住友林業株式会社が茨城県つくば市に完成させた6階建ての新社宅は、木造と鉄筋コンクリート造(RC造)を融合させた平面混構造で設計・施工された。この建築物は、木の耐火部材や接合金物など複数の独自技術を盛り込み、施工の合理化とCO₂排出量削減を同時に実現したものだ。木造と鉄筋による中大規模木造集合住宅のモデルケースとして、このスタイルは、脱炭素社会に向けた現実解として今後の新たな指針となる可能性がある。

木造の技術革新でコスト削減と環境配慮を両立させた「新たな集合住宅モデル」。

日本国内で求められる中大規模木造建築の普及に対し、住友林業が実証的な一歩を踏み出した。同社が設計・施工を手がけた6階建て社宅は、RC造と木造を組み合わせた「平面混構造」を採用。中央にRC造、両端に木造を配置する構造とすることで、木造にかかる負荷をRCが引き受け、柱や梁のスリム化とコスト削減を同時に実現した。
木造部分には、日建設計と共同開発した「合成梁構法」が初採用され、木梁とRC床版を一体化。これにより、天井高を確保しながら床の揺れを抑える設計を可能にした。さらに、住友林業オリジナルの耐火部材「木ぐるみCT(2時間耐火構造部材)」も初導入。CLTや一般流通材を用いたことでコストを抑えつつ、木の温もりある空間を維持した。
また木造とRC造の接合には、カナイグループと共同開発した「混構造用接合金物」を導入。設計作業の効率化と金物の規格化により、これまで特注が多かった混構造建築の課題を解消した。こうした工法の工夫により、RC造と同等の工期で完成させ、職人不足の課題にも一定の道筋を示したといえる。

「エンボディド」から「オペレーショナル」まで、建物のライフサイクル全体でCO₂削減を実現。

社宅の建築においては、CO₂排出量削減を建設段階から運用段階までトータルで考慮した。そのため、設計段階から「OneClickLCA」を活用してエンボディドカーボン(建設時排出)を可視化し、低炭素な部材を選定。構造材や仕上材など合計322m³の木材を使用し、約878本分のスギに相当する267トンのCO₂を固定した。
さらに建物全体での省エネ・創エネ対策を講じたことで、Nearly ZEH-M認証を取得。再生アルミ100%のサッシ、高効率設備、太陽光発電の導入により、運用段階でのCO₂削減率は75%以上に達した。建築物の環境評価制度でも最上位となる「BELS★★★★★」「CASBEE-S」の取得を見込んでおり、持続可能な建築の到達点を提示している。

“木の効能”を科学的に検証する試みと、木を社会課題解決の手段に高める住友林業。

この社宅では、住友林業の筑波研究所が中心となり、木の空間が人に与える影響を科学的に評価する試みも進行中だ。具体的には、視覚・嗅覚・触覚といった感覚刺激がリラックス効果や免疫力向上に与える影響について、東京大学との共同研究として2025年6月から1年間、旧社宅との比較調査が実施される予定だ。
この調査は、木造建築が単なる意匠や構造上の選択肢ではなく、居住者の健康や心理にまで及ぼす可能性を定性的・定量的に裏づけるものであり、今後の都市建築における「木の価値」の再定義に寄与すると考えられる。
住友林業は兼ねてより非住宅建築の木造化を積極的に進めてきた。2011年には「木化推進室」を設置し、低層から中高層木造建築へと取り組みを拡大し、熊谷組やコーナン建設等との連携により、技術と施工の幅を広げている。
そんな同社は、2030年に向けた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」において、木造建築の普及を通じて森林のCO₂吸収量を増やし、木材による炭素固定で社会全体の脱炭素に貢献する方針を打ち出している。今回の社宅建築はその先駆けとなるものであり、今後も技術開発と施工合理化を融合させた、中大規模木造の普及が加速していくと思われる。

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