東京都とアーツカウンシル東京が主催するTokyo Art Research Lab(TARL)の講座シリーズ「新たな航路を切り開く」が、2025年夏から開催される。自治体職員や文化団体職員に向けた講座「パートナーシップで公共を立ち上げる」、および実践者向け演習「自分のアートプロジェクトをつくる2025」は、アートと社会をつなぎ直す視点を提供し、“これからの公共”のあり方を実践的に問う。混迷する時代の中で、アートが果たすべき役割とは何か。その答えを探る取り組みが動き出している。

行政とアートが協働するための方法論。自治体職員に開かれた講座「パートナーシップで公共を立ち上げる」。
現代社会の中でアートは単なる文化事業の領域を超え、地域課題や政策課題へのアプローチ手法として注目されている。東京都とアーツカウンシル東京が展開する「Tokyo Art Research Lab(TARL)」のプログラム「新たな航路を切り開く」は、そのようなアートの可能性に正面から向き合うシリーズで、行政と文化事業の交差点に立つ人々を対象とした学びの場だ。
2025年7月31日と8月1日の両日開催される講座「パートナーシップで公共を立ち上げる」では、行政と民間、NPOなど多様な主体が連携しながら地域の創造的環境を育むための手法と事例が提示される。ナビゲーターを務めるのは、長年に渡ってアートと社会の接続に取り組んできた芹沢高志さん(P3 art and environment統括ディレクター)。秋田市、沖縄県那覇市、そして東京都内の事例を通じて、行政内外の異なるセクターがいかにして信頼関係を築き、「公共」を創出していくかが具体的に議論される。
この講座は文化事業の経験に関わらず参加できることが特徴で、政策企画、新規事業開発、地域振興など幅広い分野の職員にとって有益な内容になっている。他地域の事例を知り、受講者同士のネットワークを形成しながら、行政の枠組みを超えた視座で“公共の再定義”に挑む機会になるだろう。


問いから始まる創造。アートプロジェクトの本質に迫る演習「自分のアートプロジェクトをつくる2025」。
いっぽう、2025年10月から2026年2月にかけて実施される「自分のアートプロジェクトをつくる2025」は、アートプロジェクトを自身の問いから立ち上げようとする実践者に向けた全8回の演習プログラムだ。講座はナビゲーターの芹沢さんによる導入から始まり、美術家や舞台芸術プロデューサー、アートマネージャーなど、第一線で活躍するゲストによるプレゼンテーションとディスカッションを通じて、自らの企画を構築・発展させていくプロセスが組まれている。
こちらの演習の特筆すべき点は、「正解のない対話」を重視するということ。対面とオンラインを組み合わせ、受講生同士の継続的な対話とフィードバックを通じて、「自分がなぜこのプロジェクトをやりたいのか」「アートを通じて社会とどう関わりたいのか」という本質的な問いに向き合うことが促される。最終的には自らのプロジェクトを発表し、その構想を他者と共有する場が設けられる。
講師陣には、地域社会でのアート実践や制度設計に携わってきた実務家たちが並ぶ。実際の活動に即した議論を通して、受講者は理論と実践を往還しながら、自分のアートプロジェクトの核を見出していくことになるだろう。


“公共”の概念を再起動し、アートが果たす社会的役割を再考する。
TARLの一連の講座が提示しているのは、「アートプロジェクト=作品展示」ではないという新たな視座だ。これは、アートが社会や制度と交錯し、時にそれらを批評し、また新たな制度設計の原動力となる“実践の場”であるという認識である。
行政とアートの協働は、文化事業の拡張であると同時に、制度に内在する限界を補完しうる柔軟な創造行為でもある。とりわけ、近年のアートプロジェクトは、「市民の創造的参与」や「共創の場づくり」といった社会的な視点からも評価されており、その波は確実に自治体行政の中枢にも届きつつある。
今後、アートが社会にどう作用するのかは、アーティストやディレクターだけではなく、行政職員や地域のプレイヤー、そして市民一人ひとりの想像力と行動力に委ねられるだろう。TARLの「新たな航路を切り開く」は、その先導役として、多くの実践者たちを支え続けている。
パートナーシップで公共を立ち上げる 2025
https://tarl.jp/opencall/newroute-lecture2025/
自分のアートプロジェクトをつくる 2025
https://tarl.jp/opencall/newroute-seminar2025/