★ここが重要!

★要点
NEDOと、海洋土木・建設コンサルタントなど4社のコンソーシアム「KAISO BANK」が、北海道・山形・岩手・大分・長崎の5漁港で、海藻の苗を移植してから約1年で「核藻場」をつくることに成功した。
苗をつくる、育てる、海に植えて増やす、ドローンなどで測る。この4工程を一体化した体制を5漁港で構築した。ただし、一部では食害により、核藻場の機能が想定ほど持続しなかった。2030年度の目標は、藻場70ha、年間399t以上のCO2吸収・貯留である。
同じ時期、海藻を「食べる」需要を広げるシーベジタブルの共創プロジェクト「SEA VEGETABLE CYCLE」も始まった。両者は別々の取り組みだが、藻場を再生する技術と、海藻の生産を支える需要を、どうつなげられるかを考える手がかりになる。

★背景
海水温の上昇や、海藻を食べる魚の活発化によって、藻場が消える「磯焼け」が全国の沿岸で深刻になっている。
藻場は魚の産卵場であり、稚魚の隠れ家であり、CO2を吸収・貯留する「ブルーカーボン」の場でもある。藻場が消えれば、漁業も沿岸の暮らしも細っていく。
しかし、海藻は一度植えれば終わりではない。今回の実証でも、食害によって期待した機能が続かなかった場所があった。藻場の再生に必要なのは一度きりの移植ではなく、植え、見守り、必要に応じて手を入れ続ける仕組みである。

コンクリートのブロックに、海藻の苗をはめ込んだ小さなカートリッジを取り付ける。
沈めて、待つ。
長崎県対馬市の豊漁港。磯焼けで岩肌がむき出しになっていた海に、約1年後、アカモクの群落が立ち上がった。
2026年9月29日、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とKAISO BANKは、全国5つの漁港で「核藻場」の造成に成功したと発表した。
核藻場とは、周りの海へ海藻を広げていく起点になる藻場のことだ。点から面へ。海の森を取り戻すための、最初の拠点である。
藻場をつくる技術は、形になりつつある。では、それを10年、20年と回し続ける力は、どこから生まれるのか。
その力を考える手がかりの一つが、私たちの食卓にある。

消えた藻場を、漁港から取り戻す

磯焼けは「海の砂漠化」とも呼ばれる。
地球温暖化による海水温の上昇、海藻を食べる魚の活発化。原因が重なり、コンブやアラメ、ホンダワラ類が茂っていた海底から、森が消えていく。
KAISO BANKは、三省水工、日建工学、アルファ水工コンサルタンツ、三洋テクノマリンの4社が参画するコンソーシアムだ。NEDOのグリーンイノベーション基金事業の一つとして、2022年度から2030年度までの計画で藻場の再生に取り組んでいる。
舞台に選んだのは、漁港である。
波が比較的穏やかで、人の目が届き、船で資材を運べる。漁港を海藻を育て、蓄える「海藻バンク」として使い、そこから周辺の海へ藻場を広げていく。プロジェクト名「漁港を利活用した海藻バンクによるブルーカーボン生態系拡大プロジェクト」には、その考え方がそのまま表れている。
実証フィールドは全国5カ所。海域ごとに、その土地に合った海藻を選んだ。

・北海道神恵内村 神恵内漁港 :ホソメコンブ
・山形県鶴岡市 小波渡漁港  :アカモク
・岩手県陸前高田市 只出漁港 :アカモク
・大分県津久見市 保戸島漁港 :クロメ
・長崎県対馬市 豊漁港    :アカモク

日本海、三陸の太平洋、九州の離島。北から南まで条件の違う海で、そろって核藻場ができた。
この点にこそ、今回の成果の意味がある。

長崎県対馬市豊漁港の磯焼けの状況(左)、基盤ブロックへの海藻カートリッジの移植(中央)、造成した核藻場のアカモク(右)。(出典:NEDO)
全国5漁港の実証フィールドと、それぞれで生産している海藻の種類。(出典:NEDO)

つくる、育てる、増やす、測る——4工程を一つの流れに

KAISO BANKの仕組みは、4つの工程でできている。

・つくる :海藻の種苗(苗)を生産する
・育てる :苗を中間育成し、海で生き残れる大きさにする
・増やす :苗をカートリッジにして基盤ブロックへ移植し、藻場を広げる
・測る  :ドローンなどを使い、広い範囲の藻場を効率よくモニタリングする

今回の成果は、個別の技術だけではない。
藻場をつくる場所の選定から、苗づくり、移植、モニタリングまでを、ひと続きで提供できる体制を5漁港でつくったことにある。
藻場の再生は、これまで地域ごとの手探りに頼る部分が大きかった。苗はどこで手に入るのか。どこに植えればいいのか。根づいたかどうかを、誰がどう確かめるのか。
その一つひとつをつなぎ、地域ごとの海の条件に合わせて展開できる「事業モデル」をめざす。ただし、どの海でも同じ方法で成功することを証明したわけではない。
NEDOは、一部の漁港では食害魚などの影響で核藻場の機能が想定ほど持続しなかったことも明らかにしている。今後は食害対策を含めて技術を改良し、藻場を大規模化する。苗の無償提供と技術支援を通じた需要の把握も進める。
さらに、藻場が吸収・貯留したCO2を「Jブルークレジット®」として取引できるようにし、その収益で地域の藻場づくりを回すビジネスモデルを描いている。

KAISO BANKのシステムフロー。「つくる」「育てる」「増やす」「測る」の4工程で、藻場造成を一貫して支える。(出典:NEDO)

70ha、399t。数字の大きさより、仕組みの広がり

2030年度までに70haの藻場を造成し、年間399t以上のCO2を吸収・貯留する。
70haは70万平方メートル、東京ドームおよそ15個分にあたる。年間399t以上というCO2吸収・貯留量とともに、これは今後めざす事業目標であり、すでに達成した実績ではない。
藻場の再生だけで気候変動が止まるわけではない。
それでも、この数字には別の意味がある。
藻場の価値は、CO2の吸収だけではない。魚が卵を産み、稚魚が育ち、ウニやアワビが餌を得る。海の水を澄ませ、沿岸の漁業を支える。藻場は海の生き物の住処であり、漁師の仕事場の土台でもある。
そして、70haという目標を達成する過程で、地域ごとにどこまで技術を応用できるのかが問われる。
全国への展開には、それぞれの海の水温、食害、生育する海藻などに応じた検証が欠かせない。
藻場を植えた後も、食害を防ぎ、状態を測り、手を入れ続ける担い手と資金が必要になる。
直す技術がそろっても、直し続ける経済がなければ、海の森はまた消える。

北海道神恵内村・神恵内漁港で造成したホソメコンブの核藻場。(出典:NEDO)
山形県鶴岡市・小波渡漁港で造成したアカモクの核藻場。(出典:NEDO)
岩手県陸前高田市・只出漁港で造成したアカモクの核藻場。(出典:NEDO)
大分県津久見市・保戸島漁港で造成したクロメの核藻場。(出典:NEDO)

直す技術を、食べる需要で回し続ける

その「直し続ける経済」の手がかりが、食卓にある。
9月30日、高知県安芸市の合同会社シーベジタブルが、共創プロジェクト「SEA VEGETABLE CYCLE」を始めると発表した。期間は2026年10月から2027年春まで。創業10周年の節目に合わせた取り組みだ。
シーベジタブルは、地下海水を使った青のりの陸上栽培にいち早く取り組み、海面での栽培にも広げてきた。栽培技術の確立から料理の開発までを一貫して手がける、海藻のスタートアップである。
今回のプロジェクトは、海藻を「食べる」という日常の体験を入り口に、海や食文化、地域社会の循環をパートナーとともに広げることをめざす。掲げたテーマは4つ。
人の健やかな暮らし。新しい食文化の探求。沿岸地域に新しい仕事を生む、地域の産業。そして、海藻の海面栽培を増やし、生き物が集う豊かな海をつなぐこと。
パートナーは多彩だ。
公表された計画では、日本橋高島屋は10月7日から20日まで、地下1階の食料品フロアの12ブランドで期間限定メニューを展開する。DEAN & DELUCAは10月2日から「完熟南高梅とすじ青のりの出汁茶漬け」を、菊水堂は10月1日から「できたてポテトチップ シーベジタブル」を展開する。東京建物は11月に、八重洲・日本橋・京橋エリアの飲食店とフェアを開く予定だ。
東急不動産グループは11月27日と28日、千葉県勝浦市のホテルハーヴェスト勝浦で、海藻寿司を中心にした食体験を開く予定だ。勝浦は、2025年に市と漁協などが「勝浦市藻場保全対策協議会」を立ち上げ、藻場の保全に取り組んでいる町でもある。
2027年春ごろには、海藻の消費量や、環境・地域に生まれた変化をまとめた「インパクトレポート」を公開する予定だという。
同社は以前にも、三越伊勢丹とともに「EAT & MEET SEA VEGETABLE」を展開し、120を超える店舗や料理人と170種類以上の海藻メニューを生み出した。期間中の提供は累計5万食を超えた。

ここで大事なのは、藻場の保全と、海藻を育てる産業を、切り離さずに考える視点だ。
海藻が売れ、食べられ、新しい料理が生まれる。その需要が、沿岸で海藻を育てる仕事や担い手を支える可能性がある。ただし、食用海藻の栽培が、そのまま天然の藻場の回復を意味するわけではない。
KAISO BANKが用意したのは、海の森を直す技術だった。SEA VEGETABLE CYCLEが広げようとしているのは、海藻を暮らしに組み込む需要である。
両者は別々の取り組みであり、今回の発表で両事業の連携や、商品の売上をKAISO BANKの藻場再生へ回す仕組みが示されたわけではない。
それでも、並べてみると一つの問いが見えてくる。直す技術と、食べる需要を、どう結びつけるか。環境への効果と資金の流れを確かめながら接続できれば、藻場の再生を、地域で続く営みへ近づけられるかもしれない。
なお、食べる海藻に取り込まれた炭素を、そのまま海中に長期貯留された炭素と数えることはできない。生産量、藻場の回復、CO2の長期貯留は、分けて評価する必要がある。

シーベジタブルが2026年10月から始めた共創プロジェクト「SEA VEGETABLE CYCLE」。
海藻を「食べる」ことを入り口に、人の暮らし、食文化、地域の産業、豊かな海をつなぐ循環のイメージ。
4つのテーマの一つ「生きものが集う豊かな海」。海藻の海面栽培を増やし、生き物がめぐる海の営みをつなぐ。

陸の森にも、手入れの周期がある

海の森を直す話を、陸の森から見直してみる。
10月1日、日本原子力研究開発機構(JAEA)、北海道大学、国立環境研究所の研究グループが、スギの植林地の管理についての研究成果を発表した。
グループは、スギ植林地の炭素収支と林業の経済性を同時に計算するモデルを開発した。伐採の周期や収穫方法、間伐材の利用などを組み合わせた24通りの管理方法を、180年間の林業経営を想定して比較した。
その結果、モデルの前提条件のもとでは、45年周期で伐採し、幹以外の枝などの木質部もバイオマス資源として収穫する「全木収穫」を繰り返す管理が、計算上のCO2吸収量と木材生産利益を同時に最大にする結果になった。
これは、スギ植林地を対象とするモデル上の結果だ。どの土地でも45年が最適だと実証したわけでも、自然林を含むすべての森を伐採した方がよいと示したわけでもない。
全国のスギ植林地約450万haにモデルを当てはめた試算では、幹だけを収穫し、間伐した木は林内に切り捨てる一般的な管理(普通伐期施業)を続けるケースの年平均吸収量は、公表資料が比較に用いた2030年度の森林吸収量目標(年3,120万t-CO2)の約35%。間伐材の利用を進めるケースでは約51%、全木収穫を取り入れるケースでは最大約73%に相当した。
この35〜73%は、現状に上乗せされる削減効果ではない。また、180年間の計算に基づく年平均値を目標量と比較したもので、2030年度までに実現できると予測した数字でもない。
経済性にも条件がある。公表資料では、モデルで想定した管理を持続させるには、林業コストの6割以上に相当する補助が必要だとしている。
ここでも、問われているのは技術だけではない。手入れを続けるためのお金と人を、社会がどう用意するかである。

スギ植林地の葉面積指数(モデルの入力値)の時間変化。(出典:日本原子力研究開発機構)
スギ植林地に対する補助率ごとの、CO2吸収量と木材生産利益。(出典:日本原子力研究開発機構)

海と陸の森を支える、手入れの仕組み

苗をつくり、育て、植え、測る。
育った木を使い、また植える。
今回取り上げた藻場再生や生産林の管理は、一度手を入れれば終わりではない。状態を確かめ、必要な手入れを繰り返すことが、その取り組みを支える。介入の方法も頻度も、海や森の条件に合わせて考える必要がある。
そして、その周期を支えるのは、技術だけではない。
海藻を食べる人、木を使う人、そこに対価を払う仕組み。直す技術と、使い続ける経済が組み合わさったとき、自然の再生は一過性のプロジェクトから、地域の営みへと変わる。
地球の修理とは、壊れたものを一度直すことではない。手入れの周期を、社会の中にもう一度組み込むことなのだ。

参考:

全国5漁港でブルーカーボン増大の起点となる核藻場の造成に成功しました(NEDO)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101966.html

SEA VEGETABLE CYCLE(合同会社シーベジタブル)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000077.000093542.html
https://seaveges.com/pages/sea-vegetable-cycle

スギ林の最適管理が日本のカーボンニュートラル達成の鍵(日本原子力研究開発機構)
https://www.jaea.go.jp/02/press2026/p26100103/

スギ林の最適管理が日本のカーボンニュートラル達成の鍵(国立研究開発法人国立環境研究所)
https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/20261001.html

FAQ

Q. 磯焼けとは何ですか?
A. 海藻が茂っていた海底から藻場が消え、岩肌がむき出しになる現象である。海水温の上昇や、海藻を食べる魚やウニの増加などが原因とされ、「海の砂漠化」とも呼ばれる。全国の沿岸で深刻になっている。

Q. 核藻場とは何ですか?
A. 周りの海へ海藻が広がっていく起点となる藻場のことである。小さな核藻場を各地につくり、そこから藻場を面的に広げていく役割を担う。

Q. ブルーカーボンとは何ですか?
A. 藻場や干潟、マングローブなど、海の生態系が吸収・貯留する炭素のことである。森林などの陸の生態系が吸収する炭素(グリーンカーボン)と並び、気候変動対策の一つとして注目されている。

Q. KAISO BANKとはどのような組織ですか?
A. 三省水工、日建工学、アルファ水工コンサルタンツ、三洋テクノマリンの4社が参画するコンソーシアムである。NEDOのグリーンイノベーション基金事業として、漁港を活用した藻場造成に2022年度から取り組んでいる。

Q. Jブルークレジット®とは何ですか?
A. 藻場などのブルーカーボン生態系によるCO2の吸収量を、クレジットとして認証し、取引できるようにする仕組みである。企業などが購入した資金が、藻場の保全や再生の活動に回ることが期待されている。

Q. 海藻を食べることが、なぜ藻場の再生につながるのですか?
A. 海藻の需要は、栽培や加工の仕事を支える土台になりうる。ただし、食用海藻の栽培と天然藻場の回復は同じではなく、食べること自体をCO2の長期貯留とみなすこともできない。生産が環境の回復につながる条件や、保全に資金が回る仕組みを確かめる必要がある。

Q. スギ林を伐採することが、なぜCO2対策になるのですか?
A. 今回の研究は、スギ植林地で伐採・再植林を繰り返す管理をモデルで比較したものだ。その前提条件のもとで、45年周期の伐採と全木収穫を繰り返す管理が、計算上のCO2吸収量と木材生産利益を同時に最大にする結果になった。すべての森林で伐採が有利になることや、木を燃やせば無条件に排出が相殺されることを示した研究ではない。

Q. 「地球の修理技術」とは何ですか?
A. 失われた自然や、傷んだ環境・インフラを回復させるための技術の総称として、Maintainable®︎NEWSが用いている言葉である。藻場や森林の再生、河川の自然再生、インフラの点検・補修などを含み、技術の段階(研究・実証・実装)とともに記録していく。

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