★ここが重要!

★要点
東京大学では、コンクリートに固定されたCO₂を正確に測定する新手法と、グリーン水素を常温常圧の液体として運ぶ新エネルギーシステムが相次いで実証された。脱炭素社会の実現に向け、「減らす」だけでなく「測る」「運ぶ」という基盤技術の開発が進んでいる。
★背景
世界では再生可能エネルギーやCCUS(CO₂回収・利用・貯留)の導入が加速している。しかし、CO₂削減量を正確に証明する仕組みや、再エネ由来エネルギーを効率よく貯蔵・輸送する技術は依然として大きな課題だ。脱炭素の次の競争軸は、「技術そのもの」から「社会実装を支えるインフラ」へ移りつつある。

脱炭素社会に必要なのは、革新的な発電技術だけではない。
削減したCO₂を正しく証明する仕組み。再生可能エネルギーを必要な場所へ届ける仕組み。その“裏方”がなければ、どれほど優れた技術も社会には広がらない。
東京大学では今、その課題に挑む二つの研究が進んでいる。一つはコンクリートに固定されたCO₂を正確に測る技術。もう一つは水素を安全な液体として運ぶ技術だ。共通するのは、見えない価値を社会の中で流通可能にする発想にある。

「本当に減ったのか」を証明する。コンクリートが吸収したCO₂の正体を見分ける

近年、コンクリートにCO₂を吸収・固定する技術が世界的に注目されている。
セメント産業は世界のCO₂排出量の約7~8%を占めるとされ、建設分野の脱炭素化は避けて通れない課題だからだ。
しかし課題もあった。
コンクリートが吸収したCO₂のうち、工場排ガス由来なのか、大気中から取り込んだものなのかを正確に区別できなかったのだ。
東京大学大学院工学系研究科の研究チームは、この問題に炭素同位体比という手法で挑んだ。
化石燃料由来のCO₂には放射性炭素である14Cがほとんど含まれない。一方、大気中のCO₂には14Cが存在する。この違いを利用することで、固定されたCO₂の由来を特定できるようになった。
さらに研究チームは、混合ガス環境でも誤差が生じにくい新しい補正モデルを構築。従来より高い精度でCO₂固定量を測定できる「ものさし」を開発した。
脱炭素社会では、削減した量そのものだけでなく、その価値を証明できるかどうかが重要になる。
見える化されなければ、環境価値は市場で評価されない。
今回の研究は、カーボンクレジットや環境ラベルの信頼性を支える基盤技術になりそうだ。

再エネを“液体化”する発想。水素をもっと身近なエネルギーへ

もう一つの研究は、エネルギーを運ぶ仕組みそのものを変えようとしている。
東京大学先端科学技術研究センターとARM Technologies、アイシンの共同研究チームは、グリーン水素を独自の液体水素キャリアに貯蔵し、製造から輸送、発電までを一貫して実証することに成功した。
水素は次世代エネルギーの本命候補とされる一方、扱いの難しさが普及の壁になってきた。
通常は高圧ガスにするか、マイナス253度まで冷却して液化する必要がある。設備コストや輸送コストも大きい。
今回の技術は、その常識を覆す。
開発された液体水素キャリアは常温常圧で液体状態を維持でき、水系で不燃性。高圧ガスにも危険物にも該当しない。
実証では、太陽光発電で製造したグリーン水素を液体に貯蔵し、相模原市から東京大学まで運搬。その後、電力として利用するところまで確認した。
いわば、水素を「燃料」ではなく「運べる液体エネルギー」として扱う発想だ。
もし大規模化が実現すれば、再エネ由来の電力を地域間で融通したり、災害時の電源として活用したりする道が開けるだろう。

脱炭素の主役は“裏方”になる――社会実装の壁を越える技術

脱炭素技術の歴史は、発明の歴史ではない。それは、社会実装の歴史だ。
太陽光発電も風力発電も、技術そのものは何十年も前から存在していた。しかし本格普及には送電網や制度設計、評価基準といった周辺インフラが必要だった。
現在のCCUSや水素も同じ段階にある。
CO₂を固定しても、その量を証明できなければ価値にならない。再エネを発電しても、運べなければ社会全体では使えない。
東京大学で進む二つの研究は、それぞれ異なる分野に見えながら共通点を持つ。
一つは「見えない炭素を測る技術」。
もう一つは「見えないエネルギーを運ぶ技術」。
どちらも、脱炭素を社会の仕組みとして成立させるための基盤づくりだ。

次の競争は技術開発から社会実装へ

2050年カーボンニュートラルに向けた競争は、新しい発電設備を作る段階から、その価値を証明し、流通させる段階へ移りつつある。
CO₂を測る技術は環境価値の市場を支える。
水素を運ぶ技術は再生可能エネルギーの利用範囲を広げる。
どちらも派手な未来技術には見えないかもしれない。しかし社会を変えるのは、しばしばこうした基盤技術だ。
見えない炭素を数えること。
見えないエネルギーを届けること。
東京大学で進む研究は、脱炭素社会の土台づくりが新たな段階に入ったことを示している。

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