「十年賞」という建物運用を評価する賞
建築の分野に、空気調和・衛生工学会という学会があって、そこに「十年賞」というものがあります。
どういう賞かと言うと、建物を建てた後の10 年間の運用実績で、その建物を評価しますというもの。つまりこの意味は、建物は建てたら終わりではないですよということです。この十年賞を通してどんな結果が出てきているかと言う と、だいたい20%ぐらいはエネルギー使用量が減っている
ということです。 建物を建てた後でも、建物と設備を毎年きちんと見て改善していると、その建物の体質に見合ったエネルギー使用状況にどんどんチューニングされていって省エネ性能が上がっていきます。
『Society 5.0』(日本経済新聞出版社)
粒の細かいデータが重要
建物のエネルギー使用量は、設備管理上のいろいろなロジックやパラメータによっても左右されています。
それらを適切なものにしていくためには、時間的にも空間的にも高密度で非常に「粒の細かい」データが必要になります。
このデータをどのように得て、どう活用していくか、という部分が、実はとても大切なのですが、これまでの建築ではこの点をあまり重視してきませんでした。なので、設計施工がそういうデータの取得や活用を想定したものに必ずしもなっていません。
ですが、これからの時代では、建てた後の運用においても、省エネなどに限らず、どういう価値を生み出していけるかということを考えていく必要があります。そのためにも高密度な粒の細かいデータが重要になります。
これらのデータは、建物のどこをどのように改修すべきなのか、あるいは大規模に建替えなければならないのか、といったライフサイクル上の重要な判断にも活用できます。
AI、IoTが建物の運用管理を変えていく
そのデータ収集や分析をこれまでは手作業で行っていたわけですが、AIやIoTによって短時間でたくさんの最適なチューニングができる可能性がでてきたと思います。
このAIやIoTの導入によってマネジメント効率も高くなり、ハイサイクルでPDCAを回していくことができるようになります。それはカーボンニュートラルへの取り組みにもつながります。
まさに建築の分野でも、データサイエンスを取り入れた建築にしていく考え方が出てきたという事だと思いますね。
運用時でも建築はいろいろなことがやれるはず
東大建築では建築情報学や建築都市DX研究会を新しく立ち上げ、そこで議論していることを社会に発信することを始めています。運用時のデータ活用が建築のさまざまな分野においても大きな役割を果たすようになりつつあります。
私は、建物の運用時でも建築にはさまざまなことができると思っています。たとえば建具の置き方一つで空間内の気流は変わるし、窓からの採光状態も変わります。もちろん空間の見え方も印象も同時に変わりますよね。
建築設備だけでなく、建築デザインも含めて、データを媒介にした総合的な視点からの評価と運用はこれからますます重要になっていくと思います。
赤司泰義 Yasunori Akashi
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 1966年福岡県生まれ。専門は建築環境・設備。一般社団法人建築設備技術者協会会長、NPO法人建築設備コミッショニング協会副理事長、 IEA/EBC/Annex 81“Data-Driven Smart Buildings”日本委員会委員長など。
Interviewer Ichiro Uchino Photo Hiharu Takagi