」
その山を登る過程で、脱炭素の施策、サーキュラーエコノミーの施策、ネイチャーポジティブの施策を掛け合わせる。目的ではなく、手段として。そのとき、地域にある資源をちゃんと使い、よそ者や第三者や若者も巻き込む。
第2回・第3回で見た真庭市と大阪府の事例は、まさにこの構図の中にある。真庭市はごみ処理コストという地域課題から出発した。大阪府は処分場跡地の利用という課題から出発した。ネイチャーポジティブという言葉は、ずっと後から追いついてきた。

処理から、リカバリーへ
石井教授がいま強調しているのは、元素レベルの循環である。
プラネタリーバウンダリーの図を示しながら、地球上では窒素とリンの循環がバランス的に厳しいことに触れた。
これまで、廃棄物処理の世界では「処理(トリートメント)」が良いこととされてきた。焼却して炭素を二酸化炭素にする。排水処理で脱窒して窒素を大気に戻す。とにかく処理しきる。
「そうじゃなくて、いかにそれを処理せずにリカバリーしていくか」
リニューアブルなカーボン、リニューアブルな窒素、リニューアブルなリン。元素レベルでのリサイクルを考えなければならない、というのが石井教授の主張だ。結果として、天然資源のマイニング量を減らすことにつながる。

その上で示されたのが、持続可能な社会の条件である。
・再生資源の利用速度が、地下資源(化石燃料・金属資源)の利用速度よりも大きいこと
・再生資源の利用速度が、自然資本の再生速度を超えていないこと
・消費されたモノや廃熱の回収システムが機能していること
・自然資本の維持と循環資源の品質維持のために、有害物質等を分離し隔離する機能があること
・変動偏在する再エネの貯蔵・輸送システムが機能していること
・市場価格などによりすぐには利用できない再生資源の保管機能があること
このうち石井教授が特に注目するのが、回収である。
「作った人が自分たちのところでちゃんと回収できるシステムを持っている商売。そういうものが、これからのサーキュラーエコノミー時代ではいいかなと思っています」
シェアリングは、その一つの形だ。
そして、見逃されているのが廃熱の回収だという。モノとエネルギーはどこかで連動している。蓄熱の研究も、これから取り組まなければならない領域として挙げられた。
有害物質の隔離についても、独特の視点が示された。循環を回し続けると、変なものが入り込んで濃縮し、質が悪くなっていく。だから何かを抜かなければならない。「これが最終処分の一つの役割なのかな」——最終処分場を、循環の品質を保つための機能として位置づける発想である。

FIT後のバイオガスプラントは、どう生き残るか
iReC.HU は現在、3つの研究グループで動いている。
一つ目がバイオガスプラントグループ(十勝・興部)。北海道の糞尿や生ごみのメタン発酵を長く研究してきた系譜の上にある。
課題は明確だ。FIT(固定価格買取制度)で売電できるうちは、バイオガスプラントの維持管理費や修繕費をまかなえた。だが卒FIT後、市場価格で売電しても賄えない。北海道には畜産系100基、食品等系40基のバイオガスプラントがある(2022年度)。十勝管内だけで46基。個別型・集約型ともに300キロワットクラスが最も多い。
そこで、売電以外の収益源をどう確保するかが研究テーマになる。バイオガスの利用先は、都市ガス導管に注入する低圧のバイオメタン、CNG車用の高圧濃縮バイオメタン、体積を約600分の1に圧縮する液化バイオメタン(LBM)、LPG、水素、メタノール、ギ酸、アンモニアと幅広い。技術成熟度も輸送のしやすさもそれぞれ違う。
もう一つの課題が、第2回で見た消化液である。
散布のコストは1トンあたり1,000〜2,000円。一方、水処理すると5,000〜10,000円はかかる。だから撒きたい。しかし近くの草地にしか撒けず、結果として近所に大量散布してしまうケースも実際にはある。
「撒けると言っても、実は近くのところにしか撒いていなかったり、大量に撒いたり。余剰の消化液が発生している」
石井教授らは、バイオ液肥の規格化に取り組んでいる。現在は生ごみ由来でも牛糞由来でも、固液分離しても濃縮しても、すべて「消化液肥」と一括りに呼ばれている。原料、濃度、成分バランス、運用システムを併記した分類が必要だという。データ解析からは、固液分離・濃縮などの前処理、成分濃度(濃縮度)、施用・運用という3つの軸が見えてきている。
農家が使いやすく、自治体やプラントが説明しやすい液肥へ。技術開発としては、固液分離や藻類培養による栄養塩回収も進めている。
第2回で紹介した真庭市の濃縮技術は、この文脈でも注目される事例である。石井教授も「もっと安い方法がないか、今やっているところ」と述べた。
見える化から、自分事へ
二つ目が、モノとエネルギー循環の見える化グループである。対象は札幌市、当別町、興部町、三笠市。
石井教授がここで語ったのは、多くの自治体関係者が経験したことのある壁の話だった。
補助事業を使い、担当者の頑張りで、まちの中に1つ2つのプロジェクトが立ち上がる。それ自体は良い。しかし、それが浸透・普及していかなければ、2050年に「良かった」とはならない。
「担当者だけじゃなくて、庁内・議員さんも含めた共通認識の醸成、担当者が変わった後も次から次へと頑張ってもらう人材育成の仕組みづくりが必要」
なんとなく成功した、なんとなく計算したら温室効果ガスが減った、では足りない。社会全体で「減ってきたね」と認識できる実感が伴わないと、壁は越えられない。
その壁を越える方法として石井教授が考えたのが、過去の共有だった。
「我々って、理解・共有があまりなく、将来の想像だけをしていたんじゃないか」
未来を考えるためには、そのまちの歴史や昔のことをちゃんと振り返ったほうがいい。北海道の言葉で言えば「入植」や「開拓」。どの地域にも始まりがある。風土、文化、歴史、地域特性を学ぶ。
そして、まちの発展には必ずターニングポイントがある。どんな時にまちが困り、誰がどう活躍し、どういう新しい考え方があって今のまちがあるのか。それを共有することで、「今も厳しいかもしれないけれど、みんなで頑張って前を向こう」という機運が生まれる。
過去を共有し、現在を見える化し、将来を一緒に想像する。その3段階を経なければ、二酸化炭素の削減もごみ減量も自分事にはならない、という見立てだ。

研究チームは、地域内の物質・エネルギーフローの定性的な可視化、施設規模と配置の最適化ツール、バイオマス資源利活用サプライチェーンの多目的最適化ツール、地域経済評価モデル(産業連関表、SROI、地域経済付加価値モデル)といった手法を組み合わせて分析を進めている。興部町の産業連関図には、酪農、乳製品製造、養蜂、水産加工、林業、道の駅までが線でつながれ、町内と町外の境界線が引かれていた。
どこで価値が生まれ、どこから資金が流出しているのか。地域を一つの代謝系として見る作業である。
処分場を、自然資本のインフラとして評価する
三つ目が、ネイチャーポジティブグループである。
テーマは、廃棄物(有害物を含む)の回収・変換・分離システムの価値を、ネイチャーポジティブの観点から再評価すること。目標は、道内初の「処分場共生サイト」登録と、道内の産廃処理施設・最終処分場の再評価である。
手法として使うのが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の LEAP アプローチだ。Locate(立地と周辺の自然資本、保護区、水リスク、重要種との接点)、Evaluate(依存と影響の整理)、Assess(リスクと機会、シナリオ比較、優先項目の抽出)、Prepare(KPIと情報開示)。処分場のライフサイクル——計画・建設・運用と、閉鎖・跡地利用——を分けて価値評価する。
核心は「損失回避額」の考え方である。
処分場がない場合、廃棄物は分散して放置・代替保管される。その土地占有を推定し、仮想占有面積と実際の埋立面積との差を、生態系サービスの原単位で価値化する。
処分場を「存在しない場合の損失を回避しているインフラ」として位置づける。第3回で紹介した大阪府の共生の森は、まさにその実例として研究チームに強い印象を与えた。
成果が出れば、自治体や企業にとって、企業価値向上や投資家対応の根拠になる。新規処分場の建設時の市民説明・合意形成の科学的資料としても使える。自治体が環境価値を定量的に示すツールにもなる。

迷惑施設の説明ロジックを、根本から書き換えようという試みである。
循環率ではなく、資源投入量を測る
パネルディスカッションの後半、コーディネーターの田中悠平氏(北海道大学 特任助教)が、石井教授と南齋氏に問いを投げた。地域の実践は、日本全体、そして安全保障に、どうつながるのか。
石井教授の答えは、指標の話だった。
地域でできることは限られている。一人当たりの廃棄物量を減らす。廃棄物発生量から資源ごみを引いた量で評価する。焼却量を減らす。リサイクル率を上げる。一方、国レベルでは循環利用率やインプット・アウトプットの話になる。両者は、うまく噛み合っていない。
「今日、南齋先生のお話を聞いてはっと思ったのは、資源の投入量を本当に毎年3〜4%ずつ減らさなきゃいけない時に、地域でそういうことになっているかどうか。そこが、南齋先生の解析と地域をつなぐパスなのかなと思ったんですよね」
廃棄物行政は、出てくるものの量を測りたがる。だがグローバルな視点からすれば、みんなでやった結果、資源投入量がどれだけ減ったのかに落とし込まなければ、国とグローバルと地域はつながらない。
もう一つ、石井教授が挙げたのがストックだった。
南齋氏が示した2050年の物質フロー図は、あまりに小さかった。だがあれはフローであり、毎年の蓄積量である。その陰には膨大なストックがある。いま使っている机は今年つくられたものではない。10年前につくられたものを、今も使っている。
「そのストックをどれだけ長く使うかが、天然資源の投入を少なくすることに大きく関係してくる。だとすると、モノの耐用年数を地域で測るとか、ストックがちゃんと廃棄物にならずに使い続けられていますよ、とか。あるいはリペアですよね。ちょっとだけ資源を投入して、ちょっとだけ直して、もっと長く使うとか」
測るべきは、捨てた量ではなく、使い続けている量かもしれない。
「ここまでしかやらないのか」を、市民が納得できるか
南齋氏の答えは、より鋭かった。
地域でやることは実効性が高いので、国でやるより速く進む。しかしその時に、本来ここまでいかなければならないという水準を持った上で、それでも実行できるのはここだ、と提示しなければならない。それがないと「できることの積み重ね」で終わってしまう。
「それが十分な場合もあるかもしれないけれど、多くの場合はやはり、マクロとミクロがつながったところには行かない」
そして、南齋氏はこう続けた。
「我々住民としてみれば、納得いくのかということですよ。そんなにやらないといけないことが分かっているのに、ここまでしかやらないのか、ということを逆に市民も納得していただいて。納得できないのであれば、その分次のアクションを取れる」
いま市民が「できることでいいのかな」と思ってしまうのは、材料が揃っていないからだ。だからギャップを、時間軸とともに出していく。それが、つなげるためにまずやらなければならないことではないか——南齋氏はそう述べた。
一方で、資源循環と安全保障を安易に結びつけることへの慎重さも示された。
希少金属を国内で回し始めることは、安全保障の観点では確かに効く。だがこれは、資源をこれまでストックしてきた国にしかできない方法でもある。持てる国が自分たちの国の中で回せば、グローバルな資源分配の不均衡は残り続ける。
そして最後に、南齋氏は希望の方角を示した。
資源量が半分の世界でウェルビーイングの高い社会とは、どんなものか。それを想像していかなければならない。東京に比べて半分の資源しか使っていないのに、健康で楽しく過ごしている地域が、日本にはきっとある。
「そういう成功事例をどんどん探していく。それがミクロとマクロを結びつけながら、ミクロを動かす一つかなと思っています」
会場からの質問も、指標に集中した。企業は環境報告書で資源投入量を把握できるが、家庭や自治体のセクターではどう測るのか。南齋氏の答えは、統計を増やす方向には行けない以上、AI による画像解析やデジタル上の情報から作り上げていくしかない、というものだった。二酸化炭素については、簡単な質問に答えれば一人当たりの年間排出量が分かるウェブサービスもすでにある。
ただし、と南齋氏は釘を刺した。
「大事なのは、測っただけだと減らないんですよ。当たり前ですけど。測った上で、ゴールがどこなのかも一緒にお知らせすること」
3つを、横断する
閉会の挨拶で、石井教授はこの日の設計意図を語った。
「今まではサーキュラーならサーキュラー、カーボンニュートラルならカーボンニュートラル、自然共生なら自然共生と、3つバラバラでやられる会が多かったのではないか」
iReC.HU が目指しているのは、その一つずつでは語りきれない領域である。だから今回は3つを横断させた。マクロとミクロを行き来し、国の考えていることと市町村の考え方、そして個人の行動までを往復した。
「皆さんは頭の中がちょっと疲れたかもわかりませんけれども、非常に我々にとってはいい議論だったかなと」

シンポジウム全体を通して見えてきたのは、こういうことだ。
真庭市は、ごみ処理コストという足元の課題から出発し、生ごみを液肥に変え、米を育てるところまで循環を閉じた。大阪府は、処分場跡地の利用という課題から出発し、府民と協働で森をつくり、20年以上かけて自然共生サイトに到達した。どちらも、国際目標が先にあったわけではない。
一方、南齋氏の計算は、その地域の努力が国全体の物質フローとどう整合するのかを問うている。年率3〜4%。この数字を地域の言葉に翻訳できたとき、はじめてモザイクは一枚の絵になる。
自然は、守る対象ではない。資源は、無限ではない。そして循環は、率ではなく量で測られるべきものになりつつある。
域内循環の強化は、安全保障の一丁目一番地なのか。
シンポジウムは、その問いに完全な答えを出したわけではない。だが、答えを出すために何を測るべきかについては、確かな輪郭を残した。
Maintainable®︎NEWS では、地域の資源循環と自然資本の接続について、今後も現場から検証していく。
北海道大学 循環イノベーション分野(iReC.HU)
https://irec-hu.jp/
FAQ
Q. 「域内循環」とは何を指しますか?
A. 地域の中で資源やエネルギーをできるだけ循環させることを指す。地域から出る廃棄物や未利用の副産物を地域を支える資源として捉え直し、産業やエネルギー、自然環境、地域社会につなげていく考え方である。
Q. 域内循環は、なぜ安全保障に関係するのですか?
A. 日本は資源の多くを輸入に依存しており、地政学的な情勢の変化がそのまま供給リスクになる。物質の需要そのものが下がれば海外依存度も下がるため、資源循環は経済と暮らしの基盤を守る営みでもある。ただし、地域の取り組みが国全体にどれだけ十分に効いているかは、まだ測られていない。
Q. リサイクル率や循環利用率では不十分なのですか?
A. 率は改善しても、天然資源の消費量そのものが減っていなければ意味が薄い。また産業によっては、循環利用率の改善と温室効果ガス削減が背反することもある。「どれだけ循環したか」ではなく「天然資源の消費をどれだけ減らしたか」を軸にすべきだと提起されている。
Q. ストックを測るとは、どういうことですか?
A. 社会の中で使われ続けているモノの量と、その使用期間を把握することである。いま使っている建物や家具は過去につくられたもので、それを長く使うほど新たな資源投入は減る。耐用年数やリペアによる延命を地域で測る発想が提起された。
Q. LEAPアプローチとは何ですか?
A. TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が示す、自然関連のリスクと機会を評価する枠組みである。Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の4段階からなる。北海道大学では、これを最終処分場の自然資本価値評価に適用する研究を進めている。
Q. 「損失回避」による処分場の価値評価とは?
A. 処分場が存在しなかった場合に、廃棄物が分散して占有したはずの土地面積を推定し、実際の埋立面積との差を生態系サービスの価値に換算する考え方である。処分場を「損失を回避しているインフラ」として位置づけ直す試みである。
Q. 卒FIT後のバイオガスプラントには、どんな課題がありますか?
A. 市場価格での売電だけでは維持管理費や修繕費を賄えない点である。売電以外のバイオガス利用(都市ガス導管注入、CNG燃料、液化バイオメタン、水素、メタノールなど)と、消化液の利用拡大が、事業継続の鍵となる。
Q. 地域の脱炭素の取り組みが広がらないのは、なぜですか?
A. 補助事業と担当者の努力でプロジェクトが成立しても、庁内や議会を含めた共通認識の醸成、担当者交代後の人材育成、社会全体での実感といった要素が欠けると浸透しないためである。まちの歴史やターニングポイントを共有することが、自分事化の助けになるとされる。
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