
★要点
2026年8月3日、環境省が30by30目標の進捗を数字で公表した。
令和7年度に認定した自然共生サイト23.1千haのうち、保護地域と重ならない10.0千haを「OECM」として国際データベースに登録。累計の登録面積は64.6千haになった。東京23区がすっぽり入る広さである。
自然共生サイトの認定は累計610箇所。制度が始まって3年、着実に数は伸びた。
だが、同じ発表にはもう一つの数字がある。保護地域とOECMを合わせた日本の陸域の保全割合は21.0%。そのうちOECMが占めるのは、わずか0.2%。海域は13.3%。
目標は、2030年までに陸と海の30%以上。陸域で言えば、あと9ポイント。国土面積に直せば約340万ha——四国のおよそ1.8倍にあたる。
現在のOECM累計6.46万haの、およそ50倍。
数字は、正直だ。そして、正直な数字が出てきたこと自体が、この制度の成果でもある。
★背景
2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組は、2030年までに陸と海の少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」を掲げた。
世界の到達度は、陸域17.6%、海域8.4%(Protected Planet Report 2024)。2020年からの増加分はコロンビア2個分を超えるが、年あたりに直せば0.5ポイントにも届かない。このペースでは間に合わない。
日本の陸域21.0%は、世界平均より高い。国立公園や自然環境保全地域といった保護地域が、すでに国土の2割を占めているからだ。
問題は、ここから先である。新たに国立公園を指定して9ポイントを埋めるのは現実的ではない。伸びしろは、民間が持つ土地にある。社寺林、企業の森、里山、工場の緑地、湿地、干潟、農地。
そこで生まれたのが「自然共生サイト」だ。2023年度に運用が始まり、2025年4月には地域生物多様性増進法が施行されて、法律にもとづく認定制度になった。国が認定した区域のうち、既存の保護地域と重ならない部分が、国際データベースにOECMとして登録される。
30by30アライアンスの参加は1,326(企業647、自治体110、NPO等384、個人162、コアメンバー23)。仕組みも、参加者も、そろい始めた。
残るのは、面積である。
610と、0.2。
同じ制度から出てきた、二つの数字である。
610は、これまでに国が認定した自然共生サイトの数。企業の社有林、寺社の森、地域が守ってきた里山、工場の敷地に残る湿地。手を入れながら生きものを支えてきた場所が、制度の上で名前を持った。
0.2は、その積み上げが日本の陸地に占める割合だ。パーセントである。
2026年8月3日、環境省が公表した数字は、この二つを並べて見せた。保護地域とOECMを合わせた陸域の保全割合は21.0%。そのうちOECMは0.2%。海域は13.3%。
目標は30%。2030年まで、あと4年。
落胆する数字だろうか。それとも、ここからの数字だろうか。
確かなのは、これまで「たぶんこれくらい」でしか語れなかったものが、測れるようになったということだ。
数えられないものは、増やせない。
610箇所、そして0.2%
まず、発表の中身を整理する。
環境省が2026年8月3日に公表したのは、令和7年度に認定した自然共生サイトの国際データベースへの登録結果である。
令和7年度の認定面積は23.1千ha。このうち、国立公園などの既存保護地域と重ならない10.0千haが、OECMとして世界データベース(WD-OECM)に登録された。制度開始からの累計は64.6千ha。
自然共生サイトの認定件数は、2026年6月30日時点で累計610箇所。令和8年度第1回の認定だけで56箇所が加わった。
そして、保護地域とOECMを合わせた保全割合は、陸域21.0%、海域13.3%。うちOECMは陸域の0.2%。
ここで押さえておきたいのは、21.0%の大部分が既存の保護地域だということだ。国立公園、国定公園、自然環境保全地域、鳥獣保護区。戦後から積み上げてきた公的な保全の面積である。
2021年時点の数字は陸域20.5%だった。5年で0.5ポイント。そのうち0.2ポイントがOECMによるものと考えれば、民間の取組が新しく上乗せした分は、決して無ではない。
ただ、目標までの距離を思えば、まだ助走の段階にある。
「あと9ポイント」は、四国1.8個分
数字を身体感覚に置き換えてみる。
日本の国土はおよそ3,780万ha。1ポイントは約38万haにあたる。
陸域21.0%から30%までの9ポイントは、約340万ha。四国の面積が約188万haだから、そのおよそ1.8倍である。
一方、OECMとして登録済みの累計は64.6千ha、つまり6.46万ha。東京23区(約6.3万ha)とほぼ同じ広さだ。
340万haを6.46万haで割ると、約53。いまの50倍以上を積み上げなければ、OECMだけで穴は埋まらない。
もちろん、9ポイントすべてをOECMで埋める必要はない。既存の保護地域を広げる道もあるし、海域には別の政策手段がある。この計算は、あくまで規模感をつかむための思考実験だ。
それでも、示唆はある。
現在のペースは、年あたり10.0千ha。仮にこのペースが続けば、2030年までに追加できるのはおよそ4万ha強。9ポイントには、はるかに届かない。
量を変えるには、やり方を変えるしかない。
なぜ、数は増えても面積が増えないのか
610箇所という数と、6.46万haという面積。この二つを並べると、日本の構造が見えてくる。
単純に割れば、1件あたりおよそ100ha。1辺1kmの正方形が100ha(1km²)だから、平均的な自然共生サイトは、だいたいその程度の規模ということになる。
海外の保護地域は、桁が違う。国立公園ひとつが数十万ha、数百万haというスケールで指定される国もある。
日本の土地は、細かい。私有地が入り組み、所有者が多く、一つひとつの区画が小さい。里山も社寺林も企業林も、地形に沿って点在している。
これは弱点であると同時に、日本の自然の特徴でもある。人が長く手を入れ、使いながら守ってきた自然。里山という言葉が指すのは、まさにその関係だ。
だから、日本の30by30は「巨大な保護区をひとつ作る」戦略にはならない。小さな区域を、数多く、確実に積み上げるしかない。
そのとき効いてくるのが、連携である。
自然共生サイトの認定には「連携増進活動実施計画」という枠組みがある。複数の主体が組んで、まとまりのある区域を一体で申請する仕組みだ。令和7年度第3回では108箇所の認定のうち7箇所が、令和8年度第1回では56箇所のうち1箇所がこの形をとった。
点を面にする。流域や地域単位でつなぐ。生態系は行政区画でも土地の所有区分でも切れないのだから、これは理屈にかなっている。
数を増やす競争ではなく、つなげる設計へ。次の課題はそこにある。

「維持」「回復」「創出」——制度が法律になった
2025年4月、地域生物多様性増進法が施行された。
それまで環境省の運用として行われていた自然共生サイトの認定が、法律にもとづく制度になった。認定を受けた区域では、生物多様性の増進活動が計画として位置づけられ、外来種対策などで手続きの特例が受けられる場合もある。
制度は、活動を3つのタイプに分けている。
維持タイプ・・・すでに生物多様性が豊かな場所を、そのまま守り続ける。
回復タイプ・・・管理が放棄され、荒れてしまった場所を手入れして戻す。
創出タイプ・・・開発の跡地など、いったん失われた場所に新しく自然をつくる。
令和8年度第1回の認定56箇所を見ると、維持47、回復6、創出3。維持が圧倒的に多い。
これは自然なことでもある。すでに良い状態にある場所は、認定の基準を満たしやすい。だが、30by30の観点から見れば、面積を大きく動かすのは回復と創出のほうだ。
荒れた人工林。耕作放棄地。埋め立てられた干潟。工場の跡地。
「戻す」「つくる」は手間も時間も費用もかかる。効果が出るまで年単位、時に十年単位を要する。だからこそ、そこに資金と評価が向く設計が要る。
維持だけでは、いまある自然は減らないかもしれない。しかし、増えもしない。
ネイチャーポジティブという言葉が「損失を止める」ではなく「回復へ転じる」を意味する以上、比重は回復と創出へ移っていかなければならない。

世界の到達度と、日本の位置
視野を広げてみよう。
Protected Planet Report 2024によれば、世界の陸域・内水面の保護・保全割合は17.6%、海域・沿岸域は8.4%。目標の30%まで、陸で12.4ポイント、海で21.6ポイント足りない。
必要な追加面積は、陸ではブラジルとオーストラリアを合わせた広さ、海ではインド洋を超える広さに相当するという。
2020年からの増加分は、コロンビア2個分以上。数字だけ見れば進んでいる。だが年率に直せば0.5ポイント未満で、このペースでは2030年に届かない。
そしてもう一つ、報告書が強調したのは「量」ではなく「質」の問題だった。
保護区に指定された場所が、本当に生きものを守れているのか。そこに暮らす人々の権利や生活は尊重されているのか。それを評価するデータが、そもそも足りない。
面積を数えることはできる。だが、面積は成果ではない。
この指摘は、日本にもそのまま返ってくる。
610箇所を認定した。次は、その610箇所で生きものが増えているかを、どう確かめるのかという問いだ。

認定は入口。その先で、何が生まれるか
自然共生サイトの認定事例を眺めていると、風景の多様さに驚かされる。
千葉県野田市の江川地区は、コウノトリと人が共に生きる農村を掲げる。長野県伊那市の鳩吹山では里山の保全が進む。大阪府能勢町では栗の生産地が「自然の摂理を尊ぶ里山管理」として認定された。佐賀県鹿島市の七浦地区は干潟とメダカの生息地。愛知県岡崎市の小呂湿地は、市内固有種を守る湿地である。
農地があり、森があり、干潟があり、湿地がある。企業の社有林も、寺社の鎮守の森も、工場の緑地も含まれる。
共通するのは、そこが「誰かの土地」だということだ。国立公園のように国が線を引いた場所ではなく、所有者や地域が、日々の判断で管理している場所である。
だとすれば、続けられるかどうかは経済の問題になる。
手入れには人手と費用がかかる。認定を受けても、それだけで収入が生まれるわけではない。ボランティアと善意に頼り続ける仕組みは、いずれ細る。
ここに、次の可能性がある。
認定された区域で採れた農産物、水産物、林産物。その物語を、価値として流通させること。観光、食、教育、宿泊、研究。自然を守る行為が、地域の稼ぎと結びつく設計。
認定は、看板ではない。入口である。
610箇所の看板の先に、どんな事業と資金の流れをつくれるか。30by30の達成率よりも、実はこちらのほうが本質的な課題かもしれない。

1937年の取得以来、ほとんど人の手が入らず維持されてきた自然度の高い森林「リフラの森 北海道福島町」に生息するニホンザリガニ
数えられるようになった、ということ
2026年8月3日の発表を、進捗の遅れとして読むこともできる。0.2%という数字は、たしかに小さい。
だが、別の読み方もある。
かつて、民間の土地で行われてきた自然の手入れは、統計に載らなかった。企業が社有林を守っていても、地域が里山を維持していても、それは国際的な保全面積として数えられなかった。存在しないのと同じ扱いだった。
自然共生サイトの制度は、それを数える仕組みをつくった。国が基準を定め、審査し、認定し、国際データベースに登録する。世界の集計に、日本の民間の努力が反映されるようになった。
0.2%は、ゼロだったものが可視化された結果である。
測れるようになれば、比べられる。比べられれば、足りない量がわかる。足りない量がわかれば、どこに手を入れるかを決められる。
そして測る対象は、これから面積から質へ移っていく。何haを守ったかではなく、そこで何種が戻ったか。何が回復したか。
ネイチャーポジティブは、掛け声ではなく会計になりつつある。
四国1.8個分という距離は遠い。だが、距離が測れるようになったこと自体が、前に進んだ証拠でもある。
Maintainable®︎NEWSでは、30by30と自然共生サイトの進捗、そして認定地から生まれる事業と価値について、今後も注目を続けていく。
【参考】
環境省:自然共生サイト等の国際的なデータベースへの登録について(2026年8月3日)
https://www.env.go.jp/press/press_05386.html
環境省:30by30(サーティ・バイ・サーティ)
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/
環境省:地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」の認定 (令和8年度第1回)について
https://www.env.go.jp/press/press_05186.html
環境省:30by30アライアンス 参加団体一覧/活動事例
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/case/
環境再生保全機構:自然共生サイト 認定事例
https://www.erca.go.jp/nature/shizenkyousei/jirei/index.php
UN Environment Programme (UNEP):Protected Planet Report 2024
https://digitalreport.protectedplanet.net/
FAQ
Q. 30by30とは何ですか?
A. 2030年までに、陸と海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという国際目標である。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット3にあたる。生物多様性の損失を止め、回復へ転じる「ネイチャーポジティブ」を実現するための土台となる。
Q. OECMとは何ですか?
A. Other Effective area-based Conservation Measures(その他の効果的な地域をベースとする保全手段)の略。国立公園などの保護地域ではないが、結果として生物多様性の保全に貢献している区域を指す。企業の社有林、社寺林、里山、農地、工場の緑地などが対象になりうる。
Q. 自然共生サイトとOECMは、どう違うのですか?
A. 自然共生サイトは、日本国内で環境省が認定する制度である。そのうち、既存の保護地域と重ならない部分が、国際データベースにOECMとして登録される。つまり、自然共生サイトは国内制度、OECMは国際的な区分と考えるとわかりやすい。
Q. 日本の30by30は、いまどこまで進んでいますか?
A. 2026年8月3日の環境省発表によれば、保護地域とOECMを合わせた保全割合は陸域21.0%、海域13.3%。このうちOECMは陸域の0.2%にとどまる。自然共生サイトの認定は累計610箇所、OECMとして登録された累計面積は64.6千haである。
Q. 目標の30%まで、どれくらい足りないのですか?
A. 陸域では約9ポイント。日本の国土面積に換算すると約340万ha、四国のおよそ1.8倍にあたる。現在のOECM累計6.46万haと比べると、およそ50倍の規模になる。ただし、この差をすべてOECMで埋める必要はなく、既存の保護地域の拡充なども選択肢となる。
Q. 世界の進捗はどうなっていますか?
A. Protected Planet Report 2024によれば、世界の陸域・内水面は17.6%、海域・沿岸域は8.4%。目標まで陸で12.4ポイント、海で21.6ポイント足りない。2020年以降の増加は年0.5ポイント未満で、現在のペースでは2030年の目標達成は難しいとされる。
Q. 地域生物多様性増進法とは何ですか?
A. 2025年4月に施行された法律である。それまで環境省の運用だった自然共生サイトの認定を、法律にもとづく制度に位置づけた。活動は「維持」「回復」「創出」の3タイプに分けられ、認定を受けた区域では手続きの特例などが用意されている。
Q. 企業が自然共生サイトの認定を受けるメリットは何ですか?
A. 自社が保有・管理する土地の生物多様性への貢献が、国の認定と国際データベースへの登録という形で外部から確認できるようになる。TNFDなどの情報開示、ESG評価、地域との関係構築、従業員の参加機会づくりにつながる。認定はゴールではなく、活動を継続・発展させるための起点になる。
Q. どんな場所が認定されていますか?
A. 企業の社有林、社寺林、里山、農地、干潟、湿地、都市の緑地など幅広い。千葉県野田市江川地区(コウノトリと共生する農村)、長野県伊那市鳩吹山(里山保全)、大阪府能勢町(栗の生産地の里山管理)、佐賀県鹿島市七浦地区(干潟とメダカ)、愛知県岡崎市小呂湿地(市内固有種の保護)などが例として紹介されている。
Q. 面積が増えれば、それでよいのですか?
A. 面積は必要条件だが、十分条件ではない。Protected Planet Report 2024は、保護区が実際に生きものを守れているか、地域の人々の権利が尊重されているかを評価するデータが不足していると指摘している。今後は「何ha守ったか」から「そこで何が回復したか」へ、評価の軸が移っていくと考えられる。
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