★ここが重要!

★要点
人口が減るなかで、家庭から出る汚水をどう処理し続けるかが、自治体の重い課題になっている。
国土交通省・農林水産省・環境省が2026年8月24日に公表した令和7年度末の汚水処理人口普及率は94.0%。それでも約740万人が汚水処理施設を使えない状況にあり、人口5万人未満の市町村の普及率は85.1%と全国平均より低い。国は「集合処理」と「個別処理」の最適化を進めるとしている。
個別処理の柱である浄化槽は全国に約743万基(令和6年度末)あるが、そのうち約329万基は、トイレの汚水しか処理できず台所や風呂の排水をそのまま流す「単独処理浄化槽」だ。法律で義務づけられた定期検査の受検率も50.9%にとどまり、依然として約半数が受検していない。
環境省は10月28日、長野市で市町村長らを対象とした「浄化槽トップセミナー」の開催を案内しており、「人口減少時代における浄化槽の役割と課題」などをテーマとする講演が予定された。下水道の老朽化が注目されるなか、もう一つの水インフラである浄化槽の現在地を読み解く。

★背景
日本の汚水処理は、まちの汚水を管でまとめて処理場に運ぶ「下水道」などの集合処理と、家ごとに浄化槽を置いて処理する個別処理の組み合わせで支えられてきた。
人口が集まる都市では下水道が効率的だが、家がまばらな地域で長い管を引けば、建設と維持にかかる費用は一人あたりで大きくなる。人口が減れば、その負担はさらに重くなる。2025年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故以降、下水道管の老朽化への関心も高まった。
どの地域を下水道で、どの地域を浄化槽で処理するのか。その線引きを人口減少に合わせて見直し、すでにある浄化槽をきちんと手入れしていくことが、地域の水環境と財政の両方を守る鍵になっている。

台所で洗い物をした水、お風呂の残り湯、トイレの汚水。
毎日流している水が、その先でどう処理されているかを意識することは少ない。
下水道が来ていない地域では、その役目を家ごとの浄化槽が担っている。
ところが、浄化槽の中には、トイレの汚水しか処理できない古い型が今も数多く残る。
法律で義務づけられた定期検査を受けていない浄化槽も少なくない。
人口が減り、下水道を延ばすことも維持することも難しくなる時代に、家の敷地に埋まった小さな処理施設をどう見直すのか。
数字と制度から、もう一つの水インフラの手入れを考える。

普及率94.0%、それでも約740万人――汚水処理の地域差

国土交通省・農林水産省・環境省が2026年8月24日に公表した調査によると、令和7年度末の全国の汚水処理人口普及率は94.0%で、前年度末の93.7%から0.3ポイント上がった。汚水処理施設を使える人は1億1,602万人いる。
内訳は、下水道が1億141万人(82.2%)、農業集落排水施設等が276万人(2.2%)、浄化槽が1,171万人(9.5%)、コミュニティ・プラントが14万人(0.1%)。浄化槽は、下水道に次ぐ汚水処理の担い手だ。
一方で、約740万人はまだ汚水処理施設を使えない状況にある。人口5万人未満の市町村の普及率は85.1%で、前回調査から0.6ポイント上がったものの、全国平均には届いていない。
国は今後も、自治体が地域の実情に応じて「人口減少時代に即した、『集合処理』と『個別処理』の最適化」を図れるよう支援するとしている。
なお、この普及率は汚水処理施設を利用できる人口の割合を示す指標で、各家庭から出る水の処理状況や、浄化槽が適切に維持管理されているかまでを示すものではない。

国土交通省ホームページより

約743万基のうち約329万基が「単独処理」――浄化槽の現在地

浄化槽には2つの種類がある。トイレの汚水と、台所・風呂・洗濯などの生活雑排水をまとめて処理する「合併処理浄化槽」と、トイレの汚水だけを処理する「単独処理浄化槽」だ。単独処理浄化槽の家では、生活雑排水は処理されないまま側溝や川に流れる。単独処理浄化槽の新設は2001年4月から原則として禁止されているが、それ以前に設置されたものが今も使われている。
環境省が2026年2月に公表した調査によると、令和6年度末の浄化槽の設置基数は7,433,857基。このうち合併処理浄化槽は4,143,246基で前年度より45,081基増えた一方、単独処理浄化槽は3,290,611基で66,872基減った。単独処理浄化槽はなお全体の約44%を占める。
令和6年度の合併処理浄化槽の新規設置は84,377基で、そのうち窒素やりんも除去できる高度処理型は68,612基(約81%)だった。新規設置される合併処理浄化槽の約8割を高度処理型が占めている。課題は、すでに埋まっている古い単独処理浄化槽をどう置き換えるかだ。

浄化槽の設置基数
環境省ホームページより

受検率50.9%――半数近くが受けない法定検査

浄化槽は、置いただけでは水をきれいにできない。中の微生物の働きを保つため、保守点検や清掃を定期的に行い、浄化槽法に基づく定期検査(11条検査)を年に1回受けることが、浄化槽の管理者に義務づけられている。
ところが、令和6年度の11条検査の受検率は50.9%で、前年度から1.1ポイント上がったものの、依然として半数近くが受検していない。合併処理浄化槽に限っても67.2%にとどまる。使用開始後に行う水質検査(7条検査)の受検率が97.2%に達しているのとは対照的で、使い始めたあとの継続的な検査が十分に定着していない実態がうかがえる。
日常の維持管理も同じ課題を抱える。令和6年度の保守点検の実施率は74.5%、清掃の実施率は65.9%だった。
下水道の管は自治体などが管理するが、個人の敷地にある浄化槽の管理は、原則としてその家の人が担う。維持管理や検査が行き届かない浄化槽が増えれば、地域の水環境への影響は見えにくいまま広がっていく。

古い浄化槽を減らす制度――2019年の浄化槽法改正

こうした課題に対応するため、2019年6月に浄化槽法が改正され、2020年4月1日に施行された。
改正法では、そのまま放置すれば生活環境の保全や公衆衛生に重大な支障が生じるおそれのある古い単独処理浄化槽を「特定既存単独処理浄化槽」とし、都道府県知事が除却などの措置を求められる仕組みを設けた。あわせて、浄化槽の設置状況や点検・清掃の実施状況をまとめる浄化槽台帳の整備、市町村が浄化槽を設置・管理する「公共浄化槽」の制度、浄化槽処理促進区域の指定、関係者による協議会の設置なども定めた。
台帳で地域の浄化槽の状態をつかみ、古いものから計画的に置き換え、行政が設置と管理の一部を担う。浄化槽を家ごとの設備としてだけでなく、地域で管理する水インフラとして扱う方向への転換だ。

長野で首長向けセミナー、同じ日に水道の検討会も

環境省は、10月28日に長野市で「令和8年度浄化槽トップセミナー長野」を開催すると案内していた。主な対象は市町村長や市町村議会議員など、地方自治体で政策を決める立場の人たちだ。
事前に公表されたプログラムでは、環境省浄化槽推進室長による「浄化槽行政の現状と課題」、総務省準公営企業室による「下水道事業の現状と課題等」、常葉大学名誉教授による「人口減少時代における浄化槽の役割と課題」、前兵庫県佐用町長による「市町村の持続可能な財政健全化に向けた浄化槽の役割」の4つの講演が予定されていた。地方公営企業の経営を所管する総務省の講演と並べ、財政の視点から汚水処理を考える構成だ。
同じ10月28日には、環境省の「水道における微生物問題検討会」の開催も予定され、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」の見直しなどが議題に挙げられていた。クリプトスポリジウムは塩素消毒が効きにくい病原微生物で、この指針は水道事業者が対策を講じる際のよりどころとなっている。汚水を処理する側と、水道水をつくる側。水の循環の両端で、ルールの点検が同じ日に予定されていた。

地域に合った汚水処理を選び直す

普及率94.0%という数字は、日本の汚水処理がほぼ行き渡ったことを示している。だがその内側には、全国平均に届かない小さな市町村、生活雑排水を流し続ける約329万基の単独処理浄化槽、約半数が受けていない定期検査が残っている。
人口が減る時代には、すべての地域に下水道を延ばすことが最善とは限らない。家がまばらな地域では浄化槽を、まちの中心部では下水道を。地域ごとに処理の方法を選び直し、選んだ設備を点検し、古くなったものを置き換えていく。
派手さはないが、地域の水を守るためのこうした地道な手入れこそ、人口減少時代のインフラに求められている。

【参考】

国土交通省・農林水産省・環境省:報道発表「令和7年度末の汚水処理人口普及状況について」(2026年8月24日発表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo13_hh_000756.html

環境省:報道発表「令和6年度における浄化槽の設置状況等について」(2026年2月20日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_02896.html

環境省:浄化槽法の一部を改正する法律について
https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/law/r01_law40.html

環境省:報道発表「環境省関係浄化槽法施行規則の一部を改正する省令等の公布について」(2020年2月7日発表)
https://www.env.go.jp/press/107718.html

環境省:報道発表「『令和8年度浄化槽トップセミナー長野』の開催について」(2026年10月20日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05726.html

環境省:報道発表「『令和8年度第1回水道における微生物問題検討会』の開催について」(2026年10月22日発表)
https://www.env.go.jp/press/press_05724.html

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