
★要点
神奈川県茅ヶ崎市で始動した「茅ヶ崎ふるさと里山モデル」は、環境保全を目的化せず、暮らしや人のつながりの中から結果として自然が守られる仕組みを設計。学校・企業・地域を横断する新たな地域循環モデルとして注目される。
★背景
気候危機や地域コミュニティの崩壊が進む中、「正しさ」や「義務」では持続しない環境活動の限界が顕在化。生活と切り離さない“再生型(リジェネラティブ)”の発想が求められている。
環境を守ろうとしても、人は長く続かない。だが、人と人が集まり、心地よい時間が流れる里山には、結果として自然が残る。神奈川県茅ヶ崎市で始まった「茅ヶ崎ふるさと里山モデル」は、この逆転の発想を軸にした地域づくりだ。環境問題を“入口”にせず、あくまで暮らしの延長線上に、里山の再生を置く。そこには、これからの持続可能性の現実解がある。
“守る”をやめる。環境を目的にしないという選択
「茅ヶ崎ふるさと里山モデル」のモデルの明確な特徴は、「環境保全」を掲げずに、むしろ意識的に外している点だ。
人々が畑に通う理由は、主として環境意識ではない。野菜を育てる楽しさ、季節の手仕事、誰かと過ごす時間の豊かさ。こうした文化的な暮らしの心地よさに惹かれて、人々は畑に通う。その副産物として、里山が維持される構造だ。
従来の環境活動は「正しさ」に依存してきた。だが正しさは、忙しい日常の前では弱い。それが生活の負担になるとしたら、人々は諦めるしかなかった。
本モデルはそこを見抜き、行動の動機を“楽しさ”や“関係性”に置き換えることで、持続性を担保する設計を実現した。

子どもが起点になる循環――教育・地域・行政を横断
このモデルのもう一つの核は、子どもだ。
茅ヶ崎市内の小中学校と連携した環境教育プログラムは、地域の農や課題に触れ、子ども自ら問いを立て、行動へとつなげる探究型として設計されている。これは単なる体験学習にとどまらず、実際に子どもたちが農業の課題を自分ごととして捉え、行政へ働きかける動きまで生んでいる。
こうした、教育が教室を出て地域へ接続し、子どもを中心に、学校・地域・行政がゆるやかにつながるモデルから、新しい公共の形が見えてくる。
教育を知識の習得では終わらせずに、さらに関係性の中で学びを循環させる。
それは、地域の担い手を内側から育てる仕組みでもある。


企業も“参加者”になる。CSRから共創へ
企業の関わり方も変わる。
企業の従来のCSR活動は、単発のボランティアや寄付にとどまりがちだった。しかしこのモデルでは、企業も継続的な“参加者”として位置づけられる。
社員が里山で農作業に関わる。里山では肩書を外し、自然の中で共同作業をする。そこから生まれるのは、環境貢献だけではない。それは、企業の中にいるだけでは生まれにくい、組織内の関係性の再構築や価値観の共有だ。
環境活動が福利厚生や人材開発にまで接続される。
企業にとっても、合理的な参加理由がある設計といえるだろう。
結果として、地域と企業の関係は一過性のものではなく、持続的な共創へと変わっていく。
都市近郊というリアリティ――拡張可能なモデル
茅ヶ崎という立地も重要だ。
都市と里山が隣接する環境。人々は簡単にアクセスできるし、自然もしっかりと残る。この“中間地帯”こそが、モデルの持続的実装を可能にしている。
完全な田舎ではない。完全な都市でもない。この曖昧さが、多様な人の参加を許容する。
全国を見渡せば、同様の条件を持つ地域は多い。
つまり、このモデルは茅ヶ崎ローカルに閉じない。横展開可能な設計ということだ。
重要なのは、仕組みそのものよりも「人と自然との関係性のデザイン」だろう。
人が関わり続ける構造をどう作るか。それが再現性の鍵になる。

再生は“技術”ではなく“関係”から始まる
気候変動、生物多様性の喪失、地域の衰退。課題は複雑化している。
だが解決策は、必ずしも高度な技術ではない。
「茅ヶ崎ふるさと里山モデル」が示すのは、極めてシンプルな事実だ。
人と人がつながる場所には、自然を残せる。
これは、都市における循環建築の動きとも通底する。モノを循環させるか、関係を循環させるか。アプローチは違えど、本質は同じだ。
持続可能性とは、断絶を減らし、つながりを増やすことに他ならない。
暮らしの中に、小さな豊かさを組み込む。
その積み重ねが、結果として地球環境を支える。
環境は“守り育てるもの”ではなく、“育つもの”へ。
その転換が、このモデルから始まっていく。
■プロジェクト配信者
NPO法人ふるさとファーマーズ
Instagram:https://www.instagram.com/furusatofarmers
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