
★要点
2026年9月、身近な土地や水域の生物多様性に関する発表が相次いだ。神戸港ではコガネヒアリの国内初確認。九州大学では、伊都キャンパスなどで採集されたハネカクシの新種記述。有明海・八代海では、過去の調査と比較した藻場の減少が報告された。
場所も、調査の目的も違う。ただ、どの発表も「調べなければ分からない変化」を捉えている。外来種の侵入を見つけること。身近にいた別種を見分けること。失われた面積を把握すること。管理する土地と、その周辺の自然を見る目が問われている。
ネイチャーポジティブの実務は、開示だけで終わらない。自社の敷地を調べることも入り口になるが、調達先や流域、沿岸など、事業とのつながりに応じて対象を広げる必要がある。
★背景
環境省の2026年6月30日発表では、自然共生サイトは累計610か所となった。これは同発表時点の数値であり、認定数とOECMへの登録面積は同じものではない。現在の制度は、良好な自然を維持する活動だけでなく、自然を回復・創出する活動も対象としている。
また、2026年8月の30by30に関する公表資料では、陸域の保護地域等の割合は21.0%とされ、2030年目標の30%にはなお隔たりがある。
工場の緑地、物流拠点、社有林、マンションの植栽。企業などが関わる土地の管理は、自然との接点の一つだ。ただし、手入れを変えれば必ず生物多様性が増えるわけではない。まず、何がいて、何が起きているのかを知るところから始まる。
神戸港のコンテナヤードの地面で、アリが見つかった。
9月14日、環境省の全国港湾調査で、ヒアリ類と疑われる約1,500個体を確認。ベイト剤が設置された。16日に現地調査を行い、17日には女王アリと幼虫を確認して液剤による集中防除へ。21日に専門家がコガネヒアリと同定した。国内初の確認だった。
9月25日の発表までに確認されたのは、働きアリ約20,000個体、羽アリ約500個体、無翅女王アリ約20個体と、多数の幼虫。これらは一度に数えた個体数ではなく、一連の調査で確認された規模である。
発見から同定まで、1週間。だが、それは根絶が確認されたという意味ではない。調査と防除は続いている。
同じ月、大学キャンパスでは新種の甲虫が記述され、沿岸では藻場の減少が報告された。自然を知る仕事は、遠い原生林だけで行われているのではない。
人が働き、学び、管理する場所からも、始まっている。

出典:環境省「神戸港におけるコガネヒアリの確認について」
物流インフラは、侵入経路でもある
コンテナは、世界を巡る。
貨物とともに、生き物が運ばれることもある。今回の神戸港では、地面だけでなく、コンテナの側面や底面でもコガネヒアリが確認され、防除が行われた。
注目すべきなのは、種の同定が終わるまで対策を待ったわけではないことだ。疑わしいアリを見つけた段階でベイト剤を設置し、女王や幼虫が確認された後には集中的な処置に進んでいる。
ただし、この記録から、現場で毎日調査していたことや、すでに定着阻止に成功したことまでは言えない。確認できるのは、全国港湾調査が発見の契機となり、環境省や自治体などが調査と防除を進めたという経過だ。
物流拠点は侵入の入口になり得る一方、早い段階で異変を捉える場所にもなる。維持管理に引きつければ、故障が目に見えてから対応するだけでなく、兆候を拾い上げる仕事に近い。
施設の点検記録に、外来生物の発見と連絡の手順をどう組み込むか。今回の事例は、その接点を考える材料になる。
自社の土地を調べるということ
九州大学が9月24日に発表したのは、新種「イトセミゾヨツメハネカクシ」(Omalium yasuhikoi)の発見だ。伊都キャンパスと福岡県糸島市内で採集された標本などが調べられた。
よく似た既知種、セミゾヨツメハネカクシと、同じ場所で見つかることもあった。外見が非常によく似ている一方、詳しく調べると、雌雄の生殖器の構造などに違いがあった。
これは、外形が似ているために見過ごされやすい「隠蔽種」の事例である。今回の発表は、DNA解析で新種と判明したという内容ではない。採集と標本比較、細部の形態観察が発見につながっている。
身近なキャンパスでも、生き物の名前がすべて確定しているわけではない。企業の緑地でも、調査の時期や方法、対象とする分類群によって、見えてくるものは変わるだろう。
ただし、企業の自然関連評価を、自社の生き物リストづくりだけに置き換えてはいけない。TNFDのLEAPアプローチは、事業やバリューチェーンと自然との接点を捉え、依存・影響、リスク・機会などを評価する枠組みだ。
敷地を歩くことと、広域のデータを見ることは対立しない。どの地域や工程を優先して調べるかを広い視野で考え、現地調査で確かめる。身近な自然の観察を、事業のつながりを理解する作業へ接続したい。

出典:九州大学研究成果発表
増やす前に、減らさない
回復、再生、増進。ネイチャーポジティブを語る言葉は、増やす方向を向いている。だが、まず把握したいのは、すでにある自然がどれだけ残っているかだ。
環境省が9月4日に公表した有明海・八代海の調査結果では、藻場は両海域計で1,734ha、干潟は22,180haとされた。調査は衛星画像の解析に現地調査を組み合わせている。
前回との比較では、藻場は有明海で約27%、八代海で約72%減少。資料の藻場比較表は、2019年度と2025年度を比べたものだ。有明海の比較対象は南部で、面積は1,456.8haから1,062.1haへ。八代海では2,385.0haから672.2haへ減っている。
干潟は、2018~2019年度と2024~2025年度の調査の比較で、有明海が約6%減、八代海が約11%減となった。いずれも「2026年の1年間で減った割合」ではない。
さらに、この面積比較だけで減少原因まで特定することはできない。なぜ減ったのかを確かめるには、海域の環境や植生の変化などを詳しく調べる必要がある。
新しい保全活動を始めることと、既存の自然の減少を食い止めることは、同じくらい大切な課題だ。増進を語る前に、下げ止めをどう測るのか。それも維持管理の仕事である。

出典:環境省「衛星画像を用いた藻場・干潟等分布状況の把握」2026年9月、資料2ページ(PDF3ページ)
いったん増えると、減らしにくい
長く記録を取ることで、見える変化もある。
北海道立総合研究機構、北海道大学、森林総合研究所、東京農工大学の共同研究グループが9月1日に発表したのは、北海道本島のアライグマの生息密度に関する推定だ。2004年度から2022年度まで、19年間の捕獲数や捕獲努力量などを用いて分析した。
結果は、道央を中心に密度が高かった状態から、東西南北へ分布と高密度域が広がる傾向を示した。また、一度密度が高くなった地域では、その後も高い状態が続く傾向が確認された。
これは全個体を数えた地図ではない。捕獲努力量当たりの捕獲数(CPUE)などを用いたモデルによる推定であり、数値の性格を踏まえて読む必要がある。
記録があれば、どこで対策を急ぐべきかを考えやすくなる。ただし、記録だけで個体数が減るわけではない。監視と防除を組み合わせ、その効果をまた記録する循環が必要だ。
神戸港の1週間と、北海道の19年間。時間の尺度は違うが、発見を次の行動につなげる点では共通している。

Yamaguchi et al.(2026), Journal of Applied Ecology/森林総合研究所プレスリリース掲載図1
開示を、対話と行動につなぐ
こうした現場の話と並行して、企業と投資家の対話も進んでいる。
野村アセットマネジメントは9月4日、責任投資原則(PRI)が主導する自然関連協働エンゲージメント「Spring」で、新たに日系企業1社の共同リードインベスターに就任したと発表した。同社は2024年から参加しており、今回で共同リードを担う対象は合計3社になる。
発表時点で、Springには246の投資家が参加し、その運用資産総額は約20兆ドルとされた。これは参加投資家が運用する資産の合計であり、20兆ドルが自然保全に投じられるという意味ではない。活動の焦点は、森林損失や土地劣化に関わる企業との対話にある。
開示と対話は、単純に前後に分かれた段階ではない。企業の説明をもとに投資家が問い、その問いが企業の行動や次の開示につながる。
そのとき、現場に何が残っているか。生物調査の記録、緑地管理の履歴、調達先との協議、対策後の変化。事業に応じた記録が、説明の中身を支える。
見えないつながりにも、目を向ける
最後に、夜の水辺の研究を一つ。
京都大学が9月25日に公表したのは、ハリガネムシに寄生された夜行性のカマドウマが、いつ水に入るのかを調べた研究だ。日中活動する宿主の水面への誘導では光の手がかりが研究されてきたが、夜行性の宿主では何が起きているのかを検討した。
調べた条件では、満月夜と新月夜の入水頻度に差はなかった。これは、月の明るさだけでは入水を説明しにくいという結果であり、光の影響があらゆる条件で存在しないことを証明したものではない。
キャンパスで見過ごされていた別種も、夜の水辺で起きる寄生者と宿主の関係も、眺めているだけでは分かりにくい。自然の状態を知るには、問いに合った調べ方がいる。
港を調べる。標本を比べる。沿岸を衛星と現地で調べる。捕獲記録を19年分つなぐ。夜の水辺を観察する。
ネイチャーポジティブの第一歩の一つは、いまも、調べることにある。そして次の一歩は、その記録を、管理を変える判断につなぐことだ。
参考:
環境省|神戸港におけるコガネヒアリの確認について(2026-09-25)
https://www.env.go.jp/press/press_05643.html
九州大学|伊都キャンパスと糸島市内で新種の甲虫を発見(2026-09-24)
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1562
環境省|有明海及び八代海における藻場・干潟分布調査(2026-09-04)。比較表は付属PDF3ページ
https://www.env.go.jp/press/press_05394.html
森林総合研究所ほか|アライグマの生息密度の時空間変化(2026-09-01)
https://www.ffpri.go.jp/press/2026/20260901/index.html
野村アセットマネジメント|Springの共同リードインベスターへの追加就任(2026-09-04)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000280.000084182.html
京都大学|カマドウマは満月の夜に水に飛び込むのか(2026-09-25)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-09-25-1
環境省|2026年度第1回自然共生サイト認定(2026-06-30。610か所はこの時点)
https://www.env.go.jp/press/press_05186.html
環境省|30by30ロードマップ中間評価(2026年公表資料)
https://www.env.go.jp/content/000431285.pdf
TNFD|Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: the LEAP approach, Version 1.1(2023-10)
https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/LEAP-Guidance-PDF-October.pdf
FAQ
Q. コガネヒアリとは何ですか?
A. 学名はSolenopsis aurea。2026年9月に神戸港で国内初の確認が発表されたヒアリ類の一種で、環境省や自治体などが調査と防除を進めている。
Q. 今回はどこで見つかったのですか?
A. 9月14日の最初の確認はコンテナヤードの地面だった。その後、地面やコンテナの側面・底面などでも確認されている。発見場所と一連の確認場所を分けて把握する必要がある。
Q. 隠蔽種とは何ですか?
A. 外見がよく似ていて見分けにくいものの、詳しい調査によって別種と判断される生物を指す。今回のハネカクシでは、生殖器の構造などの形態の違いが識別に重要だった。
Q. 企業のTNFD対応は、敷地の生き物を調べれば十分ですか?
A. 十分ではない。事業とバリューチェーンが自然にどう依存し、どんな影響を与え、どんなリスクや機会を持つかを評価する必要がある。敷地調査は、そのための手段の一つだ。
Q. 藻場27%・72%減とは、いつからいつまでの変化ですか?
A. 今回の公表資料の藻場比較表では、2019年度と2025年度の比較である。有明海の比較対象は南部で約27%減、八代海は約72%減。2026年の単年の減少率ではない。
Q. 外来種対策では、記録だけを続ければよいのですか?
A. 記録は発見や優先順位づけ、対策の評価に役立つが、防除そのものの代わりにはならない。監視と必要な対策を組み合わせて続けることが重要だ。
Q. 自然関連エンゲージメントとは何ですか?
A. 自然に関する課題について、投資家が投資先企業と対話し、対応を働きかける活動をいう。Springでは、森林損失や土地劣化などが主要な対象となっている。
Q. 自然共生サイト610か所は、現在の最新件数ですか?
A. 本稿で用いた610か所は、環境省の2026年6月30日発表時点の累計だ。制度の対象には自然の維持・回復・創出に関する活動があり、認定件数をそのままOECM登録数や登録面積と読み替えることはできない。
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