2024年1月、救急救命学の専門家を中心に設立された一般社団法人OPHIS(オピス)が、日本の救急搬送システムのアップデートに挑む。日本全国で増え続ける救急出動件数と、それに伴う搬送体制の逼迫が深刻化する中、救急の現場での経験と学術的知見を生かした新たなシステムの構築を目指す。
救える命を増やすために立ち上がったOPHIS
OPHISの代表理事を務める匂坂量氏は、国士舘大学防災・救助総合研究所の講師であり、救急救命学博士としての経験を有する。匂坂氏の原点は、大学院時代に非常勤救急救命士として現場に立った経験にある。現場で目の当たりにした救急搬送の過酷な労働環境や救急隊員の疲弊は、少子高齢化が進む日本社会において今後さらに悪化する懸念があった。
匂坂氏は、救急医療の根本的な課題は119番通報時の救急搬送体制そのものであり、この課題解決には多くのステークホルダーが連携する必要があると考え、2024年1月にOPHISを設立した。
OPHISが掲げるビジョンは、「官民連携型救急搬送システム」の実現だ。これは、救急医療体制に民間の患者搬送事業者を組み込み、公的救急車との連携を強化する仕組みだ。この新システムにより、救急出動の逼迫を解消し、重症患者の元に迅速に救急車が到着できるようになることを目指す。
具体的には、病院間の患者搬送(転院搬送)や軽傷者搬送を民間搬送車両に委託し、公的救急車は重症患者の搬送に専念できる体制を構築する。このシステムは、アメリカやシンガポールの救急体制を参考にしているが、日本独自の仕組みを構築する必要がある。
OPHISは、地域ごとに「官民連携型救急搬送システム」の構築を目指して活動している。これには、地域の消防、病院、自治体、民間患者搬送事業者、介護福祉施設など、多くの関係機関が協力している。各地域での意見交換やルール整備、事業計画の検討が進んでおり、システムの社会実装に向けた準備が進行中だ。匂坂氏は、当初は長期的な取り組みを覚悟していたが、設立からわずか半年で予想を上回る進展が見られたと語る。各地域での調査や調整、政策提言の場での前向きな支援を受け、今後の展望が明るいことが伺える。
OPHIS副代表の前原氏は、救急搬送の課題が広く知られていない現状に問題意識を抱いている。この課題を広く社会に伝え、解決に向けて周囲を巻き込んでいくための事業づくりに取り組んでいる。
OPHISは「SoilxPolicy Fund」の支援を受け、社会的課題に取り組むための寄付基金の支援団体に採択された。これにより、ルールメイキングの専門家からの支援を受け、救急医療体制の持続可能性を目指す。
OPHISの挑戦は、当初は法的な懸念や市民の安全性、予算の問題など多くの課題があった。しかし、これらの課題を乗り越え、関係機関の知見や力を結集することで、持続可能な救急搬送システムの実現が見えてきた。
OPHISは、今後も引き続き、社会にとって必要不可欠な救急搬送システムの構築に注力する。関係機関や支援者の期待に応え、救える命を増やすための取り組みが続けられていく。
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