AppSheet成果共有会(社員が開発したアプリを発表し、表彰を行う社内イベント)の様子
★ここが重要!

★要点
株式会社サンゲツがノーコードツール「AppSheet」を軸に、社員自作アプリの実装数300件を突破。推計で年間約11,600時間を削減し、配送・勤怠・研修など日常業務を現場主導で刷新した。
★背景
中計【BX 2025】で「デジタル資本の蓄積・活用」を掲げ、RPAや生成AIも併用。システム部門だけに依存しない“ボトムアップ型DX”が、人手不足・物流2024年問題・働き方改革に対する実効策として機能し始めた。

アプリは外で“発注”せず、中で“育てる”。インテリア総合企業サンゲツが、GoogleのAppSheetで社員自作アプリを量産。その数、実に300件に到達し、年間11,600時間を浮かせたという。ポイントは、現場の課題発見→即アプリ化→運用データの再学習という短いループだ。道具はノーコード、駆動力は現場。DXの主語が“社員”に移った瞬間である。

現場発DXの骨格——AppSheet×RPA×生成AIの三段構え。

土台は中計【BX 2025】で定義した「デジタル資本」の内製化だ。サンゲツは2023年から、AppSheetでの自作アプリとRPAでの自動化を並走させ、近年は生成AIの社内活用も進める。ねらいは、要件定義→開発→受入テストの長いリードタイムを、現場の判断で短絡化すること。
仕組みはシンプルだ。各部門の担当者が日々の不便をタスク化し、スプレッドシートやカメラ・位置情報と連携した軽量アプリに落とす。DX部門はセキュリティ・データ連携・レビューの“ガードレール”を提供し、社内表彰や学習会で成功事例を可視化。システムの“民主化”とガバナンスを同時に回す設計である。

300件が生んだ“余白”、年間11,600時間の再配分。

削減時間はゴールではなく、再投資の原資だ。サンゲツが示した年間約11,600時間の削減(推計)は、入力・照合作業、電話・紙伝票、散在データの収集に偏っていた余剰を引き剥がす効果を指す。浮いた時間は、顧客接点の質向上、在庫・配送計画の精緻化、新商品の検討時間へ再配分する。
データは“たまる”ほど利く。アプリ操作ログや業務処理のタイムスタンプは、生成AIの社内プロンプトやRPAフローの改良材料になる。量より速さ、速さより学習。内製DXのKPIは、アプリ数だけでなく、更新頻度・利用継続率・部門横断の再利用率まで含めて設計すべきだろう。

アプリ実装数の推移(2025年9月26日時点)
新入社員研修でアプリの作成方法をレクチャー

配送と人事の実装例——“サービスクルー配送”と“就労見える化”

ロジスティクスでは、現場発の「サービスクルー配送アプリ」を導入。配送順・地図・完了写真をスマホで一元化し、受注窓口との共有を高速化した。狙いは抜け漏れ削減と最適ルートの自律更新。物流2024年問題の制約下で、無理なく“積み替える”デジタル化である。

人事・マネジメントでは「就労見える化アプリ」。社員は自分の勤務・有休の状況を即把握、管理者はチーム全体の偏りを確認して業務配分や取得促進に動ける。どちらも、既存の基幹データに“寄り添う”軽い画面を足して、現場の意思決定を早くするアプローチだ。

シャドーITを生まない仕立て——標準化・表彰・セキュリティ。

内製化は“野良アプリ”化と裏腹だ。サンゲツはDX部門が技術支援と審査、命名規則・権限設計・データ接続の標準を提供。加えて、社内表彰制度で“使われたアプリ”を称え、更新を後押しする。
セキュリティは入口より出口。誰が、どのデータに、いつ触れたか——監査ログの可視化と、テンプレート化された権限ロールの配布が肝になる。現場のスピードを落とさず、会社として説明できる状態を保つ。その関所設計が、ボトムアップ型DXの寿命を決める。

教育・KPI・“横展開”の作法。

伸びしろは三点に集約できる。第一に教育。新入社員研修で“最初の一本”をつくり、現場の課題棚卸しを習慣化する。第二にKPI。アプリ数より“継続利用率×更新頻度×横展開率”を追う。第三に横展開。配送・勤怠・品質記録など、共通業務の部品化とテンプレート配布で、重複開発を避ける。
ノーコードは目的ではない。現場の意思決定を早くし、データを蓄え、もう一段の自動化やAI活用に接続する“途中駅”だ。サンゲツの300件は、そのスイッチが入った証左である。

サンゲツホームページはこちら

デジタル資本に関する考え方
https://www.sangetsu.co.jp/company/sustainability/social/digital_capital.html

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