
★要点
ナオアンドパートナーズが始めた「田んぼオーナー制度」は、企業が提携農家と組んで自社専用の田んぼを持ち、収穫米を福利厚生として従業員に還元し、田植えや稲刈りを体験機会として活用できる仕組みだ。農業支援を“寄付”ではなく“参加型の企業活動”に変える。
★背景
日本の農業は高齢化と担い手不足が進み、2025年農林業センサスの概数では農業経営体数が約91万経営体まで減少した。食料自給率も2024年度カロリーベースで38%にとどまる。企業が農業とどう関わるかは、CSRの話にとどまらず、食料基盤と地域の持続性に関わるテーマになっている。
福利厚生は、いまや保険や手当だけでは差がつかない。社員食堂、ウェルビーイング、地域体験、家族参加型イベント。企業は「何を支給するか」より、「どんな関係をつくるか」を問われるようになった。そこに現れたのが、“一社にひとつ、企業専用の田んぼ”という発想である。ナオアンドパートナーズの「田んぼオーナー制度」は、収穫した米を社員へ配り、田植えや稲刈りを体験プログラムとして組み込み、農家への報酬循環も掲げる。福利厚生とCSR、さらに食料安全保障までを一枚の田んぼに重ねる試みだ。
“持つ”ことに意味がある。スポンサーではなく、当事者になる設計
この制度の骨格は明快だ。企業が全国の自然栽培・特別栽培の米農家と連携し、“共同オーナー”として専用田んぼを持つ。収穫米は福利厚生として従業員へ還元でき、農業体験は社員研修や家族向けイベント、顧客招待にも使える。単なる協賛や寄付ではなく、「農業の当事者として関わる」ことを前面に出している点が特徴だ。
企業の農業支援は、どうしても“善意の外部支援”で終わりやすい。だが田んぼを持つという形式は、社員の記憶と会社の活動を結びつける。春に植え、秋に刈り、食卓に届く。その循環が見えると、CSRは抽象語ではなくなる。
農業の危機は、数字の世界で進んでいる。担い手不足と食の土台
この制度が刺さるのは、日本の農業がすでに“未来の問題”ではなく“現在の問題”になっているからだ。農林水産省の2025年農林業センサス結果の概要(概数値)では、農業経営体数は約91万4,000経営体となり、減少が続く。
一方、食料自給率は2024年度カロリーベースで38%だった。価格や流通の話だけでなく、「国内で何をどれだけ支えられるのか」がなお脆弱であることを示す数字だ。
企業の福利厚生が、こうした構造問題にどうつながるのか。一見遠い話だが、従業員が食べる米の一部でも、企業活動が農家の継続や地域の耕作維持と結びつくなら、福利厚生は“社内制度”から“社会インフラへの関与”へ意味を広げる。
福利厚生の競争軸が変わった。モノ配布から、参加と実感へ
制度の売りは、収穫米を配るだけではない。社員や家族が田植え・稲刈りに参加し、企業ロゴ入りの米袋で還元される。会社が食と農を媒介に、家族との時間や地域との接点まで設計する。
いま福利厚生で強いのは、“得かどうか”だけではない。“語れるかどうか”である。健康経営、家族満足、採用ブランディング、エンゲージメント。田んぼは、これらをひとつの物語にまとめやすい。オフィスの外で共同作業をし、収穫物が手元に届く。デジタル化が進むほど、こうした身体的な実感はむしろ差別化要素になるだろう。


CSRの次に来るのは“共助の事業化”。農業支援を継続可能にする条件
この仕組みの価値は、CSRの見栄えだけでは決まらない。農家にどれだけ安定的で正当な報酬が流れるのか。企業の都合で単発イベント化しないか。参加する社員が“楽しかった”で終わらず、継続的な関心につながるか。持続性の鍵はそこにある。
過去にMaintainable NEWSでも、企業と地域が農業を軸に関係を結び直す事例をいくつか紹介した。たとえば岡山県真庭市では企業連携による農業支援サービス事業体づくりが進み、社員食堂を起点に循環型農業へ参加を広げる例もある。企業が農業に入る動きは、CSRの周辺企画から、本業や組織づくりに近い位置へ寄ってきている。
「一社一田んぼ」を面に広げるには何が必要か
ナオアンドパートナーズは2030年までに企業オーナー250社を目指すとしている。だが広げるには、いくつかの条件があるだろう。
第一に、農家側の受け入れ設計。体験対応は労力がかかる。生産とイベント運営を両立できる運営支援が必要になる。
第二に、企業側の“社内実装”だ。総務や人事が使いやすく、社員が参加しやすい導線がなければ、制度は飾りになる。
第三に、成果の見える化である。何キロの米が届いたかだけでなく、どの地域で、どんな栽培で、どんな循環が生まれたか。そこまで見えると、福利厚生は“米の配布”から“関係の投資”へ変わる。
企業が田んぼを持つ時代とは、田んぼを所有する時代ではない。都市の働き手が、食と地域の現場に接続し直される時代のことではないだろうか。
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