地域のつながりの希薄化や孤立する子育て・介護の問題など、地域社会の課題が増大するなかで、こうした問題に取り組む新たな人材となる「社会教育士」。文部科学省はこの「社会教育士」制度を広く普及するため、特設サイトを開設し、多様なフィールドで活躍する事例を発信している。
「社会教育士」とは何か?
「社会教育士」は、地域課題の解決に向け、行政、企業、NPOなどの多様な場所で活躍する専門人材。文部科学大臣の委嘱を受けた大学等の教育機関が実施する講習や大学での養成課程を修了した者に授与される称号で、地域社会をより良くするための学びと連携の場を提供する役割を担っている。近年、地域のつながりの希薄化や高齢化、空き店舗の増加、国籍や障害の有無による分断などが課題として顕在化し、地域社会での人材の需要が高まっている。
「社会教育士」は、地域で生活する人々の孤立を防ぎ、多様な人々と協働しながら、共生社会を築くための学習の場を創出する。防災や福祉、観光、まちづくりなど多岐にわたる分野で、その専門的な知識を活かして活動することが求められている。
社会福祉士・三瓶裕美さんの取り組み
元地域おこし協力隊員であり、社会教育士の称号を取得した三瓶裕美さんの取り組みは、地域づくりと教育の連携が重要であることを示している。東京から島根県雲南市に移住後、地域おこし協力隊として活動を始め、農業や民泊事業、カフェの運営、さらには地域内外での教育支援活動にも携わる。三瓶さんは、「足し算の支援」としての「寄り添い型支援」が地域の主体性を育てる上で重要だと考えている。また、地域の教育や交流拠点としての役割を果たす「つちのと舎」を設立し、地元の人々や移住希望者と積極的に関わり、地域の魅力を再発見する場を提供している。社会教育士の講習を経て、地域おこし活動の一環として教育の視点を取り入れた支援の大切さに改めて気づき、現在は地域おこし協力隊のサポートデスクでの相談業務に従事しながら、教育がもたらす地域づくりの力を実践している。
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浦幌町・地域おこし協力隊の挑戦
北海道浦幌町で活動する地域おこし協力隊員、古賀詠風さんと上野結子さんは「教育」と「地域づくり」に取り組んでいる。彼らは「うらほろスタイル」という官民連携事業の一環で、「高校生つながり発展事業」を通じて地元中高生の探究的な学びを支援する。浦幌町には高校がないため、生徒たちは町外に進学するが、地元との繋がりを維持したいと「浦幌部」という自主活動を立ち上げ、地域に貢献する活動を行っている。古賀さんと上野さんは、社会教育士の資格を活かし、地域の教育環境を広げる支援を行い、地域おこし協力隊員として過度な支援を避けつつ、生徒が自ら学びを深める「伴走者」としての役割を果たしている。この活動を通じ、地元の若者が未来への肯定感を持てるような地域づくりに貢献している。
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全国で開講される社会教育士養成講座
文部科学省の取り組みにより、「社会教育士」養成講座が全国で開設されている。社会教育士養成課程は、コーディネート力、ファシリテーション力、プレゼンテーション力など、地域課題に取り組むために必要なスキルを提供している。2024年度の講習は全国6機関で開講され、受講定員は392名とされている。また、社会教育士の資格を得るための要件を満たす既存の養成課程も全国の108大学で実施されている。
「社会教育士」は地域社会に新しい可能性をもたらし、多様な人材が地域の課題解決に貢献する未来を築く鍵となるだろう。文部科学省は引き続きこの制度の普及と啓発に取り組み、社会教育士の活躍が多様な地域で見られることを目指している。