2023年9月、大阪・御堂筋に新たなランドマークが誕生した。歴史ある木造寺院「三津寺」を中心に、ホテルと商業施設を一体化した複合施設「東京建物三津寺ビルディング」である。このプロジェクトは1300年の歴史を誇る寺院と現代建築が融合した前例のない試みであり、地域の新たな文化の拠点として注目を集めている。

歴史的建築と現代の施設が共生する空間
地域のランドマークとして伝統建築が未来へ受け継がれる

東京建物株式会社が提案した「三津寺ビルディング」プロジェクトでは、本堂を中心に据えたビルディングを建設し、寺院を保護しつつ新たな施設との共生を目指した。ビルの1階は境内を兼ね、参拝者や宿泊客が交錯するユニークな空間構成が採用され、地域に開かれた「ミナミの観音さん」として、多様な人々が集う場所となっている。
このプロジェクトの中核には、歴史的建築の移動技術「曳家」がある。ビルの建設に先立ち、三津寺の本堂は基礎から切り離され、御堂筋側へと数回にわたる移動作業が行われた。この工事では、細心の注意が払われた安全管理と、振動対策、文化財の保護が徹底され、かつてない高度な技術が駆使された。
三津寺の住職は、「曳家により本堂が保存され、地域の象徴である御堂筋に面する姿を実現できた」と昨年メディアで話し、伝統と新しい価値が融合したことへの喜びを語っている。ビル内部には平安期から江戸期にわたる仏像が安置され、また地域の信仰と文化を守るための新しい施設が設けられている。
東京建物三津寺ビルディングは、単なる建築物ではなく、三津寺の精神を次世代へと受け継ぐ場である。このような伝統建築と現代建築の融合例としては、東京の伝統建築のひとつであり伝統文化の継承座所である「歌舞伎座」と高層タワーを一体化させた事例も良く知られている。日本に残る伝統建築をこのような現代建築で包み込み、あるいは伝統家屋や伝統家屋群をエリア全体で現代建築と融合させていく手法には可能性がある。またその際には、日本国内で進められている木造高層ビルの普及と歩調を合わせ、これからの環境建築の新たな姿となることを期待したい。

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