★ここが重要!

★要点
約1000年の歴史を持つ小山八幡神社を曳家で保存・改修し、その境内と一体で開発される「ブランズ西小山」は、品川区初予定のZEH-M Readyかつ全戸ZEH Readyを掲げる“環境先進マンション”。再生可能エネルギー、省エネ、高台立地と蓄電で、防災と快適性を両立させた暮らしを提案する。
★背景
気候危機とエネルギー価格高騰、災害リスクの高まり、そして都市部の神社や寺院の老朽化・収入減少が同時進行するなか、地域の信仰と記憶を壊さずに住宅ストックを更新し、CO₂削減とレジリエンスを同時に実現する「まちぐるみのアップデート」が急がれている。

古い建物を壊し、更地にして、マンションを建てる。そんな画一的な都市開発の図式から外れた計画が、品川区・西小山で進んでいる。舞台は、およそ千年の歴史を持つ小山八幡神社。その社殿を曳家で移し、既存材を新たなマンションの意匠に生かしながら、ZEH水準の省エネ性能と高い防災性を備えた「ブランズ西小山」をつくる試みだ。信仰と暮らし、環境と不動産——相反して見えるものを束ね直し、「都市で持続可能に住む」とは何かを問い直すプロジェクトだ。

千年の神社と一緒に住む。曳家がつなぐ記憶と不動産

「ブランズ西小山」が建つのは、東急目黒線・西小山駅と洗足駅のほぼ中間、田園都市株式会社が約100年前に開発した住宅地の一角。そこに古くから鎮座するのが小山八幡神社だ。約千年にわたり、地域の暮らしとともに季節の祭事や祈りを受け止めてきたが、建物の老朽化と維持費の負担は重くなっていた。
今回のプロジェクトは、神社を「どかしてマンションを建てる」計画ではない。社殿を保存したまま、基礎ごと移動させる曳家の技術を使って配置を変え、神社の改修とマンション開発を同時に行う。一体開発とすることで、神社には定期転借地権による安定収入が生まれ、境内の景観や祭礼の場も維持される。
象徴的なのは、曳家工事で発生した既存材の一部を、マンションのラウンジのアートや外構に再利用する設計だ。単なる「記念碑」ではなく、日常的に目に触れるディテールとして、神社の時間が住まいの中に入り込む。
都市開発は、しばしば「過去」と「未来」を天秤にかける作業になりがちだ。ここで行われているのは、過去を切り捨てるのではなく、構造体ごとスライドさせて未来に持ち込む選択である。宗教施設の財政難と、住宅供給、地域コミュニティの維持。その三つを同時に解こうとする実験と言っていい。

ZEH-M Ready×全戸ZEH Ready——“省エネマンション”を生活インフラに

「ブランズ西小山」が掲げるもうひとつの柱が、省エネと創エネだ。住棟全体で一次エネルギー消費量を50%以上削減するZEH-M Readyと、各住戸ごとに50%以上削減するZEH Readyの両方を取得予定。品川区の分譲マンションとしては初という。
屋上には太陽光パネル86枚、各住戸には家庭用燃料電池「エネファーム」、高断熱仕様の外皮とLow-E複層ガラス。これらの組み合わせによって、代表住戸では一次エネルギー消費量をおよそ63%削減し、年間約8万円分の光熱費削減効果が見込まれるという試算だ。もちろん実際の数字は暮らし方で変動するが、「環境配慮」が家計の防衛策にもなる構図がはっきり見える。
家庭部門のCO₂排出は、日本の温室効果ガスのなかでも無視できない規模に達している。環境省の統計では、家庭一戸あたりの年間排出量は数トン規模で、その約7割が電気由来とされる。冷暖房を含む住まいのエネルギー設計を変えることが、気候対策のフロンティアの一つになっている状況だ。
ZEHの価値は、電気代だけではない。世界保健機関(WHO)は住宅の室温の目安として少なくとも18℃を推奨し、低温な住環境が血圧や睡眠の質に悪影響を与えるリスクを指摘している。
高断熱の住宅は、冬場のヒートショックを減らし、在宅ワークや勉強の集中度を支える「健康インフラ」でもある。
「ブランズ西小山」は、全住戸で断熱等級6以上(一部は最高等級の7)を予定し、窓や外皮の性能を高めることで、冬場の各室温度を1~2℃程度押し上げられると試算する。これは、エアコンの設定温度を上げるのとは逆に、「同じ設定でも寒く感じにくい」状態に近づけるということだ。
ZEHを単なるラベルではなく、「よく眠れた」「在宅ワークがはかどる」といった体感につなげる。その文脈で見ると、神社と共生するマンションであると同時に、「身体と環境に配慮した住まい」を前面に出すプロジェクトでもある。

高台×蓄電×エネファーム。災害列島のレジリエンス拠点へ

環境配慮型の住まいが問われるとき、忘れてはいけないのが災害リスクだ。日本は地震、台風、豪雨のフルセットを抱える災害列島である。
「ブランズ西小山」は、標高約34mの高台に位置し、品川百景にも選ばれる眺望を持つ。水害リスクの低さと、安定した地盤という立地条件がベースにあるうえで、建物側にもレジリエンスの仕掛けが重ねられている。
共用部には大容量の蓄電池、各専有部にも個別の蓄電池を設置し、停電時には太陽光発電と組み合わせて照明などに電力を供給できる計画だ。専有部ではエネファームの発電を活かし、停電時専用コンセントからの給電も可能とする。
加えて、防災備蓄品やマンホールトイレも整備する。エレベーターが止まり、物流が滞る事態になっても、一定期間は建物内で生活を維持できる「とどまれる避難所」としての機能を持たせようとしている。
再エネと省エネだけでは、真のサステナビリティとは言いにくい。異常気象に伴う停電やインフラ寸断が増える世界では、「電気が途切れにくい家」「水が引くまで持ちこたえられる立地」であることも、環境性能の一部だ。高台立地と分散電源を組み合わせたこの計画は、そうした時代感覚を先取りしている。

記憶も資源も捨てない——神社×マンションが映す都市の次のかたち

日本各地で、古い神社や寺院が改修費用をまかなえず、境内の土地を駐車場や商業施設に変えるケースが出ている。少子高齢化で氏子や檀家は減り、固定資産税や維持費の負担は増える。
「ブランズ西小山」のような一体開発は、その行き詰まりに対する一つの応答である。
・神社側には、土地の定期転借による安定収入と、社殿改修の機会
・住民側には、地域の信仰と緑に囲まれた住環境
・まちにとっては、歴史的景観と防災力を備えた住宅ストック
という「三方よし」の構図をめざしている。
曳家で社殿を動かし、既存材をマンションのアートや外構に再利用する発想は、建材の循環利用であり、文化の循環でもある。スクラップ&ビルドではなく、「動かして活かす」「壊さずつなぐ」都市更新のサンプルだ。
東京圏には、こうした小さな神社や社叢が無数に点在している。境内の豊かな植生は、ヒートアイランドを和らげる貴重なグリーンインフラでもある。一体開発で神社を残す選択肢は、歴史や信仰を守るだけでなく、都市の環境性能を底上げする打ち手にもなりうる。
「ブランズ西小山」は、29戸たらずの小さなプロジェクトだ。それでも、千年の社とZEHマンションを同じ敷地で運営するという構図は、少子高齢化と気候危機が進む日本の都市に向けた、一つの問いかけになっている。
壊してゼロからつくるのではなく、あるものを動かし、重ね、活かし直す。そんな「編集としての都市開発」が、これからの標準になっていくかもしれない。

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