
★要点
日本自然保護協会(NACS-J)は10月17日、「日本自然保護大賞2026」の受賞者を発表した。全国72件の応募から、大賞には藤前干潟を守る会、グラウンドワーク三島、西宮市立山口中学校 モリアオガエル保存会の3団体が選ばれた。
受賞活動には、開発による損失を防いだ干潟の保全から、川やため池、棚田の再生まで、種類の異なる仕事が並ぶ。特別賞・沼田眞賞を受けた九州大学 流域システム工学研究室の上西郷川の再生について、受賞理由は魚の確認種数が約3倍、個体数が11倍になったと紹介している。
同じ秋、足尾では植樹の累計が32万本を超え、神戸の里山では企業と自治体の協定が結ばれた。アマゾンジャパンも、全国20か所・計100ヘクタールの森林再生と生物多様性保全を支援する計画を発表した。
守った面積、植えた本数、投じた資金。それらを自然の状態の改善につなぐのは、現場に通い、確かめ、手入れを続ける人々である。
★背景
2030年までに陸域・内陸水域と海域・沿岸域のそれぞれ少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」。日本では、民間や自治体などが取り組む区域を「自然共生サイト」として認定する制度が進む。2025年4月施行の地域生物多様性増進法では、生物多様性の維持だけでなく、回復・創出の活動計画も認定の対象となった。
10月19日には、アルメニアで生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が開幕した。
ただし、保全する場所を確保することと、劣化した生態系を回復させることは、同じ作業ではない。開発を防ぐ、傷んだ環境を再生する、良好な状態を維持する。それぞれの場所に必要な仕事を見極めたい。
干潟を残すために、街のごみの出し方を変える。
名古屋市の藤前干潟をめぐって起きたのは、自然保護が都市の暮らしの仕組みまで動かす出来事だった。
名古屋市の年表によれば、1981年7月、藤前干潟の一部である西1区が、名古屋港の港湾計画で廃棄物処理用地等に位置づけられた。保全を求める運動や環境への影響をめぐる議論を経て、名古屋市は1999年、埋め立て計画の中止を決断。ごみの減量と分別・リサイクルへ大きくかじを切った。
2002年には、名古屋市と飛島村にまたがる323ヘクタールがラムサール条約湿地に登録され、2025年には名古屋市がラムサール条約湿地都市に認証された。
その保全を続けてきた藤前干潟を守る会が、日本自然保護大賞2026に選ばれた。
受賞者の一覧には、干潟だけでなく、川、ため池、棚田、森の仕事が並ぶ。自然を守り、直すとは何をすることなのか。地域に積み重なった時間から考えてみたい。
干潟を守ることが、都市の仕組みを変えた
日本自然保護大賞は、自然保護や生物多様性の保全に貢献した取り組みを表彰する賞だ。12回目となる2026年は、保護実践、教育普及、子ども・学生の3部門に72件の応募があった。
保護実践部門の大賞は、NPO法人藤前干潟を守る会。受賞理由によると、その活動は、1984年に名古屋市が干潟を廃棄物の最終処分場として埋め立てる計画を発表したことに始まる。
藤前干潟は、伊勢湾の最奥部、庄内川、新川、日光川の河口に広がる。ゴカイや貝類などの底生動物が豊富で、シギ・チドリ類の渡りの中継地として重要な位置を占めている。
名古屋市の年表では、西1区の計画面積は105ヘクタールから52ヘクタール、さらに46.5ヘクタールへと縮小された。そして1999年2月、市会の臨時議会で埋め立て事業の中止が表明された。
同じ1999年の2月18日、名古屋市は「ごみ非常事態」を宣言した。ごみ処理量が年100万トンに迫り、市の処理能力が限界を迎えるなかで、愛岐処分場に次ぐ新たな埋立処分場の計画を中止したためだ。市は、市民・事業者・行政の協働によって、20世紀中にごみ処理量を20%減らすよう呼びかけた。
この干潟は、一度埋め立てた場所を造り直した再生地ではない。失われそうだった自然を残し、そのために社会の側を変えた場所だ。「修理」の対象には、生態系だけでなく、資源を使い捨てる都市の仕組みも含まれていた。

汚れた川を、もう一度「生きものの川」へ
教育普及部門の大賞、グラウンドワーク三島の舞台は、静岡県三島市だ。
富士山の湧水に恵まれた「水の都」では、1960年代、産業活動の活発化に伴う地下水のくみ上げで、水辺の自然環境が悪化した。1992年に発足した同団体は、市民、NPO、企業、行政と協働し、源兵衛川や境川など3つの川を中心に、水辺の再生と環境教育を続けてきた。
受賞理由によれば、34年間に75か所で環境保全に取り組み、「環境の防人」と呼ぶ人材の育成も進めている。川を直すだけでなく、川に関わり続ける人を育てる仕事である。
特別賞・沼田眞賞の九州大学 流域システム工学研究室も、川の再生を担ってきた。
福岡県福津市の上西郷川では、両岸をコンクリートで固めた二面張りの川を、自然の営みを生かした川へと再生した。受賞理由では、魚の確認種数が約3倍、個体数が11倍になったと紹介されている。これは当該の川で公表された成果であり、どの川でも同じ倍率が得られるという意味ではない。
川の再生は、単に護岸を取り除けばよいわけでもない。治水と土地利用の条件を踏まえながら、生きものが利用できる水際や流れの変化をどう取り戻すか。その設計と、その後の観察を地域で続けることが重要になる。
同研究室は、住民、行政、学校、NPOなどと共創しながら、国内30以上の河川・地域に関わってきた。16年以上にわたる環境教育の受益者は、延べ1万5千人を超えるという。ここでも、川の変化と、人の学びが結びついている。


中学生のため池、約20年の棚田
子ども・学生部門の大賞は、兵庫県の西宮市立山口中学校 モリアオガエル保存会だ。
モリアオガエルの保全を続けていた理科部は、2017年に廃部となり、活動の継続が危ぶまれた。翌2018年、生徒と教職員が保存会を立ち上げ、ため池の再生や地域との連携を続けてきた。部活動がなくなっても、守る仕組みをつくり直したのである。
選考委員特別賞のNPO法人棚田LOVERSは、2007年から地域住民とともに棚田の再生に取り組んできた。受賞理由では、耕作放棄された棚田23枚を再生し、2025年の比較調査で、長く放置された休耕田では植物25種、再生した棚田では73種と、約3倍の植物が確認されたと紹介されている。
これは、管理の状態が異なる場所を比べた数字だ。同じ田んぼの植物が、再生前の25種から再生後の73種へ増えたことを示す前後比較ではない。手入れが生きもののすみかにどう関わるかを考える手がかりとして読みたい。
大阪府の「鉢伏山 Nature Positive Project」も選考委員特別賞に選ばれた。企業、自治会、森づくりの会、森林組合が協働する取り組みである。入選には、鹿児島県指宿市山川でアマモ場の再生に取り組む「山川海のゆりかごを守る会」なども名を連ねた。
干潟、川、ため池、棚田、森、海の草原。受賞の一覧は、守る対象と、それを支える人々の多様さを伝えている。


守られた干潟にも、手入れは続く
大賞の発表に先立つ10月10日、藤前干潟では、三菱重工グループの従業員と家族約30人が、マイクロプラスチック回収のボランティア活動に参加した。
主催は日本NPOセンターと藤前干潟を守る会。環境省中部環境パートナーシップオフィスが協力し、三菱重工グループが協賛した。
参加者は、四日市大学の千葉賢客員教授によるオンライン講義で汚染の状況を学び、潮が引く時間帯に干潟の生きものを観察したあと、ごみの回収と、小さなプラスチック片の分類に取り組んだ。発表によれば、結果は後日、藤前干潟協議会に報告し、地域の関係者による対策の検討につなげる予定だ。
同グループは、2023年の調査で、国内外の12拠点が藤前干潟を含む19の生物多様性の重要地域に近接していることを確認したという。藤前干潟の近くには、名古屋航空宇宙システム製作所の飛島工場がある。
一度の清掃で、流れ込むプラスチックの問題を解消できるわけではない。残っているごみを回収することと、どこから何が来るのかを記録し、流入を減らすこと。その両方をつなぐ手入れが必要になる。


公害の山に、32万本の植樹の記録
栃木県日光市足尾町。かつて足尾銅山の煙害などによって、周辺の山々の緑が失われ、荒廃した斜面が広がった。
NPO法人足尾に緑を育てる会は、1996年から緑化活動を続けてきた。デクセリアルズの発表によると、2026年9月末時点の累計植樹本数は328,091本、参加者は延べ241,821人に達する。
10月3日には、デクセリアルズの役員・社員と家族102人が久蔵口植樹地を訪れ、およそ100本の苗木を植えた。同社の参加は2009年から続き、今回で15回目。植樹に加えて足尾銅山記念館も見学し、山が荒れた歴史を学んだ。
32万本という数字は、30年にわたる作業の積み重ねを示す。ただし、いま生きている木の本数や、生態系の回復の度合いそのものを示す数字ではない。
植えたあとにどれだけ育ち、土や植生の状態がどう変わったのか。植樹の実績を、育樹と観察につなげていくことが、長い再生の時間を支える。

企業が「手入れ」に加わる——神戸の里山と、全国20か所の森
地域が続けてきた活動を、企業の資金と人手で支える動きも広がっている。
東亜建設工業は10月13日、神戸市、公益財団法人森林文化協会と、自然共生サイト「神戸の里山林・棚田・ため池」の保全・再生活動に関する協定を結んだと発表した。
神戸市北区山田町のこの区域は、2023年10月に自然共生サイトに認定され、2024年8月にはOECMの国際データベースに登録された。希少な動植物の保全のための環境整備、大学や市民団体と連携した生物モニタリング調査、耕作放棄された棚田や畑の再生、森林や竹林の整備などを進める場所である。
東亜建設工業は、協定に係る活動費用を神戸市に、広報などの費用を森林文化協会に寄付する。従業員と家族による森林管理・再生活動への参加は、2026年12月に予定されている。
10月14日には、アマゾンジャパンが、全国20か所・計100ヘクタールの森林再生と生物多様性保全を、5年間で2億2,000万円の投資によって支援すると発表した。
国土緑化推進機構と連携し、日本森林技術協会の支援を受けて活動計画を立て、OECM認定の取得をめざす。バイオームのAIを活用し、植物を中心とした森林の生物多様性の回復状況を測定・可視化する計画だ。
20か所のうち、すでに複数のサイトが活動を始めている。ただし、全体はこれから5年をかけて進める計画で、OECMの認定もこれからだ。
資金が届くことは出発点だ。その先で、何を保ち、何が回復したのかを確かめていく。


自然の修理は、通い続ける人を支えることから
藤前干潟を守る活動は40年以上、三島の川の再生は34年、足尾の植樹は30年。棚田LOVERSの活動も、2007年から約20年続く。
これらを支えてきたのは、現場の経験と科学的な知見を結びつけ、地域の人、研究者、企業、行政が関わりを更新してきた時間である。新しい技術か、地道な活動か、という二者択一ではない。
藤前干潟では、失われそうな自然を守るために都市の仕組みを変えた。川や棚田では、環境を再生し、変化を調べてきた。森林では、植える活動を育てる仕事へつなぐ必要がある。
何を守り、何を直し、どの変化を確かめるのか。その違いを見失わずに、担い手と資金をつないでいく。
地球の修理を続けるには、自然だけでなく、そこへ通い続けられる社会の仕組みも手入れしなければならない。
参考:
「日本自然保護大賞2026」受賞者決定(日本自然保護協会)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000221.000027546.html
日本のラムサール条約湿地「藤前干潟」(環境省)
https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/ramsarsitej/RamsarSites2025_Jp43.pdf
藤前干潟の保全・活用の経緯(名古屋市)
https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/465/keii.pdf
ごみ非常事態宣言について(名古屋市)
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/gomi/1012351/1012393/1012394.html
藤前干潟とラムサール条約(名古屋市)
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/kankyou/1012463/1034808/1012465.html
藤前干潟でマイクロプラスチック回収のボランティア活動に参加(三菱重工業)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000829.000025611.html
【デクセリアルズ】栃木県日光市足尾町で植樹活動を実施(デクセリアルズ)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000064805.html
自然共生サイトの保全・再生活動に関する協定の締結について(東亜建設工業)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000180723.html
全国20か所で森林再生と生物多様性保全活動に投資(アマゾンジャパン)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002198.000004612.html
地域生物多様性増進法に基づく自然共生サイトの認定(令和8年度第1回)について(環境省)
https://www.env.go.jp/press/press_05186.html
FAQ
Q. 日本自然保護大賞とは何ですか?
A. 日本自然保護協会が、自然保護や生物多様性の保全に貢献した活動を表彰する賞である。日本で自然保護憲章が制定されて40周年の2014年に設けられた。2026年で12回目となり、保護実践、教育普及、子ども・学生の3部門に72件の応募があった。
Q. 藤前干潟の埋め立て計画は、いつからあったのですか?
A. 名古屋市の年表では、1981年7月、干潟の一部である西1区が名古屋港の港湾計画に廃棄物処理用地等として位置づけられている。日本自然保護協会の受賞理由は、藤前干潟を守る会の活動が1984年の名古屋市による埋め立て計画の発表に始まったとしている。計画は縮小を経て、1999年2月に中止が表明された。ラムサール条約湿地の登録区域は名古屋市と飛島村にまたがる323ヘクタールで、2002年11月18日に登録された。
Q. コンクリート二面張りの川とは何ですか?
A. 両岸をコンクリートで固めた川のことである。上西郷川の再生について、日本自然保護協会の受賞理由は、魚の確認種数が約3倍、個体数が11倍になったと紹介している。この川で公表された成果であり、すべての川で同じ効果を保証する数字ではない。
Q. 足尾の32万本は、いまある木の本数ですか?
A. いま生きている木を数えた数字ではなく、1996年から続く活動で植えた本数の累計である。デクセリアルズの発表では、2026年9月末時点で328,091本。生き残った割合や植生の回復の度合いとは区別して読む必要がある。
Q. 自然共生サイトとOECMは、何が違いますか?
A. 自然共生サイトは、日本の認定の仕組みである。現行の地域生物多様性増進法では、生物多様性の維持・回復・創出の活動計画を国が認定する。OECMは、保護地域以外で生物多様性の保全に貢献する区域を指す国際的な考え方で、環境省によると、維持タイプは保護地域との重複を除いた区域を、回復・創出タイプは活動を続けて価値基準に合致した時点で、国際データベースに登録する予定とされる。認定が、そのまま回復の完了やOECM登録を意味するわけではない。
Q. 企業の資金が入れば、自然は回復しますか?
A. 資金や人手は継続的な活動を支えるが、投じた金額だけで回復を判断することはできない。何を維持・改善するかを定め、植生や生きもの、生息環境などの変化を確かめながら、必要に応じて管理を見直すことが重要になる。
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