文部科学省が創設した「国際卓越研究大学」制度は、研究力・イノベーション力・国際競争力を飛躍的に高めることを目指す、日本の大学支援の新たな柱だ。2023年には東北大学が第1号に認定され、次なる候補として東京大学や京都大学なども準備を進めている。科学技術立国を支える大学改革の新たなステージが幕を開けた。

年3,000億円規模のファンド運用益で、大学を「経営」から変える。
「国際卓越研究大学」とは、世界最高水準の研究力を有し、我が国のイノベーション創出や経済・社会の変革を先導する大学を対象とした制度だ。文部科学省は10兆円規模の「大学ファンド」の運用益(年3,000億円程度)を活用し、最大で年間数百億円規模の支援を行うと発表している。資金の投入対象は研究だけではなく、大学全体の経営改革・ガバナンス改革・人材育成・産学連携など、多岐にわたる。
制度の特徴は、単なる研究費の補助ではなく、長期的に大学の自立性・戦略性を高め、研究と教育の両輪で国際競争力を高めることを重視している点にある。言い換えれば、大学を「研究機関」としてだけでなく、「持続可能な経営体」として捉える政策であり、これまでの国立大学法人制度に比べて、より自律的な組織運営が求められる構造となっている。
東北大学が第1号に認定、次はどこが続くのか。
2023年9月、記念すべき第1号として、東北大学が国際卓越研究大学に認定された。選定の理由は、独自の研究重点分野「グリーントランスフォーメーション(GX)」を軸とした全学的な研究戦略に加え、学内ファンドの活用や若手研究者支援など、持続的な研究力強化への明確なビジョンがあったことによる。
同大学は2030年までに論文引用数世界トップ10入り、女性研究者比率30%超、国際研究者比率50%超を掲げるなど、数値目標も明確に設定。まさに「世界と伍する」体制を大学全体で築こうとしている。
一方、次なる認定候補として、東京大学・京都大学・大阪大学などが準備を進めているとされる。これらの大学はいずれも基礎研究や応用研究、国際連携において高いポテンシャルを有しており、「第2陣」としての選定は、国内外から注目されている。
「選ばれる大学」から「支える大学」へ、制度が描く日本の新たな大学像。
この制度が示す方向性は明確だ。単に優秀な学生が集まる「選ばれる大学」ではなく、社会課題を解決し、産業や政策に影響を与える「支える大学」へと進化すること。言い換えれば、研究成果が社会に還元され、大学が知のハブとして機能する未来を描いている。
そのためには、従来の縦割り的な研究資源配分から脱却し、戦略的な研究投資とマネジメント人材の育成が不可欠だ。文部科学省が打ち出したこの制度は、単なる財政支援にとどまらず、大学という存在そのものを“研究力”の観点から再定義しようとする試みと言える。
科学技術立国・日本の復権をかけた「知の国家プロジェクト」。
少子化が進み、大学の国際競争が激化する中、日本の科学技術立国としての地位が揺らいでいる。世界大学ランキングにおいても、日本の大学の順位は低下傾向にあり、海外の有力大学との研究力・発信力の差は広がっている。
国際卓越研究大学制度は、こうした状況を打開すべく、大学の構造改革と資源集中を同時に進める「知の国家プロジェクト」だ。真のグローバル研究拠点を国内に複数育てることで、日本全体の研究水準を底上げし、経済成長と国際的プレゼンスを支える狙いがある。
今後、選ばれる大学の数は段階的に増えると見られており、制度がもたらす波及効果にも注目が集まる。研究者にとっては新たなチャンス、大学にとっては構造転換の試練、企業にとっても新たな産学フレームを見直す機会になるだろう。
文部科学省:国際卓越研究大学制度と第2期公募について
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/daigakukenkyuryoku/kokusaitakuetsu_koubo.html
