★ここが重要!

★要点
白鶴酒造が、醸造工程で出る“発酵由来CO2”を回収して室内栽培に回し、そのバジルを原料に使った限定酒「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.15 ホップ&バジル」を2026年1月17日から資料館で263本だけ販売する。
★背景
脱炭素は「減らす」だけでなく「回して使う」局面に入った。だがCCU(CO2回収・利用)は、エネルギー負荷や会計ルールまで含めて“本当に効くのか”が問われる。だからこそ、身近な食品の現場で小さく実証し、体験として伝える試みが増えている。

CO2は“悪者”として語られがちだ。しかし現場を覗けば、CO2はただの廃棄物ではなく、うまく扱えば資源にもなる。白鶴酒造が出した答えは、醸造所から出る発酵由来CO2を植物栽培に回し、その植物をふたたび酒の原料にして戻すという循環型ものづくりだった。限定263本。希少性で釣る企画に見えて、実は「脱炭素を生活の味覚に落とす」実験でもある。

“発酵の息”を閉じ込めて、バジルを育てる。CO2は捨てずに回す時代へ

日本酒づくりでは、糖化・発酵の過程でCO2が必ず出る。白鶴はその発酵由来CO2を捕集・濃縮し、隣接する小型室内農業装置に送り、バジル栽培に使ったという。育ったバジルは、純米大吟醸のもろみにホップとともに加え、搾って「No.15 ホップ&バジル」に仕立てた。CO2→植物→酒。流れが一本につながる構図だ。
ここで重要なのは、話が“理念”で終わっていない点だ。CO2利活用は、壮大な技術の話になりやすい。一方で、醸造所の排出は比較的純度が高く、回収・利用の実証と相性がいいと言われる。実際、白鶴はスタートアップのスパイスキューブと、兵庫県のオープンイノベーション枠で2025年4月から実証に取り組んできた。机上ではなく、現場で回す。そこに価値がある。

“限定263本”が意味するもの。小さな実験を、体験価値に変える設計

「No.15」は720mlで税込7,700円、販売は白鶴酒造資料館のみ、数量は263本。ホップの爽やかさに、バジルのエスニックな香りを重ねるという。要するに、飲み手は“循環”を味と香りで体験する。これがいまの時代のうまい伝え方だ。
脱炭素は数字だけでは広がらない。生活者にとっては遠いからだ。そこで効いてくるのが、クラフトの文脈である。白鶴は資料館内にマイクロブルワリーを設け、少量・一期一会の酒づくりに挑戦しているという。技術実証を「研究」ではなく「商品」に落とし、さらに「見に行ける場所」で売る。脱炭素を“手触り”に変える導線が作られている。

CCUは免罪符ではない、「どれだけ効いたか」を問う入口に立つ

とはいえ、CO2を使えば自動的に環境に良い、という話でもない。回収・濃縮に電力が要るなら、その電力の由来次第で効果は揺れる。室内栽培もまた、設備とエネルギーが要る。循環型ものづくりが本当に環境負荷を下げたかは、LCA(ライフサイクル評価)で確かめるべき領域だ。
だからこそ今回の取り組みは、“完成形の成功物語”というより、検証のスタート地点として読むのが妥当だろう。いま世界は、脱炭素を進めながらも、クレジットや国際会計のルール整備が追いつかない局面にある。削減の価値を誰が持つのか、二重計上をどう防ぐのか。企業の投資判断を左右する「ルールの読み解き」が重要になっている。酒蔵の小さな循環も、やがてはそうした大きな枠組みと接続していく。

“発酵”は地域資源だ。酒蔵が循環のハブになる未来

日本酒は、土地の水と米と微生物でできる。そこに「副産物としてのCO2」を資源化する発想が加わると、酒蔵は単なる製造拠点ではなく、地域の循環を回すハブになり得る。例えば、回収したCO2でハーブや野菜を育て、飲食や観光とつなげる。廃棄物処理ではなく“地域の価値創出”へ寄せていく設計だ。
そして、この手の循環は「大規模で一発逆転」より、「小さく回して、学習して、増やす」が強い。白鶴の263本は、規模で世界を救う酒ではない。だが、循環を生活の言葉に翻訳する装置としては十分に鋭い。飲み手の口の中で、CO2が“資源のストーリー”に変わる瞬間がある。

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