★ここが重要!

★要点
京都市立芸術大学が、シンガポール拠点のアーティスト、ロバート・ザオ・レンフイによる個展「アフター・コントロール」を開催。都市開発や河川改修、観光開発によって変容した環境を題材に、人間と自然の複雑な関係を可視化し、“管理”を前提としてきた近代的な自然観を問い直す。
★背景
気候危機や生物多様性の損失が深刻化する中、世界では「自然を守る」だけではなく、人間もまた生態系の一部として共存する視点への転換が進む。都市再開発や環境制御が進む京都という土地は、その変化を映し出す象徴的な舞台となっている。

「自然を守る」という言葉には、どこか人間中心的な響きがある。制御し、分類し、管理する主体としての人間。その構図を揺さぶる展覧会が、京都で開催されている。
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(京都府京都市下京区)で開催中の、シンガポール出身アーティスト、ロバート・ザオ・レンフイによる個展「アフター・コントロール」。作品群が見つめるのは、野生そのものではない。都市開発、河川改修、観光地化、放棄――人間の介入を経た後に、それでもなお息づく生態系の姿だ。
自然と人工の境界が曖昧になった時代、人間はどこまで自然を“コントロール”できるのか。その問いが、京都という都市空間の中で立ち上がる。

河川改修と再開発――京都という都市そのものが“アフター・コントロール”を映す

会場となる 京都市立芸術大学 は、鴨川と高瀬川に隣接するエリアに位置する。鴨川は、かつて氾濫を繰り返した暴れ川だったが、戦後の大規模河川改修によって現在の穏やかな景観へと整備された。一方、高瀬川は江戸時代に人工的に開削された運河だ。
京都の景観は、“手つかずの自然”ではない。人間による制御と編集の積み重ねによって形づくられてきた都市風景だ。
展示室の外では、京都駅周辺の再開発が進む。新築ビル、工事現場、空き地、老朽化した建物。それらが混在する光景は、ザオが世界各地で観察してきた“管理された自然”と重なり合う。
展覧会タイトル「アフター・コントロール」は、制御の“後”に現れる風景を意味する。完全に管理された都市など存在しない。人間の介入によって変化した環境の中で、新たな生態系が絶えず生まれているからだ。

“野生”はどこにあるのか――人間活動の中で変化する生態系

ザオの作品がユニークなのは、“失われた自然”への単純なノスタルジーに寄りかからない点にある。
本展では、オーストラリア領クリスマス島、シンガポール、東京、インド・ハンピ、タイ・プーケットなどでの長期調査に基づく作品群を展示。観光開発や都市化、規制、放棄によって変化した土地で、動物たちがどのように適応し、生き延びているかを観察している。
たとえば、放棄された人工施設で水を飲む鳥。人工構造物の隙間に形成される小さな生態系。そこには、人間が“壊した自然”ではなく、人間活動を含み込みながら変化し続ける環境の姿がある。
近年、「Anthropocene(人新世)」という概念が広がっている。人類の活動そのものが地球環境を規定する時代という考え方だ。気候変動や森林火災、生態系破壊が進む一方、人間と自然を完全に切り分ける発想そのものが、現実に合わなくなりつつある。
ザオは、自然と人工の境界線を曖昧にしながら、「自然とは何か」という問いを静かに投げかける。

“不確実性”と共に生きる――制御中心の価値観からの転換

コロナ禍、異常気象、エネルギー危機。世界は近年、「制御不能」という現実に繰り返し直面してきた。
その中で、環境思想も変化している。かつて中心だったのは「自然保護」だった。しかし現在は、「共生」や「リジェネラティブ(再生型)」といった概念が広がりつつある。自然を完全に支配するのではなく、不確実性を受け入れながら関係を編み直す発想だ。
ザオの作品に登場する動物たちは、人間がつくった環境を利用しながら生きている。都市は自然を排除する存在であると同時に、新しい生態系の舞台にもなっている。
今回の個展タイトル「アフター・コントロール」は、“管理された後”だけではなく、“管理中心の価値観の後”という意味にも読める。
自然を支配対象として捉える時代は、変わり始めているのかもしれない。

芸術は“未来の視点”をつくれるか――観察から始まる環境との向き合い方

環境問題を扱うアートは少なくない。しかしザオの作品は、危機を声高に訴えるのではなく、「世界の見え方」を変えることに重心を置いている。
ザオは、自身が設立した「The Institute of Critical Zoologists(批判的動物学研究所)」を通じて、生態学と表象の政治性を探究してきた。科学的観察、フィールドワーク、映像、出版、インスタレーションを横断しながら、人間中心的な自然観そのものを問い直している。
情報が溢れる現代では、“知っている”ことと、“理解している”ことは違う。環境問題も同様だ。重要なのは知識量ではなく、世界をどう見るかという視点の更新なのだろう。
アートは答えを提示しない。しかし、未来を考えるための“見方”を変える力を持っている。

施設情報
展覧会名:ロバート・ザオ・レンフイ「アフター・コントロール」
会期:2026年5月16日(土)~7月12日(日)
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜日
入場料:無料

展覧会詳細:
https://gallery.kcua.ac.jp/archives/2026/15093/

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