
★要点
隠岐諸島・海士町の宿泊施設「Entô(エントウ)」が、Japan Travel Awards 2026「サステナブル部門」を受賞。景観保護や地元調達・雇用に加え、アクセシビリティを設計思想から組み込む“社会的包摂”が評価軸になった。
★背景
観光は地域の稼ぐ力になり得る一方、移動由来の排出や混雑で地域を摩耗させもする。いま問われているのは「来てもらう」ではなく「地域に価値が残る設計」——持続可能から、回復・再生(リジェネラティブ)へ。
旅は、風景を消費する行為から、風景を支える関係へ。そんな価値観の転換を、最前線の“宿”が引き受け始めた。島根県・隠岐諸島の海士町にある「Entô」が、Japan Travel Awards 2026のサステナブル部門を受賞した。評価されたのは、環境配慮だけではない。地元とともに成り立つ経済、島民と来訪者が交わる公共空間、そして誰もが尊厳をもって滞在できるアクセシビリティ。宿が地域の未来を編む“拠点”になる時代が来ている。
「泊まれる拠点」が観光を“公共”に変える。地域還元を仕組みにする
Entôは、単に“いいホテル”として完結しない設計を採る。リリースによれば、地元調達や雇用創出、島民と来訪者が交わる共有空間を通じて、地域への価値還元を意図的に組み込んできたという。観光が外貨を落として去るだけの構造では、人口減少の島は持たない。だからこそ、宿泊の売上が地域の仕事と循環に接続されることが重要になる。
さらに特筆すべきは、“社会的包摂”をサステナブルの中心に据えた点だ。アクセシビリティを設計思想から組み込み、「開かれた持続可能性」を実装する。旅は体力や言語、経済状況で分断されやすい。そこに橋を架ける発想は、観光を「市場」から「社会装置」へ引き上げる。

サステナブルの敵は「移動」だけではない。混雑、摩耗、そして“短期消費”
観光の環境負荷は、施設の省エネだけで片付かない。移動が増えれば排出は増える。さらに、混雑は生活の質を削り、地域の合意形成も難しくする。世界的に“オーバーツーリズム”が問題化してきた背景には、短期滞在・集中来訪・SNS映え偏重がある。
その意味で、島の宿が目指すべきは「客数最大化」ではなく「滞在価値の最大化」だろう。長く滞在してもらう。地域のガイドや食、文化に触れてもらう。支出が分散して地域に残る。結果として、同じ来訪者数でも“摩耗”が減る。サステナブルが、倫理ではなく設計の問題であることが見えてくる。
ジオパークの“学び”を宿に引き寄せる。隠岐の地形が持つ物語
Entôは「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」の拠点施設としての位置づけも持つ。ジオパークは、地形・地質の価値を核にしつつ、教育や地域の持続可能な発展と結びつける枠組みだ。つまり、風景は“消費財”ではなく“学びの資本”になる。
ここで宿の役割が立ち上がる。到着して寝て帰るだけでは、地形の物語は通過してしまう。宿が、展示・案内・体験設計のハブになることで、旅は「見る」から「理解する」へ変わる。理解は、保全への合意を生む。観光を地域の保全コストに回せる状態こそ、循環型の観光だ。

“環境”“経済”“包摂”を測れる観光へ
Entôの受賞が示したのは、サステナブルの採点表が変わり始めた事実だ。次に必要なのは、良い事例を「真似できる形」に落とすことだろう。
第一に、可視化。エネルギー使用量や廃棄物だけでなく、地元調達比率、地域雇用、アクセシビリティ対応などを、無理のない範囲で公開していく。サステナブルは“言った者勝ち”になりやすい。だから指標が要る。
第二に、体験の再設計。短期消費から、学びと関係の滞在へ。地域の自然・文化の保全活動に触れる導線は、旅の満足度を上げながら、地域の回復力も上げる。観光庁の「サステナブルな旅アワード」が“再生(リジェネラティブ)”視点の商品を評価した流れとも接続する。
第三に、包摂の標準化。アクセシブルな宿・交通・案内は、福祉ではなく観光の品質だ。誰が来ても尊厳を損なわない受け入れが整えば、地域は“強く”なる。Entôはその現場回答になっている。
旅は、地球環境と地域社会の両方に触れる行為だ。だからこそ、宿の設計一つが、観光の未来を変える。島の小さな拠点が受賞したニュースは、観光産業の価値基準が、静かに書き換わりつつあるサインなのだろう。
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