JR東海の奈良観光キャンペーン『いざいざ奈良』が、俳優の鈴木亮平さんを起用した新CM「法隆寺編」を2025年9月1日から放映中だ。教科書で誰もが知る名刹を、成熟した感性で再訪する。1300年超の時を生き延びる世界最古の木造建築・法隆寺の本質に迫る。

1300年を支え続けた“木のテクノロジー”と、揺るぎなき伽藍美。

斑鳩の地に立つ法隆寺は、飛鳥の意匠を色濃く伝える西院伽藍(金堂・五重塔・中門・回廊)と、夢殿を擁する東院伽藍が対をなし、日本建築史における木造技術の到達点を示している。世界最古の木造建築とされるゆえんは“古さ”ではなく、木という有機素材をここまで長寿命化した設計・施工・維持の総合力にある。
まず構造。五重塔の中心を貫く心柱、深く張り出す軒、瓦葺の重量を受け止める斗栱(ときょう)。いずれも地震国における応答を精密に調律している。心柱と各層の床・梁が一体固定に陥らない納まりは、揺れを逃がす“しなり”を確保し、層ごとの慣性を段階的に減衰させる。軒の出は風雨をはらい、壁・柱の劣化を抑制する雨仕舞の知恵でもある。結果として、木部は過酷な外力を正面から受け止めず、吸収・分散する。
次に造形だ。金堂の雲斗・雲肘木がつくる水平線は、塔の垂直性と対位をなし、伽藍全体に緊張と安定を与える。五重塔裳階(もこし)上の力士像が初層を支える意匠は、構造表現と信仰的寓意が重なる稀有な例である。比例は「間(けん)」を基準とするモジュールが貫かれ、部材寸法・屋根勾配・軒反(のきぞり)が連鎖して、遠望・近景ともに破綻のないリズムを生む。単なる装飾ではなく、意匠と耐候・耐震の理が一致している点が、法隆寺の美学を建築工学へと昇華させている。
そして維持管理の素晴らしさ。法隆寺が示す最大の教訓は、解体修理・部分更新・補修を積層して建物寿命を延伸してきた“時間の技術”にある。適齢伐採された檜材の選定、含水率管理、継手・仕口の再現、痛みの早期介入――いずれも今日の保存修復学の基礎であり、木造を「消費」しない姿勢そのものだ。夢殿に伝わる救世観音像、金堂の釈迦三尊像など堂内の至宝群は、建造物の安定があってこそ守られる“二重の保存”の成果と言える。

世界最古の木造建築であると同時に、最先端のサステナブル建築「法隆寺」に誘う『いざいざ奈良』。

今回の『いざいざ奈良』CMは、鈴木亮平さんが「大人になってわかる感動」を語る導入で、視線を法隆寺の本質“木の可能性”へと誘うもの。秋の斑鳩で、夕映えに軒が影を落とす瞬間、五重塔は彫刻のような陰影を帯び、金堂の水平が境内の静けさをさらに深くする。木は脆弱ではない。理にかなった設計と手入れがあれば、むしろ最も強靭な構造体になり得る。法隆寺はその事実を、1300年という圧倒的時間で証明している。
誰もが法隆寺の前に立てば、視界はすぐに木の手触りへ、継手の納まりへ、斗栱の影へと沈んでいく。世界最古の木造建築は、最先端のサステナブル建築であり続ける。JR東海の奈良観光キャンペーン『いざいざ奈良』は、その確信を得る旅への入口だ。

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